KTM・1290スーパーアドベンチャーS/R は、凶暴じゃない、フレンドリーな1300ccアドベンチャーでした。

KTMのトラベルエンデューロ、1290スーパーアドベンチャーが2021年にフルモデルチェンジを実施した。基本骨格であるフレームとスイングアームを一新するとともに、160psを発揮する1,301cc水冷75度V型2気筒〝LC8〟エンジンを改良。オンロード寄りの〝S〟はついにアダプティブクルーズコントロール(ACC)を導入するなど電脳化を促進し、オフロード指向の〝R〟はWPの前後サスを再設計して悪路での走破性を高めてきた。茨城県にある日本自動車研究所で行われた試乗会でのインプレッションをお届けしよう。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
問い合わせ●KTMジャパン(https://www.ktm.com/ja-jp.html)

2021年6月14日に掲載した記事を再編集したものです。
価格や諸元、カラーバリエーションが現在とは異なる場合があります。

KTM・1290スーパーアドベンチャーS……2,390,000円

KTM・1290スーパーアドベンチャーR……2,590,000円

フロント19インチ、リヤ17インチのアルミキャストホイール、オンロード向きの標準装着タイヤ、前後分割式シート、ロングスクリーンなどがSの外観上の特徴だ。車体色は写真のオレンジのみを用意する。
こちらはRで、フロント21インチ、リヤ18インチのワイヤースポークホイール、オフロード向きのブロックタイヤ、前後一体式シート、ショートスクリーン、エンジンガードなどがSとの相違点だ。車体色はブルー×ホワイト×オレンジ。
フロント19インチ、リヤ17インチのアルミキャストホイール、オンロード向きの標準装着タイヤ、前後分割式シート、ロングスクリーンなどがSの外観上の特徴だ。車体色は写真のオレンジのみを用意する。
こちらはRで、フロント21インチ、リヤ18インチのワイヤースポークホイール、オフロード向きのブロックタイヤ、前後一体式シート、ショートスクリーン、エンジンガードなどがSとの相違点だ。車体色はブルー×ホワイト×オレンジ。

Rの試乗車も〝テックパック〟仕様となる。ただし、Rはセミアクティブサスを採用していないので、左のSのメニューからサスペンションプロを除いた内容となり、工賃を除く追加費用は¥130,994に設定される。
試乗車はラリーパックやサスペンションプロ、モータースリップレギュレーション(MSR)、ヒルホールドコントロール(HHC)、クイックシフタープラス、アダプティブブレーキライトなどを追加装備した〝テックパック〟仕様で、工賃を除く追加費用は¥162,081。

悪天候だからこそ見えてきた基本性能の高さと電子制御の先進性

 

5月下旬に開催されたKTMジャパンの試乗会当日。予報通り降り出した雨は、時間が経つにつれて尋常ならざる量となった。そんな劣悪なコンディションにもかかわらず、私は日本自動車研究所の周辺にあるのどかな田舎道を、まるで晴天時と変わらないペースのままリラックスした気持ちで走っていた。乗っているのは新型の1290スーパーアドベンチャーS。160psを発揮するこのトラベルエンデューロは、恐ろしいまでに何も起きないのだ。

1,301ccの水冷75度Vツインエンジンは、スロットル開け始めのレスポンスが非常に優しく、しかもφ108mmというビッグボアでありながら、2,000rpmでトコトコと走れてしまうというフレキシブルさを持つ。スロットルの開け方次第では圧縮比の高さを思わせる快活な吹け上がりを見せるものの、常に右手の動きに対して従順であり、さらに大排気量Vツインとは思えないほどに微振動が少ない。大雨の中、わざとスロットルを急開してリヤタイヤのスライドを誘発しようとしても、MTC(モーターサイクル・トラクション・コントロール)が適切に介入してくれ、交差点の右左折のような小さなターンですら何ごとも起きず、ただフロントタイヤの向いた方へとスムーズに前進する。

第2世代へと進化したWPのセミアクティブサスペンションも素晴らしい。サスペンションモードはコンフォート/ストリート/スポーツの3段階で、それぞれで明確に乗り心地やハンドリングが変化する。特にコンフォート時のホイールトラベル量を最大限に生かしたような快適性は、各社が採り入れているスカイフック理論を彷彿させるものだ。なお、試乗車はサスペンションプロというオプションを装備した仕様で、このセミアクティブサスの内容がさらに高度になっている。具体的には、ハイ/スタンダード/ローという3種類のシート高をベースとした自動プリロード調整機構や、オフロード/オート/アドバンスドという3種類のサスペンションモードの追加などだ。個人的に興味があったのはアンチダイブ機構で、これをオンにするとBMWのテレレバー並みにフロントブレーキ作動時のノーズダイブが減少する。一方、路面からの突き上げに対してはオン/オフとも同様にショックを吸収するので、これぞ電子制御サスの成せる業だと感じた。

