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名車Z1とZ900RSの関係性
Z900RSのモチーフとなったZ1は、1972年に発売され世界的に大ヒットしたスポーツモデル「900スーパー4(900 Super4)」の愛称だ。型式名称であるZ1を多くのファンが呼称したことで、今では正式なモデル名より有名となっている。
主に北米市場を意識して開発されたZ1は、900cc・空冷並列4気筒エンジンを搭載。最高出力82psという当時としてはハイパワーのエンジンが生む高い動力性能や、流麗なフォルムなどにより、今でも世界中に多くのファンがいるカワサキの名車だ。
Z900RSは、そのZ1からインスピレーションを受けたスタイルを持つネオクラシックモデルとして、前述の通り、2017年に登場した。Z1を彷彿とさせるクラシカルなスタイルの車体に、最高出力111psを発揮する948cc・水冷並列4気筒エンジンを搭載。
トラクション・コントロールやマルチファンクション液晶パネル、LEDヘッドライトなどといった最新テクノロジーを投入した装備も持つことで、ストリートからツーリング、スポーツ走行など、様々なシーンで走りを楽しめるモデルだ。
ラインアップには、スタンダード仕様のほかに、オーリンズ製リヤサスペンションやブレンボ製ブレーキなどを採用した上級グレードの「Z900RS SE」も設定。また、フロントカウルやローポジションハンドル、専用シートを装備し、往年のカフェレーサー的なスタイルを持つ「Z900RSカフェ」も用意し、豊富なラインアップを誇る。
価格(税込)は、スタンダードのZ900RSが143万円、Z900RS SEが165万円、Z900RSカフェが146万3000円だ。
燃料タンクやテールカウルなど、こだわりパーツが満載
Z900RSが、多くのファンから支持される理由のひとつが、細部までこだわった各パーツのデザインだろう。例えば、ティアドロップ型の燃料タンクや丸味を帯びたテールカウル、サイドカバーや砲弾型の2連メーターなどは、いずれも往年のZ1を彷彿とさせるパーツ群だ。
また、Z1と同様、排気量900ccクラスの並列4気筒を採用したエンジンは、水冷ながら美しいフィンも施すことで、昔の空冷エンジン風フォルムも演出。エンジンカバーは、すべてアルミダイキャスト製とすることで、上質感も生み出している。
加えて、前後17インチのキャストホイールには、Z1が採用していたスポークホイールをイメージさせるデザインを採用。マフラーのサイレンサー部は、Z1のような右2本出しではなく右1本出しだが、エキパイを含むすべてをステンレス鋼製とすることで、光沢が美しいZ1のマフラーを再現。なお、排気系のサウンドチューニングも施すことで、心地よく吹け上がる4気筒らしい排気音も演出している。
ほかにも、各ボルト類には上質な表面処理を施したり、配線の取り回しや各部のフィッティングなど、細部までこだわったセッティングがなされていることも魅力。全体的に、ユーザーの所有欲をかき立てる高級感を醸し出している。
ちなみに、アクセサリー設定されているグラブバーも、クロームメッキ仕上げとすることで、オリジナルZ1のフォルムをイメージさせるパーツのひとつだ。
Z1で人気だったカラーも投入
燃料タンクなどに、Z1で人気だった車体色をオマージュしたカラーを採用していることも、Z900RSの大きな特徴だ。
例えば、スタンダード仕様に設定がある「キャンディトーンブルー」というカラー。これは、1975年式Z1に採用され、マニアに「青玉虫」と呼ばれているカラーをオマージュしたものだ。
また、Z900RS SEに採用されている「イエローボール」も、往年のZ1に採用されたカラーだ。Z1といえば、タンクにオレンジを配色した通称「ファイヤーボール(火の玉)カラー」が有名だが、火の玉カラーが主に北米市場で販売されていたのに対し、イエローボールは欧州仕様に多かったといわれている。そんなレアなカラーをイメージし、現代の技術で美しい仕上がりの塗装を施していることも、このモデルに特別感を与えているといえるだろう。
ちなみに、初代Z1に採用された火の玉カラーは、2022年に発売したZ生誕50周年記念の「Z900RS 50th Anniversary」に設定され話題となった。また、2018年モデルにもこの色の設定があったが、現在は設定されていないカラーなので、ファンの中には、このカラーの復活を望む人も多いだろう。
「あのバイクにもう一度乗りたい! 」というファン心理をキャッチ
このように、徹底的にZ1へ近づけたフォルムやカラーを採用してきたのがZ900RSだ。ネオクラシックと呼ばれるモデルは、他メーカーにも最近多く、往年の名車をオマージュしたモデルも増えてきた。
だが、カワサキのZ900RSほど、バイク自体の「元ネタ(Z1)」再現度がかなり高く、それでいて古くささも感じさせないモデルは少ないだろう。メーカーの考え方にもよるが、新型である以上は、昔のモデルをそのまま「真似する」ようなバイクは出したくない、といった意識が働くのかもしれないが(筆者の想像でしかないので念のため)。
だが、この気持ちいいほど割り切っているともいえる、カワサキのネオクラシックモデルに対する方法論が、実は正解なのかもしれない。「あの時流行った、あのバイクにもう一度乗りたい」などといった、ファン心理をグッとつかんでいることが、長年に渡るZ900RSの好調ぶりにつながっているのではないだろうか。
スーパーカブ110など、ホンダが長年作り続けるビジネスモデル「スーパーカブ」シリーズが、若い世代からベテランまで多岐に渡るユーザーから支持を受けていることも、それを裏づける。今では商用だけでなく、通勤・通学からツーリングまで、さまざまな用途に使うユーザーも多い。
ヒットの背景には、レッグシールドやヘッドライトの形状など、約60年前に登場した名車を彷彿とさせる装備の数々が、昔を知るライダーには懐かしく、若い世代には新鮮でおしゃれに感じることもあるのだろう。
Z900RSを支持するユーザーの場合は、大型バイクということで、昔からのライダーが多いのかもしれないが、時代のニーズをつかんでいることや、ファンの熱い要望にうまく応えているという点では同じだ。
あくまでユーザー目線で作られたバイク。このことこそが、Z900RS大ヒットの最も大きな要因ではないかと思う。