ホンダ・ダックス 125に乗った! 初代ダックス誕生の時代を知る身として感じた、いろんなこと。

2022年9月9日、千葉県は木更津でホンダ・ニューモデルの報道試乗会が開催された。南国ムードの会場に並べられていたのは「ダックス125」。3月24日発表当初は7月21日新発売とされていた。しかしコロナ禍や世界的な物流混乱の影響を受けて販売は遅延。そんな待望の“ダックス”がついに9月22日から新発売される。果たしてどの様な乗り味を楽しませてくれるのだろうか。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田 俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社 ホンダモーターサイクルジャパン

ホンダ開発スタッフの面々。左から常松智晴、廣瀬 翔、金澤 泉、新井倫人、倉澤侑史、開発責任者代行の佐藤 康、上坂 徹、横山悠一、開発責任者の八木 崇、小林泰斗(敬称略)。

ホンダ・ダックス 125…….440,000円(消費税込み)

パールネビュラレッド(左)とパールカデットグレー

初代ダックスホンダ50/70は半世紀以上前にデビュー。

 ホンダのダックスが125ccになって現在に蘇った。懐かしさという意味においては、モンキー以上の逸材ではないだろうか。
 初代ダックスホンダST50/70の登場は、あのCB750FOURと同じ1969年の事だった。タイプの異なるエクスポートを含め全4機種をリリース。 アップフェンダー&同マフラーを採用したエクスポートや、後に販売促進策で投入したホワイトダックス等が人気を牽引したと記憶している。その後多彩なバリエーション展開を披露。多くのファミリーに親しまれる斬新なレジャーバイクだったのである。
 当時、遊び心のある商品開発では、ホンダが圧倒的に他社をリードしていた。バイクの2台所有を喚起させ、誰でも気軽に楽しめる乗り物としてレジャー系モデルの魅力を広く訴求した功績は侮れない。
 N360の大ヒットで四輪自動車の量産メーカーとしても確かな歩みをスタートしていたホンダはダックスの投入で、早くも6輪(バイクとクルマ)生活を提唱した。休日をオシャレに楽しく過ごす手段のひとつとして自家用車にバイクを積んで何処かへお出掛けする。そんな夢の有る豊かなライフスタイルを提案。半世紀以上も前のお話だが今思い起こしても、何ともセンスの良い進歩的な展望を披露してくれたのである。
 バイクを寝かせてもガソリン漏れの心配はなく、ハンドルとステップは折り畳み式。必要ならフロント部分を(フォークと前輪を一緒に)取り外す事ができる前例無き個性的な機能を搭載。乗用車のトランクにも収納でき玄関先に保管する上でも省スペース化が図れて好都合であった。
 当時Tボーンと呼ばれたプレスバックボーンフレームに前後10インチの合わせホイールを採用しスーパーカブのエンジンを搭載。そのネーミングは、やや胴長なスタイリングが犬種のダックスフントを彷彿とさせた事から由来している。

ダックスホンダ50(1969)
ダックスホンダ50エクスポート(1969)

 今回の新型ダックス125は、そんな初代モデルの外観フォルムを見事に再現している。前後ホイールが10から12インチに拡大された事に伴い、全体にバランス良くスケールアップされた仕上がりが好印象。
 モンキーの復活劇では、大きく変身した車体から来る第一印象が別格の存在感を漂わせた事に驚きを覚えたが、ダックスの場合は巧みな相似形デザインが印象深い。全体的な雰囲気からは、かつてと変わらぬ懐かしさが漂ってくる。
 オフィッシャルWebサイトを開くと「懐かしくて、新しい」というキャッチコピーが先ず目に飛び込んでくる。まさにその通りだと思えるのだ。
 開発陣の想いは、プレスバックボーンフレームへの拘りが強かったと言う。基本的にはスーパーカブC125と同じエンジンを搭載。そしてタンデムライディングも考慮に入れた動力性能への対応を主眼に造り込まれたと言う。
 諸元データを比較すると全長やホイールベースはグロムと同じ。最低地上高やシート高も共通。その他のデータもかなり似通っているが、フレームは完璧に別物。
 1.6mm厚のプレス鋼板を使用した3ピース構造(ちなみに初代は2ピース)を溶接で組み上げられ見事にTボーンフレームを再現。今や不可欠となる様々なデバイスやワイヤーハーネス等をフレーム内に隠すレイアウトにも工夫が凝らされている。
 タンク容量も3.8Lを確保。ちなみに初代モデルは2.5Lと小さかった。実用航続距離は100km程度に過ぎなかったが、その点に不満を抱くユーザーは希だったと思う。
 今回はWMTCモード燃費率とタンク容量を乗算した航続距離が約250km。給油頻度は半分以下でありツーリング用途にも十分快適に対応できそう。
 
