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デイパックを背負って、東京あきる野の市街地から奥多摩湖へ
発売されたばかりのダックス125で、100kmの日帰りツーリングに行って実力を確かめてほしい……。
モーターファンバイクス編集部から、そんな面白そうなミッションを受けた。私はすでに、この新型車を他媒体の企画で試乗しており、パフォーマンスは十分に把握しているつもりだ。しかし、ユーザーが実際に使うであろうシチュエーションでテストしたわけではない。だからこそ、今回与えられたミッションは、個人的にも興味が沸くというものだ。
スタート地点は東京都下のあきる野市。当然ながらダックス125は原付二種なので、高速道路などの自動車専用道路は使えない。下道で距離を稼ぐとなると、通勤通学シーンを想定して信号の多い都心方面を黙々と目指すのも悪くないが、せっかくなのでワインディングロードでの実力も知りたいところ。ならばと思い付いたのが、奥多摩湖方面へのツーリングだ。
デイパックにレインスーツなどを詰め込み、いざ出発! あきる野市の市街地の標高はおよそ150mで、奥多摩湖は526m。途中には1,146mの風張峠があり、そこを越えるまではひたすら上り基調となる。原付二種にとっては厳しそうなシチュエーションだが、いやはやどうして。トップ4速のまま、実勢速度で流れている乗用車の群れに余裕で付いていくことができるのだ。スロットルレスポンスは過敏すぎずダルすぎずのちょうど良さで、自動遠心クラッチ&4段ミッションのシフトフィーリングも良好。高回転域まで引っ張るよりも、トルクの盛り上がりを感じながら早めにシフトアップした方が心地良く、このかわいらしいルックスとエンジン特性が見事に調和している。
檜原街道から奥多摩周遊道路に入ると、やや上り勾配がきつくなり、コーナーの半径も小さくなる。いよいよ本格的なワインディングロードの始まりだ。トップ4速のままでは失速しがちになるので、自然とシフトチェンジの回数が増える。ここで初めて、市街地走行では気が付かなかった問題に直面する。ミッションが4段しかないので、当たり前だが各ギヤ比が離れ気味なのだ。3速のままだとコーナーの途中で失速し、2速だとエンブレが効きすぎてしまう、なんてことが頻繁に発生し、そのストレスは決して小さくない。似たようなプロフィールの道を、マニュアルクラッチ&5段ミッションのグロムで走ったときには特に感じなかったし、むしろ高回転域を維持しながら走ることを楽しいと思えたので、これは4段ミッションゆえの宿命だろう。
とはいえ、10%近い勾配の上りでも2速ならグングンと進むことができ、標高1,146mの風張峠も無事に通過。自然と高回転域まで引っ張るシーンが多くなるものの、吸排気音やメカノイズ、微振動は不快にならないレベルに抑えられており、これなら峠道を含むツーリングを十分にこなせるといっていいだろう。
プレス鋼板バックボーンフレームが峠道&二人乗りで光る!
奥多摩周遊道路に入ってから、最も感心したのがフレーム剛性の高さだ。風張峠を越えてから奥多摩湖までの下りは、そこまでの上りと同様にコーナーの半径も勾配もきつく、特にフロントタイヤやフォークへの負担が大きい。ところが、ダックス125はフロントブレーキを残したまま不安なくコーナーへ進入でき、ラインに乗せてさえしまえば気持ち良く旋回してくれるのだ。純粋なスポーティさなら、同系エンジンを搭載するグロムに軍配が上がりそうだが、グロムはハードブレーキングで限界に近付くと、フレームのヘッドチューブがしなるような挙動が発生する。これに対してダックス125は、芯が一本通ったようなしっかりとした剛性感があり、前後タイヤの接地感の高さもあって、安心してコーナーへエントリーできるのだ。
なお、旋回力そのものはグロムの方が優れている印象で、車体のピッチングのつかみやすさも美点となっている。ダックス125は、将来的に150ccや180ccクラスのエンジンを積むことを想定しているかのようにフレーム剛性が高く、もしそうなったら期待しかない。
奥多摩湖の近くにある、ごはんcafeやませみで昼食をいただく。ここまでの走行距離は56kmで、ほとんど疲労を感じていない。もし都心方面へ向かっていたら、信号待ちが多いので、同じ距離でも疲労は比べものにならないほど増加していたはずだ。
この奥多摩周遊道路で、タンデム性能をチェックした。パッセンジャーは、体重75kgのモーターファンバイクス編集長だ。さすがにリヤショックが大きく沈み込み、積極的に車体を傾けないとコーナーをはらみそうになるが、驚いたのはシャシー全体の剛性の高さだ。この原付二種クラスでタンデムをすると、タイトなコーナーを抜けたり大きなギャップを通過すると、前後タイヤの整列がずれるようなフレームのしなりを感じるが、ダックス125にそうした挙動がほとんどなく、一人乗りとほぼ同様のペースで走れてしまうのだ。
もちろん、総重量が増える分だけブレーキへの負担が大きくなり、エンジンのパワー的にも厳しくなるが、とはいえ車体に関してこれだけ気を使う要素が減ると、安心してタンデム走行ができるというもの。そして、後ろに乗った編集長からも「握りやすい位置にグラブバーがあって安心だった」というコメントをもらっており、総合的にタンデム性能はかなり高いといっていいだろう。
帰路については、奥多摩周遊道路の途中から雨が降ってきてしまい、レインスーツを着て坦々と走った。ブレーキはフロントにしかABSが付いていないが、前後ともコントロールしやすいので、特に危険だと感じる場面には遭遇しなかった。標準装備タイヤのウェットグリップもまずまずで、ハンドリングがドライ路面から大きく変化することもなし。ダウンフェンダーによりフロントタイヤからの水の巻き上げがほとんどないというのも、うれしい配慮と言えるだろう。
今回の日帰りツーリング、トリップメーターは112kmと表示されていた。スタイリングだけでなく、走りにおいてもプレス鋼板バックボーンフレームの効果は大きく、おそらく大量の荷物を積んでのキャンプツーリングにも耐えられるだろう。令和に蘇ったダックスは、レジャーバイクの域を超えた原付二種屈指のオールマイティモデルだ。