バーチカルツインのシンプル系バイク、クロムウェル1200試乗記|ボンネビルT120を標榜したBRIXTONのフラッグシップモデル

いかにも英国調の雰囲気が醸しだされている「BRIXTON」。2018年にEICMA(ミラノショー)で公表された、オーストリアのKSRグループが手掛ける新ブランドである。イギリスのストリートカルチャーを意識し、若者がリスペクトする「イギリスのテイスト」をイメージしてブランディングされたと言われている。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●モータリスト合同会社
モータリスト・ブリクストン

BRIXTON・Cromwell 1200…….1,496,000円(消費税10%を含む)

モータリスト・ブリクストン
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カーゴ・グリーン
モータリスト・ブリクストン
モータリスト・ブリクストン
バックステージ・ブラック
ティンバーウルフグレー

日本で輸入販売を手掛けているのは他にも多くの海外ブランドを取り扱っている「モータリスト合同会社」。同社ホームページで「BRIXTON」について調べると、既にクロスファイア、クロムウェル、フェルスベルク、サイレイ&レイバーンの4カテゴリーがあり排気量の異なる搭載エンジンなどで全13機種のバリエーションが揃えられていた。
同ブランドの発祥は2016年とされ、翌2017年にはR&Dセンターが創設されている。まだまだ新興メーカーだが、その躍進ぶりにはなかなかの勢いが感じられる。中でもモダンクラシックなストリートモデルとして、同ブランドを象徴しているのがクロムウェル。つまりオーソドックスなネイキッドスポーツの人気が高いそう。
また同社で興味深いのは、競技用バイクを作る予定は無いと明言していること。WEBサイトから抜粋すると“自宅の庭さき、ガレージからスタートして、楽しく走り、良い思い出を残す”とある。
あくまでストリートモデルをリリースすることに注力し、バリエーションの増強が図られているわけだ。そんな基本コンセプトを象徴するフラッグシップモデルとして約3年の歳月を費やして専用新開発された1200ccエンジンを搭載するモデルが今回のクロムウェル1200なのである。

バーチカルツインというエンジン形態を始めその全体的フォルムから漂うシンプルなスタイリングは、1960年代に元気の良かった英国車を彷彿とさせる。
当時の代表的ブランドは「トライアンフ」。ホンダがセンセーションを巻き起こした4気筒のナナハン(CB750Four)が登場する以前は、同社の「ボンネビル」が世界のスポーツバイク市場を牽引していたのである。
ボンネビルは既に“ネオレトロ”、つまり懐かしくも新鮮な製品として現代にリバイバルデビューしており、なかなかの人気ぶり。派生モデルも数多く揃えられているから流石だ。

今回のクロムウェル1200は、そんな「ボンネビル」を彷彿とさせるモデルに仕上げられている。つまりT120の真っ向ライバルと言える存在に躍り出たと言えよう。
オーソドックスなスチール製ダブルクレードルフレームを始め、前18・後17インチ32本スポークホイールの採用。装着タイヤも同じピレリ製ファントム スポーツコンプ。丸みのある燃料タンクにはニーグリップラバーを装備。
丸形ヘッドランプにほぼフラットなダブルシート。ラバーブーツを備えた正立式φ41mmフロントフォークの採用。軸距は両車共同じ1,450mm。ドライブチェーンが共に右側を通るなど、共通点はかなり多い。
あえて違う点を拾うと、クロムウェル1200のフェンダーは短く浅いデザインを採用。ステンレス製マフラーの造形も軽快でスポーティな印象に仕上げられている。
搭載エンジンも良く似ている。ボア・ストロークは98.6×80mmというショートストロークタイプで、排気量は1222cc。なおT120(1,200cc)よりボアが1mm大きくパワートルクの諸元値もクロムウェル1200の方が若干上回っている。
最高出力のピーク回転数は6,550rpmで両車共通。最大トルク発生回転数はT120の3,500rpmに対してクロムウェル1200は3,100rpm。低い回転域で高トルクを発揮。
エンジンは図面に示す通り、上下二分割構造のクランクケースを持ち右側に発電機、背中にセルモーターを背負い、左側のFCC製クラッチは湿式多板式でアンチホッピングクラッチ機構を備え、強力なバックトルクを逃がすことで激しいエンジンブレーキ時に後輪のホッピング(暴れ)を抑制してくれる。
カムチェーンは左右シリンダー間を通るタイプ。頭上のシングルカムシャフトを回し、ロッカーアームを介して気筒当たり4バルブを駆動している。
エンジン特性はスポーツとエコの2モードが選択できる。どちらもフルパワーフルトルクの発揮に変わりはないが、スロットル操作に対するスロットルバルブや燃焼ガス供給度合のレスポンスが変る。簡単に言うとダイナミックな走り方や穏やかで優しい走りが選択できる。
またクルーズコントロールシステムも標準装備されており、左手スイッチの長押しで起動させると30~160km/hの範囲で設定速度を維持してくれる。ちなみにモード選択もスイッチの長押しで切り替えでき、同時にメーターティスプレーもそれぞれのデザインに変更されるので分かりやすい。
前後サスペンションはKYB製、前後ブレーキはNISSIN製を装着。ヘッドランプステーの仕上げや、ジャックナイフ式に折り畳めるイグニッションキー、ダブルステッチがあしらわれたシートなど、プレミアムな雰囲気の演出にも手が込められている。

