モトチャンプでバイク雑誌に携わるようになった筆者は、本来4輪雑誌をメインにしてきた。今と違い東京の明治通りより内側に住んでいたものだからクルマ趣味は置き場所のこともあって難しいけれど、バイクは長く続けてきた趣味だった。大型としてはCBX750Fの後にドゥカティ・モンスター900のキャブ最終モデル→同SS1000DS→同モンスターS4と乗り継いできたが、現在の場所(新宿まで車で2時間の僻地)へ転居する前に大型バイクは手放していた。置き場所に困らなくなった今ではプロフィールにもあるよう原付ばかりが5台も車庫に収まり、我ながら断捨離せねばと考えていた。好事魔多しとはこのことで、2台ほど手放すことを周囲に伝えると昔のベスパ仲間が自宅へやってきた。しかもハーレー・ダビッドソン1200XLで。その彼から「もう一度乗りなよ」と言われハーレーにまたがってみた。もうお察しだろう、この時「大型リターンしちゃおう」と考え始めたのだ。
大型リターン宣言は過去に当サイトで記事になった大型バイク購入期も関係している。この記事を書いた山崎さん、実は筆者が過去に在籍した職場の先輩でもある。先輩が最後のバイクライフを始めると宣言して大型バイクを手に入れた。確かに記事にあるよう筆者も50歳を境に視力がさらに悪化して老眼まで厳しくなった。前回の免許更新時の検査で暗いところから明るいところへ出る場合や、その反対においても順応速度が遅いと指摘されている。だから大型リターンするにしても、あまりに激しい性能は求めず一般的な速度域で楽しめるモデルが良いと考えた。実は随分と前に初代が発売された時から気になっていた存在がある。モトグッツィV7ストーンだ。そこで情報を検索してみると、さらに当サイトのことで恐縮だがこんな記事が紹介されている。2021年にエンジンが切り替わり非常に魅力的な存在へ成長していたのだ。そこで都内の新車ディーラーへ行って話を聞いてみた。すると現在納車しているのは半年以上前に契約したもので、これから契約してもロシアがウクライナへ侵攻したことが影響していつ日本に届くかわからないというのだ。そこでヤフオク!を中心に中古車を探してみるも、イマイチ納得できる個体が見つからない。
モヤモヤしていた頃、この記事のために東京の調布市へ取材に向かった。無事に取材を終え編集部の山田と軽く打ち合わせた後、次の打ち合わせまで2時間ほど間がある。さて、どうしたものかとスマホで地図アプリを開くと、目と鼻の先にレッドバロン府中店がある。時間潰しに行ってみて、V7が置いてあればラッキー!と向かってみたがそんなムシの良い話があるわけない。ガッカリしたまま店舗から出て何気なく店の外に並んだバイクたちを眺めると、一番奥に赤いスタイリッシュなバイクがある。「ブルターレかな」と近づくと予想は的中。ちょっと前のモデルだが、久しぶりに見るとカッコいい!
この時点で買う気はゼロ。というのもここで見つけた2012年発売のブルターレR1090はシート高が830mmもある。短足オジサンでは歯が立たないとハナから諦めていた存在なのだ。でもまぁ、試しにとばかり跨ってみるとアラ不思議。両足ともに土踏まず付近まで接地している感触がある。「これはもしや、乗れるんじゃ?」と考えを改めることに。続いてプライスを見てさらにビックリ。とても安いのだ。しかもこの個体は走行距離が3119kmとなっている。何かの間違いでは?と店員を捕まえて話を聞き出すと、新車で販売したご本人で疑問は解消。もう契約してしまいそうな勢いだが、ここは冷静になろうと次の打ち合わせ場所へ向かった。
ブルターレはすでに世代が変わり、古いモデルは確かに相場が下がっている。筆者が購入しようとした時点ではもう少し高かったけれど、ヤフオク!で現在の相場を見ると確かに安い。ただ走行距離が3千km台なんてそうそう見つからないだろう。翌週にはレッドバロンで契約書にサインしてしまったのだった。それからひと月余りで納車日が確定。喜び勇んでレッドバロン府中店に向かいキーを受け取る。店舗の出口に向かっているブルターレにまたがり颯爽と走り去るつもりだったが、何かがおかしい。そうなのだ、短足オジサンの本領発揮で足が届かないのだ。届かないというと語弊がある、つま先なら着地する。でも前に跨った時はもっと地面に届いたはず。そんなことを考えているうちにクラッチ操作で手こずり、何年かぶりで立ちゴケを喫してしまったのだった!
気を取り直して再スタートすると、今度はなんとか発進できた。恐る恐る街中を抜け自宅へと走らせるけれど、なぜこんなことになったのか反芻してみた。ここでもう一度、前回跨った状況を思い出すと記事にもあるよう、当時はビブラムソールのダナー製ブーツを履いていた。ところが納車時は底の薄いライディングシューズだったため、ブーツが足つきを助けていたのだと思い知る。帰路の途中でガソリンスタンドへ寄ったのだが、停車してサイドスタンドを出すまで全く気が抜けなかった。情けないことに帰宅後しばらくして店員さんから「大丈夫でしたか」と電話までいただいてしまった。
納車を前に前後サスペンションは最弱付近まで減衰力を下げてほしいとオーダーしていた。体重の軽い(58キロ)筆者だと、乗車しても沈み込みはほぼ期待できないし通常走行時でも乗り心地が悪く感じてしまうから。ところがそんなことは関係なくコケる時はコケる。ブルターレに傷がついてしまったが、我が心にも深く傷がついてしまった。はてさて、どうするべきかと納車後からしばし悩むことになってしまったのだ。
悩む日々を再現してみたのが上の写真。確かに短足には辛い車格ではあるけれど、乗って乗れないことはない。実は後日、足つき性に一定の解決策を見出した。これはまた追ってお届けするつもり。全国にいる短足仲間へ少しでもお役に立てたらと考えている。