カワサキの新型車、ZX-4RRをサーキットで味わう。感想→「意外な困惑と感激」

ラムエア加圧時の最高出力は既存の400ccの基準を大幅に上回る80psなのだから、往年のTT-F3レーサーに通じるフィーリングが味わえるんじゃないだろうか。試乗前の筆者はそう思っていたものの、実際のZX-4RRはサーキットに特化したモデルではなかった。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

カワサキZX-4R SE/ZX-4RR KRT EDITION……112万2000円/115万5000円

上級仕様のZX-4RR KRT EDITIONは、リアにショーワBFRC-liteを装備。カラーリングはライムグリーン×エボニーのみ。
日本市場のスタンダードに相当するZX-4R SEのカラーリングは、キャンディプラズマブルー×メタリックフラットスパークブラックと、メタリックフラットスパークブラック×メタリックマットグラフェンスチールグレーの2種。

試乗前日の気分は超ワクワク

ニューモデルの試乗会前日は、いつも気分が高揚するものだけれど、今回のワクワク感は格別だった。何と言っても、若き日の自分が憧れた1990年前後のTT-F3レーサーを彷彿とさせる、80ps(ラムエア加圧時)ものパワーを実現した、400cc並列4気筒車でサーキットを走れるのだから。

もっとも、僕はべつにパワー至上主義ではないし、4気筒マニアでもない。まあでも、レースとレーサーレプリカが絶大な人気を獲得していた1980年代中盤~1990年代初頭に多感な青春時代を過ごしたライダーなら、誰だって僕と同じく、ZX-4R/RRに興味津々なんじゃないだろうか。

ちなみに、1980~1990年代の400ccレーサーレプリカの最高出力は、当時の自主規制値上限の59/53psだったものの、一部の輸出仕様は65ps前後をマークしていた。あの時代から約30年が経過したことを考えれば、80psは妥当……と言えなくはないけれど、2020年から発売が始まったZX-25Rの最高出力は、かつての自主規制値上限の45/40psと極端な差が無い46ps(ラムエア加圧時。ただし2023年型は49psで、フルパワー仕様は51ps)だったのだから、ZX-4R/RRはパワーという面で相当に頑張っているのだ。

カワサキならではの思想と手法

近年の250/400ccロードスポーツの主力エンジンは、コスト抑制を意識した並列2気筒である。そんな中でどうしてカワサキが、250cc並列4気筒と400cc並列4気筒を新規開発できたのかと言うと、大前提にあるのは“他メーカーとは異なる、ウチ独自の魅力をアピールしたい‼”という技術者の強い意思だろう。もっともそれと同じくらい重要な要素は、400ccと250ccの基本設計の共有化というテーマに(かつてのカワサキの400ccは、500~600ccの弟分として製作するのが通例だった)、2018年型ニンジャ400/250の時点で取り組んでいたからではないか……と思う。

逆に言うなら、2018年型ニンジャ400/250で明確な手応えをつかんだカワサキは、同社にとって13年ぶりの250cc並列4気筒車となるZX-25Rを開発している時点で、すでに400ccバージョンを視野に入れていたのだ。もっとも、販売価格が高額にならざるを得ない250/400ccの並列4気筒車が、今の時代に支持を得られるかどうかがわからなかったため、まずはZX-25Rを先行発売し、好調なセールスを確認したうえで、ZX-4R/RR(同社にとっては15年ぶりの400cc並列4気筒車)の開発に着手したのである。

主要部品の多くをZX-25Rと共通化

そんなわけだから、スチール製トリレスフレームや左右非対称スイングアーム、エンジンの腰下、F:3.50×17/R:4.50×17のホイール、外装など、ZX-4R/RRは主要部品の多くをZX-25Rと共有している。その事実をどう捉えるかは人それぞれだが、すべてのパーツを新規で開発していたら、ZX-25R SE:96万2500円、ZX-4R SE/RR:112万2000円/115万5000円という価格は、おそらく実現できなかっただろう(さまざまな周辺事情を考えると、ZX-6Rの140万8000円を上回る価格になっても不思議ではない)。