 搭載エンジンは空冷SOHCの前傾単気筒。エンジン型式はモンキーのJB03Eに続いたJB04Eとなっており、吸排気系及びPGM-FI(電子式燃料噴射装置)の制御マップが専用設計されている。
 ミッション系は1次減速比こそ異なるが、C125やCT125と共通の4速リターン式を搭載しており、各速のギヤ比と自動遠心式クラッチを採用している点も共通である。
 したがって、手動のクラッチ操作は無い。踏み返しの付いたシーソー式ペダルを踏み込んでローギヤへシフトし、右手のスロットルを開けて行けば簡単に発進できる。
 加速に合わせてセカンド、サード、そしてトップへとシフトペダルの前方を踏み込んで行けばシフトアップも簡単。
 踵で後ろ側を踏めば、1段ずつシフトダウンが可能。信号ストップ等でシフトダウンを不精したければ、停止後に前ペダルの踏み込みでニュートラルが出せるロータリー式になり、次のローギヤへのシフトも可能となる。
 ペダルを踏み続けるとクラッチが切れた状態で転がってくれる事、走行中はトップからいきなりニュートラルへはシフトできない仕組みになっており、その操作方法はいわゆるスーパーカブ系と同じである。
 昔から自動遠心クラッチはあったが、ホンダの独自性はシフト操作とクラッチを切る操作が連動する仕組みになっていたのが特徴。ちなみにホンダのプレスインフォメーションによると、「自動遠心クラッチ+クラッチ連動4速トランスミッション」と明記されていた。
 12インチホイールを履く125ccのお仲間としてはモンキーとグロムがあるが、両者はマニュアル(左手手動)クラッチと5速リターン式ミッションを採用している。
 
 つまりダックスは誰でも簡単に、よりリラックスした操作方法で乗れるのが特徴。発進時とシフト時にクラッチ操作を不要とした気軽な乗りやすさを提供している。
 パフォーマンスは、基本的に同じエンジンを搭載するモンキーのデータと大差無い。ただ、6.9kWを発揮する最高出力発生回転数はモンキーの6,750rpmに対してダックスは少し高い7,000rpm。逆に11Nmを誇る最大トルクの発生回転数は、モンキーの5,500rpmより低い5,000rpmでピークトルクを発生している点が異なる。
 前後油圧ディスクブレーキには、1チャンネルABS(アンチロック・ブレーキ・システム)をフロントに標準装備。3軸IMU(慣性計測装置)による制御が行われ、前輪のスリップ情報だけでなく、車両のピッチング情報も踏まえた制御が成される。
 また最小回転半径は、1.9mのグロムやホイールベースの短いモンキーのレベルには及ばなかったものの、42度の操舵角が確保されて2mという小回り性能を誇っている。
 そして何と言ってもモンキーでは叶えられなかった二人乗りを可能とする点にダックスの大きなチャームポイントが備わっているのである。

プレス鋼板を左右で合わせてロボット溶接されるバックボーン(Tボーン)フレーム。
初代よりは太くボリューム感がある。燃料タンクを始め各種デバイスの多くがこのスペースに内蔵される。

