MVアグスタのスポーツDNAを継承するミドルスーパースポーツ「F3ロッソ」の軽快な走りを楽しむ|F3 RR

MVアグスタを代表するスーパースポーツといえば、750㏄から1000㏄へとスケールアップしていった直列4気筒のF4シリーズでした。しかし現在は、800㏄直列3気筒のF3へとバトンタッチしています。そんなF3シリーズのスタンダードモデルであるロッソに試乗してみました。

MVアグスタ・F3ロッソ……2,398,000円(消費税込み)

スムーズでトルク感のあるエンジンは街中でも高いパフォーマンスを発揮

 ご存知のように、MVアグスタはスポーツバイクのハイエンドモデルとして世界中から認知されています。何十年も前からそれは変わっていません。僕がMVアグスタを知ったのは50年ほど前のことです。どこでだったのかは覚えていませんが、まるでレーサーのようなバイクを都内で見かけたのです。近づいてみるとそこにはMVアグスタの文字がありました。MVアグスタ750Sアメリカというバイクがそれです。
 フルカウルを装備したレーシーなスタイル、左右2本ずつ伸びたマフラーを持つ空冷直列4気筒エンジン、そして真っ赤なボディがあまりにも美しく、その姿は鮮烈でした。さらに世界GPではG・アゴスチーニがMVアグスタで500㏄クラスを7回、350㏄クラスも7回タイトルを獲得しました。70年代にバイクの世界へと入った僕にとってMVアグスタは、つねにスポーツバイクの頂点にあるメーカーだったのです。
 以来、何度かMVアグスタのマシンに乗る機会に恵まれたのですが、先鋭的なスーパースポーツであるF3ロッソに今回試乗できることになり、久々に興奮してしまいました。
 ボディスタイリングはいかにも現代的なスーパースポーツデザインです。スチールパイプ製のトレリスフレームや水冷直列3気筒エンジンの組み合わせで、スリムでコンパクトなボディを実現しています。排気量は800なのですが、現在はミドルクラスに分類できます。750㏄が最上級の大型バイクだった当時を知る僕にとっては、隔世の感があります。
 830㎜の高さのシートに跨ってみると、トップブリッジ下部にセパレートハンドルがクリップオンされたレーシーなポジションですが、上体は前傾するものの窮屈なところはありませんでした。スポーツライディングに特化したものであることはまちがいありませんが、市街地や郊外へのツーリング程度なら十分に対応します。
上体はやや前傾するポジションだが、きつさはない。ステップとの位置関係も自然で、スポーツライディングだけじゃなく市街地走行にも十分に適応してくれる
シート高は830mmとまあ標準的。車体が軽量コンパクトなので取り回し性はいい
身長178cmのボクの場合、両足がベッタリと着く。前後サスの1Gの沈み込みもあって、足つき性は悪くない
 走りだしてまず思ったことが、「軽い!」ということでした。800㏄のバイクなのに400クラス、いや250クラスと変わらないほど動きが軽快なことに驚きました。外観からも想像する通り、マスの集中化が図られていて、実際に車重も173㎏に収められています。これは250㏄クラスと同等の重量です。これほど軽量でコンパクトなボディに、147hpの最高出力を発生するエンジンを搭載しているのですから速いのはまちがいありません。高速道路やワインディングでは自制心が必要でしょう。
 高回転高出力型の水冷DOHC4バルブ直列3気筒エンジンは、エンジンモードやトラクションコントロールなどがきめ細かく設定可能な高度な電子制御システムが導入されています。さらにフロントリフトコントロールによってウイリーを抑えて走りに安心感と安全性を高めています。この3気筒エンジンにもブルターレの4気筒エンジン同様に逆回転クランクが採用されています。MotoGPマシンではいまや常識となった仕組みですが、これによって加速時のウイリーを抑え、また強烈なブレーキング、シフトダウンによるエンブレでのリアのリフトアップも抑えられます。つまり、加減速でのピッチングが少なく高い操縦安定性と旋回性を生んでくれるというわけです。
 今回は市街地での試乗でしたが、そんな低い速度域でもこの高い安定性は生きてくれ、安心してアクセル操作することができました。基本的に高回転型のエンジンなので、低速域ではややトルクの線が細い印象ですが、アクセルレスポンスはスムーズで不安なく開けられる良さがありました。右側に取りまわされた3本のマフラーからは迫力あるサウンドが放たれますが、著しく音量が大きいとか耳障りな音質だとかといったネガなところはなく、絶えずパワーを感じながら走ることができるスポーツ心を刺激する演出です。
 軽量・スリム・コンパクトなボディは自在に扱える気にさせるほど素直で軽快なハンドリングを見せてくれます。マルゾッキ製フロントフォーク、ザックス製リアサスペンションとも、市街地走行の低荷重でも良好な作動性を示し、しっとりとした乗り味を提供してくれました。スーパースポーツモデルでは一般的に、サーキット走行を見据えてハードライディングに合わせたサスペンション設定がされていて、低速走行では硬い乗り味になりがちです。しかしF3ロッソはあらゆる速度域で適切なクッション性と減衰特性を発揮するようになっています。なのでまったく不快感なく走ることができました。
 タイトなカーブへの進入や、交差点を曲がるといった低速でのリーンも、変にフラツクことなく軽やかに向きを変えてくれます。今回は高速道路やワインディングを走行しませんでしたが、空力の良さでスピーディな高速走行ができるのは容易に想像できますし、ワインディングをスポーティに駆けるのも得意だということもわかります。いずれにしても、MVアグスタF3ロッソに初めて試乗した感想は、走るステージや乗り手の技量に関係なく、ハイスペックなミドルスーパースポーツのパフォーマンスを味わえるということでした。

ディテール解説

798ccの水冷4スト直列3気筒エンジン。147hp/13,000rpmの最高出力と8.98kg・m/10,100rpmの最大トルクを発揮。エンジンモードは、SPORT/RAIN/RACE/CUSTOMの4モードに切り替えられる。トラクションコントロール、コーナリングABS、フロントリフトコントロールと連動制御するシステム
Φ320mmフローティングディスクにブレンボ製4ピストンラジアルマウントキャリパーを装備したフロントブレーキ
リアサスペンションにはザックス製のモノショックを採用。減衰力調整、プリロード調整が行えるフルアジャスタブル式
フロントカウルにビルトインされたヘッドライトは、MVアグスタの個性を表現した形状の1灯式。ハロゲンランプを使用している
クイックシフターが装備。タッチが良くギアの入りも確実だ
マルゾッキ製倒立フロントフォークはフルアジャスタブル式
右側に3本出しされたマフラーは、消音しながらも迫力あるサウンドを放つ。テールエンドは異形スクエア形状と独特で、トルク特性向上のため内部構造を見直している
リアサスペンションは片持ち式スイングアームを採用している。アルミ鋳造のホイールは前後17インチで、ピレリタイヤを装着する
片持ち式スイングアームにモノショックを組み合わせたリアサスペンションシステム。ブレーキはΦ220mmローターにブレンボ製2ピストンキャリパーを装備する
テールランプ、ウインカーランプはLEDを採用。アグレッシブなスタイル構築に一役買っている
リアシートをボディカラーに合わせて赤にしてシングルシーター風にデザインされたシートは、スポーツライディングに最適
モード切り替えなどの操作はすべて手元スイッチで行う
フルデジタル式のメーターには、フルカラーのTFTディスプレイを採用。多彩なインフォメーション機能があり、昼夜を問わず視認性も良好。専用のアプリを導入することでスマートフォンと連携するシステム

著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…