なおZX-4R/RRには、注釈ナシのZX-4R、ZX-4R SE、ZX-4RR KRT EDITIONの3種が存在し、日本市場で販売されるのはSEとRRの2種で、今回の試乗会で僕がライディングしたのはRRのみである。そしてフルアジャスタブル式リヤショックのショーワBFRC-liteを採用するRRは、位置づけとしては上級仕様になるのだけれど、人によってはスモークスクリーンとフレームスライダーを標準装備する、SEのほうに魅力を感じるのかもしれない。

大きな期待を受けての登場とあって……

千葉県の袖ケ浦フォレストレースウェイで開催された試乗会では、3本の走行枠が設定されていた。そして期待が大きすぎたのか、1本目の僕の印象は、アラッ……?だった。

まずパワーユニットに関しては、かなりの高回転高出力指向なうえに(最高出力発生回転数は14500rpm。ちなみにZX-25Rは15500rpm)、ファイナルレシオがロングすぎるので、普通に走っているだけではパワフルさや速さが感じづらい。一方の車体については、前後ショックが乗り心地を重視した柔らかめの設定になっているようで、コーナーでは狙ったラインにタイヤを乗せづらいし、ここぞという場面ではリアまわりがどうにも落ちつかない。いずれにしてもノーマルのZX-4RRでは、僕が(勝手に)期待していた往年のTT-F3レーサー気分は味わえなかったのだ。

で、1本目と2本目の走行の間に、僕は思ったのである。車名から推察して、かつてのZXR400/Rの後継的な資質を期待していたものの、このバイクはそれだけではなく、スポーツツアラーとして成功を収めたGPZ400R・ZZR400の路線も継承しているのではないかと。そう考えれば、乗り心地を重視したサスセッティングも納得できなくはない。

ただしそうではあっても、超高速サーキットのオートポリスや富士スピードウェイなどで真価を発揮しそうなファイナルレシオは腑に落ちないのだが、現状の設定は加速騒音対策の可能性があるので、この件に異論を述べるのは野暮なのかもしれない。もっとも僕がZX-4R/RRのオーナーになったら、リアスプロケットを+2~3T、あるいはフロントスプロケットを-1Tにして様子を見るだろう。

そのあたりをじっくり考えたうえで2本目の走行に臨んだ僕は、ロングすぎるファイナルレシオに惑わされることなく、10000rpm以上をキープすれば、十分以上のパワフルさと速さが堪能できることを実感。そしてコーナリング中の車体を落ち着かせるため、リアショックの伸び側ダンパーを1回転強くしたら、予想通りの好感触が得られた。

結果的にこの時点で、1本目で抱いたいまひとつな印象は適度に払拭できたのだが、3本目でリアショックの伸び側に加えて圧側ダンパーを大幅に締め込んでみたところ、さらなる好感触が実現。コーナリング中のリアまわりの落ち着きが増したことで、立ち上がりでアクセルが開けやすく、結果的に10000rpm以上の維持が容易になり、ムチャクチャ楽しくなってきた。今になってみるとそのフィーリングは、往年のTT-F3レーサー的だったのかもしれない。

もっとも走行枠がもう1本あったら、旋回性の向上を狙って、リアショックのプリロードを強くして車体姿勢を前下がりにしてみたかったのだが(BFRC-liteに車高調整機能は備わっていない)、残念ながらそこまでやる余裕はナシ。とはいえ、今回の試乗でZX-4RRの潜在能力の片鱗を味わった僕の中には、まだまだこのバイクを味わいたい、一般公道も走ってみたい、という欲望が芽生えているのだった。

SEとRRのどちらを選ぶべきか?

前述したように、日本仕様のZX-4R/RRはSEとRRの2種で、おそらく世間では、市街地&ツーリング指向のライダーにはSE、スポーツライディング&サーキット走行好きにはRR、という認識が一般的になっているように思う。

でも僕としては、市街地&ツーリング指向のライダーにこそRRの標準設定を味わって欲しいし、本気でスポーツライディング&サーキット走行を楽しみたいライダーにとって、BFRC-liteの調整機能はちょっと物足りないような気がしている。もちろんBFRC-liteの守備範囲は相当に広そうなのだが、このモデルの運動性能を本気で引き出したいなら、SEを選択して車高調整機能付きのアフターマーケット製リアショックを導入する、という手法もアリだろう。