周囲の景色が良く見える。リラックスできる乗り味が快適。

 試乗車を目の当たりにすると、不思議な事に旧ダックスホンダと比較して、それほど大きくなった印象は感じられなかった。
 もちろん実際の寸法は初代モデルと比較すると全長で250mm長く、ホイールベースは65mm長い。タイヤサイズは2インチアップ。車両重量に至っては、42kgも増加している。
 にも関わらず、見た目の懐かしさが印象強いせいか、バランスの良いデザインが奏功しているのか、拡大されたスケール感よりは、愛らしい初代モデルを彷彿とさせられ、如何にもダックス然としたスタイリングに、自然と心が馴染んでしまう。
 「こんなバイクを家に置いておけば、何処へでも気軽にお出掛けできるようになるだろうな~」 ふとそんな気分に至り、頭の中には素敵なシーンのいくつかがイメージされたのがとても印象的だった。
 誰でもアクセスしやすい親しみやすい車格感、気楽に乗れる扱いやすさは特筆もの。コンビニ等、近所への所用に出かけるのも断然便利。おやつ時のカフェ巡り。天気の良い日は夕焼けを眺めにトコトコと散策。休日には冒険チックにプチツーリングも良い。
 ライフスタイルにちょっとした革新と変化を叶えられる良いきっかけになる。ダックスが有れば、ハートに優しい豊かなひと時を、ごく何気なくエンジョイできる様になることは請け合いなのである。

 シートに股がると前方にタンクは無くスマートなバックボーンフレームが見えるだけ。シート下方には右にアップマフラー、左に楕円形サイドカバーの張り出しがあって、車体は少し太めに感じられる。
 ラバーマウントされたアップハンドルも幅が少し広め。取り回し時の操舵フィーリングは軽快だ。手を添えて周囲を見渡すと、走り始める前から何だか開放された気分になれるから不思議である。
 膝でタンクを挟むでもなく、腰掛ける様に尻をシートに落ち着けると、いわゆるスポーツバイクに乗る感覚とは異なる。どちらかと言うとスクーターにでも乗る様な、とてもリラックスしている自分に気付く。
 クラッチ操作は無く、左足のギヤ操作は必要だが、スーパーカブと同様なシーソー式ペダルが装備されているので、特にバイク用の靴を必要としない点も気楽である。
 つまり乗車時のライダー・マインドは、自由気ままに好きな場所へとアクセスできる至極便利な移動道具に乗る気分。そんな雰囲気を直感すると、操縦に対する意識レベルが微妙に異なり、いつもより街の景色が良く見えてくる。風を浴びつつ移動する事に心地よさが感じられるようになるのである。
                     
 ギヤをロー入れて右手のスロットルを開けると難なく発進。二人乗りを意識した作り込みが奏功したのか、なかなか太く頼もしいトルクフィーリングが好印象。ややストロークの大きなシフトタッチもゆったりとした操作感と上手くマッチする。思い切り高回転まで引っ張ってシフトアップする時は、踏んだペダルを戻す(放す)タインミングを計ることでよりスムーズに加速を繋げる“技”を介入できる面白みもある。シフトダウン時にエンジン回転をシンクロさせる操作が楽しめるのも見逃せない点か。
 逆にシフト操作を不精しても、とても粘り強い出力特性がストレスの無い走りをカバーしてくれる。各速毎の守備範囲が広くまるでオートマチック車の様。ギヤチェエンジにはさほど気を使う必要が無く、多くの場面で右手の簡単操作だけで事足りる柔軟な底力にも驚かされた。
 同様のパワーユニットを搭載するC125と比較すると下のイメージ図の様になると言う。ダックスは中低速域でより高いトルクを発揮する設定が成されているわけだ。
 また同サイズのホイールを採用するグロムやモンキーと比較すると、トップギヤ時の総減速比でグロムは6,491 、モンキーは6,771 、そしてダックスは7,155 と低めの設定になっている。
 高速道路に乗る事のないピンクナンバーの原付二種クラス。ゆったりと落ち着いて扱いやすいワイドレシオの4速ミッションと常用域でのスロットルレスポンスに優れる、低めのレシオ設定が絶妙の仕上がりを披露していると感じられた。
 オシャレな移動道具という割り切り、自由気ままに走らせるに相応しいバイク。仲のよい二人で移動するにも便利で快適。周囲の景色や情報が次々と目に飛び込んでくる乗り味に改めて新鮮な魅力を覚えた。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

シート高は775mmでモンキー125と同等、足つき性はとても良い。シート前方にタンクは無く、膝まわりはスッキリとスマート。着座位置の自由度が高く、様々な体格にも柔軟に対応できる。

著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…