3分割構造の燃料タンクは幅が適度に広く、下半身の防風効果にも大きく貢献している。また、ダイヤルを回すだけで簡単に高さを調整できるウインドスクリーンは、上端が適度に反り上がっているため雨粒がヘルメットに直接当たりにくい。結果、こんな大雨の中でも走っている限りはライダーは風雨から守られ、しかもエンジンやサスの電子制御が優秀とくれば、私がリラックスして走れるというのも納得していただけるだろう。


オフロードが不得手なライダーすらもとことんサポート

続いて、よりオフロード指向の1290スーパーアドベンチャーRに乗り換える。試乗枠の都合により日本自動車研究所内の悪路試験場での走行のみとなったが、それでもこんなに乗りやすいのかと驚かされた。

中段回し蹴りのように足を大きく振り上げてまたがり、大雨の中恐る恐るスタートすると、まず感じるのがマスの集中感だ。スペック上ではSに対してRは1kgしか軽くないが、セミアクティブサスを省略した分、重心から遠い部分の重さが減ったのかもしれない。シート高が高い=視点が高い上にショートスクリーンなので視界が広く、さらに大径ホイールとブロックタイヤによる操舵の手応えは本格デュアルパーパスのそれなので、Sとの乗り味の違いは想像以上に大きい。

すでにたっぷりと雨水を含んだ悪路試験場に入る。こぶし大の石と土が混じったスリッピーなエリアであり、オフロード走行が不得手な自分には愛車のセローですら躊躇するようなシチュエーションだ。とりあえず最も穏やかなライディングモードで走り始める。すると、意外なほどスムーズに進めることに驚いた。エンジンはSと共通なので、スロットル開け始めの優しさが全ての場面で安心感を生んでいる。ぬかるんだ上り坂も、狭角Vツインのトラクション性能のおかげで2,000rpm付近の低回転域ですらググググッと進んでくれる。悪路試験場のストレートでスロットル開度を一定にしたまま加速すると、エンジンの出力が自動的に制御され、リヤタイヤがわずかにスネーキングしながらもスルスルとスピードを上げる。カメラマンによると、リヤタイヤは一つの石すらも蹴り出さなかったというから、それだけトラコンが緻密に介入しているということだろう。

試乗時間が短かったので、6軸の慣性計測センサーがどのようにABSやトラコンの制御を変化させるのかなど、電子制御についてさまざまなことを試せたわけはないが、かなり高度であろうことは実感できた。サスペンションの動きはSとは異なりストロークの奥までナチュラルであり、またSで走ったフルウェットの舗装路よりもRで走った悪路の方がクロモリフレームのしなやかさが伝わりやすいと感じた。このマシンのポテンシャルを存分に引き出せるシチュエーションは日本にはあまりないだろうが、ことオフロード性能においてはライバルに対して完全に抜きん出ていると言っていいだろう。

なお、新型1290スーパーアドベンチャーSに初採用されたアダプティブクルーズコントロール(ACC)については、試験路でのテストにおいてかなり実用的であることが確認できたので、これのみを単独の記事にしてお伝えしたいと思っている。乞うご期待。



ライディングポジション&足着き性(175cm/64kg)

ハンドル位置はやや遠めに感じるが、これはスタンディング姿勢との兼ね合いから。アルミ製テーパードハンドルバーはクランプ位置で前後に2段階、ステップバーも対角線上に10mm動かすことが可能だ。
こちらはR。ハンドルバーやステップの位置は基本的にSと共通で、着座位置が高い分だけ膝の曲がりが緩やかになる。シート高は従来モデルより10mm低い880mmを公称。ただし足着き性は決していいとは言えない。
こちらのかかとのアップ2枚の写真はどちらもSで、シートを低い方(849mm)にセットした状態だ。リヤのプリロードアジャスターを0%にしたのが左で、100%が右となる。足着き性に大きな差が出ることが分かるだろう。
ちなみに、ライダー1名乗車で荷物の積載がない場合、体重75kg以下ならプリロードは0~20%、85kgなら30%が目安だという。さらに、オプションのサスペンションプロを選択すると、シート高をハイ/スタンダード/ローの3種類から選べるほか、それぞれの中でプリロードを自動調整してくれるのだ。