ライディングポジション(身長182cm 体重74kg)

ZX-25Rと同様のライポジは、ニンジャ400/250よりはスポーティな印象だが、ZX-6RやZX-10R/RRと比較すれば、上半身の前傾が緩めでフレンドリー。あらゆる場面に過不足なく対応できそうだ。
ZX-4R/RRのシート高はZX-25R+15mmの800mmで、この差異を生み出しているのはリアタイヤのサイズや前後ショックユニットの設定。とはいえ、実際の足つき性に大差は感じられなかった。

ディティール

外装類のデザインはZX-25Rと共通。フロントマスク中央にはラムエアダクトが備わる。SEが標準装備するスモークスクリーンは、純正アクセサリーとして購入することが可能。価格は1万7820円。
シートカウルはコンパクトだが、内部にはETC2.0車載機が収まるスペースが存在し、専用のカプラーも配置。この写真では見えないものの、リアフェンダーの左右には荷かけフックが設置されている。
セパレートハンドルのクランプ位置はトップブリッジ下。ただし基部が上方にオフセットしているので、グリップ位置はそんなに低くない。ブレーキ/クラッチレバーには位置調整用ダイヤルが備わる。
4.3インチのメーターは、400ccでは貴重なフルカラーTFT。写真は多彩な情報が認識しやすいストリートモードで、サーキットモードではタコメーターの10000rpm以上とラップタイムを大きく表示。
左スイッチボックスはZX-25Rと共通だが、右には4種のライディングモード用切り替えボタンを追加。なお2段階のパワーと3段階+オフも選べるトラクションコントロールは、個別での調整も可能。
エンジンの腰上は専用設計だが、クランクケースの基本構成と1~6速のギアレシオはZX-25Rと共通。57×39.1mmというボア×ストロークは、かつてのZXR400/Rの57×39mmに非常に近い数値だ。
ZX-25Rのフロントディスクがφ310mmシングルだったのに対して、ZX-4R/RRはφ290mmダブルを選択。キャリパーはラジアルマウント式4ピストン。ABSのフィーリングは至ってナチュラルだった。
SEのリアショックの調整機能は5段階のプリロードのみ。なおSEとRRではリアサスのストローク量が異なり、ホイールトラベルは、RR:124mm、SE:112mmと公称。なおZX-25Rは116mm。
φ37mm倒立フォークはショーワSSF-BPで、右側トップキャップにはプリロードアジャスターが備わる。グリップラバーはカワサキ製スポーツバイクの定番品で、バーエンドウェイトはかなり大き目。
日本仕様のSEとRRは、いずれもアップ&ダウン対応型のクイックシフターを装備。操作感は非常に良好で、どんな場面でも自信を持って思い切った減速と加速が行えた。作動領域は2500rpm以上。
φ220mmディスク+片押し式1ピストンのリアブレーキと前後ホイールは、ZX-25Rとの共通部品。純正タイヤは近年のカワサキで採用車が多いダンロップGPR-300だが、コンパウンドは専用設計。
リアサスはホリゾンタルバックリンク式。グリーンのスプリングが目を引くRR用のリアショックは、ZX-10Rの技術を転用したショーワBFRC-liteで、無段階のプリロードと伸圧ダンパーの調整が可能。

主要諸元

車名:ZX-4RR ZX-4R
型式:8BL-ZX400P
全長×全幅×全高:1990mm×765mm×1110mm
軸間距離:1380mm
最低地上高:135mm
シート高:800mm
キャスター/トレール:23.5°/97mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列4気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:399cc
内径×行程:57.0mm×39.1mm
圧縮比:12.3
最高出力:57kW(77PS)/14500rpm
ラムエア加圧時最高出力:59kw(80ps)/14500rpm
最大トルク:39N・m(4.0kgf・m)/13000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.928
 2速:2.055
 3速:1.619
 4速:1.333
 5速:1.153
 6足:1.037
1・2次減速比:2.029・3.428
フレーム形式:トリレス
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ37mm
懸架方式後:スイグアーム・ホリゾンタルバック式
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:160/60ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:189kg(ZX-4R:190kg)
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:15ℓ
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:24.4km/ℓ(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:20.4km/ℓ(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…