ディテール解説

新たにユーロ5に適合した1,301cc水冷75度Vツインエンジン。軽量化されたクランクケース、パンクル製の新型6速ミッション、F1の技術を投入した鍛造ピストンなどを新採用。エアクリーナーボックスも再設計され、タンクキャップの前にある収納コンパートメントを外すだけでフィルターが交換できるようになった。
低重心化に貢献する3分割構造の燃料タンクも新設計に。これにより23ℓという容量はそのままにニーグリップエリアのスリム化を達成している。
特徴的なクロモリ鋼スペースフレームは、ステアリングヘッドをライダー側へ15mm近付けたり、シート高を11mm下げられるようにするなど新設計となっている。エンジン搭載角を2度前傾させ、前輪分布荷重を増やしているのもポイントだ。シートレールは15mm延長しつつさらに高剛性に。
ステンレス製のエキゾーストシステムも新設計となっている。アルミダイキャスト製のオープン格子スイングアームは15mm延長しており、新設計フレームと合わせてシャープなコーナリングと加速時の安定性を両立。
Sはフロント19インチ、リヤ17インチのキャストホイールを採用。標準装着タイヤはチェコのMITASがS専用に開発したものだ。ABSはボッシュ製2チャンネル10.3 MEが採用されている。WPのセミアクティブサスは第2世代であり、新開発のサスペンション・コントロールユニットをはじめ、新型のプリロードモーターユニットやデジタルストロークセンサーなどを導入。
Rはフロント21インチ、リヤ18インチのワイヤースポークホイールを採用。AKRONTのアルミリムはチューブレスに対応。WP製のφ48mmXPLORフォークおよびXPLORリヤショックはフルアジャスタブルだ。標準装着タイヤはブリヂストンのAX41。ブレーキセットはABSまで含めてSと共通となっている。
S、Rとも耐擦傷性7インチTFTディスプレイを採用。各種設定画面では緻密なイラストが合わせて表示されるので非常に分かりやすい。ブルートゥースを介してスマホを接続することも可能だ。
コーナリングランプを組み合わせたLEDヘッドライト。Sはそのセンター下部にACC用の中距離レーダーセンサーを埋め込んでいる。
S、Rとも左右のスイッチボックスは共通だ。メーター画面に表示される項目の変更はほぼ左側にある6方向スイッチキューブで行う。ウインカーは10秒間の移動および150m走行ごとに消灯するオートキャンセル式だ。
ライド・バイ・ワイヤーを採用するためスロットルケーブルが存在しない。セル&キルスイッチのデザインがどことなくヘッドライトに似ている点に注目。
Sは前後分割式シートを採用。シートロックの解錠もキーレスとなり、スマートキーを持っていればボタンを押すだけでタンデムシートが取り外せる。
Rは前後一体型シートとなる。グラブバーやリヤキャリアなどはSと共通だ。

1290スーパーアドベンチャーS/R 主要諸元

軸距(mm) 1,557±15〔1,577±15〕
最低地上高(mm) 223〔242〕
シート高(mm) 849/869(調整式)〔880〕
乾燥重量(kg) 220〔221〕
乗車定員(人) 2
燃料消費率(L/100km) 5.7
エンジン種類 水冷4ストロークDOHC4バルブ75°V型2気筒
総排気量(cm3) 1,301
内径×行程(mm) 108×71
最高出力(kW[PS]/rpm) 118[160]/9,000
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) 138[14.1]/6,500
潤滑方式 3ポンプ式オイル圧送潤滑
燃料タンク容量(L) 23
クラッチ形式 PASC(TM)スリッパークラッチ、油圧操作式
変速機形式 常時噛合式6段リターン
チェーン 525X-Ring
キャスター角(度) 65.3〔64.7〕
タイヤ
 前 120/70ZR19〔90/90-21〕
 後 170/60ZR17〔150/70-18〕
ブレーキディスク径(mm) 前 320、後 267
ホイールトラベル量 前 200〔220〕、後 200〔220〕
フレーム形式 クロモリ鋼スペースフレーム、パウダーコート塗装

製造国 オーストリア
※〔 〕内はR

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…