なかなかアグレッシブな走りも楽しめる。

試乗車に触れると、それなりにズッシリと重い手応えを覚える。車重は235kgあるので、当然の重量感である。しかし車体サイズが大き過ぎないし、足つき性も悪くはないので、扱いに手強い印象は感じられない。
車体を引き起こす時、バイク脇に身体を添えるとサイドカバーの膨らみに腰が当たる。シートに跨がると、それが左右に張り出している関係で、両足を下ろすところの車体が太く股が開く感じ。
足付き性チェックに記す通り、シート高が800mmの割に足つき性は少しスポイルされている。シート高が790mmのボンネビルT120は、左右サイドカバーに丸味のあるデザインが施され、足を出す位置の車体幅がそれほど太くは感じられない。両足は踵までべったりと地面を捉えることがきたと記憶している。
クロムウェル1200では両足の踵が浮いてしまい、僅かながら腰高な印象。微妙な差ではあるが、それ故いくらかクロムウェルの方がライディングポジションにスポーティな雰囲気を覚えた。

エンジンを始動すると良い意味で穏やかな雰囲気の排気音と鼓動感が心地よい。水冷エンジンが寄与しているのか、デシベルも小さな印象で、大人びた雰囲気。アイドリングは1,000rpmで安定しており、煩くない乾いた太めの音質である。   
エコモードでスタートすると十分にトルクフルな出力特性ながらも、スロットルレスポンスは穏やかでその乗り味と動力性能は優しくジェントルな印象が強い。流石に1,2L超えの大排気量を誇るだけに、実用トルクは十分過ぎる太さがある。しかもエンジンの回転フィーリングは滑らかで振動も少ない。
吹け上がりは特に軽快ではなく、クランクマスにも程良いイナーシャ(回転慣性)が感じられ、早めのシフトアップでも強力なトルク感は衰えない。回転の伸びが鋭いわけではないから、6,500rpmからのレッドゾーンまで引っ張ろうとは思わない。実用上は高回転域を使う場合でも6,000rpmまでで十分なパフォーマンスが発揮できる。
むしろ意地悪く2,000rpmに満たない低回転域を多用しても不足のない粘り強さを発揮するしぶとい底力と、柔軟な出力特性を誇れるところが魅力的である。

乗り始めから重いと感じられた車体だが、それは決して欠点ではなく、色々な動作や挙動にゆっくりと落ち着きが感じられる。加えて前述のエンジンキャラクターが上手く融合している点が印象深い。           
市街地~郊外のワインディング、そして高速道路。どんな場面でも常にユッタリとマイペースをキープでき、落ち着いた心持ちでいられる余裕ある走りが心地良い。
ふと空いた休日のひと時をバイクと共に愉しむのに相応しい感じなのである。
通常走行ではそんな大人の走りが堪能できるエコモードで十分。市街地を普通に快走する限り、パワー的な不足はまるで感じられない。ほぼフラットなダブルシートでタンデムライディングをする時、スムーズで優しい走りに努める上でも好都合。
一方スポーツモードを試すと、なるほど本来のキビキビとアグレッシブなポテンシャルを秘めていたことが理解できる。
スロットルレスポンスが敏感になり、ガツンと強力にダッシュする。右手のスロットルワークで、グイグイとダイナミックな加速力を発揮し、次のコーナーを目ざす元気の良い走りを愉しむのに十分なハイパフォーマンスがある。
操縦性は決して軽快ではなく、コーナーの連続でも身のこなしはそれなりに悠長な挙動示すので、余裕を見て早めの減速操作が大切。
もちろんトラクショコントロールやABSの電子制御は標準装備。乱暴なシフトダウンによる強力なエンジンブレーキをかけても後輪が暴れたり滑るようなことはなく、確かなグリップ力をキープしてくれた。
操縦性は基本的に素直で扱いやすいが、コーナーでバイクを倒し込んで旋回しようとすると、ステアリングが微妙に切れ込む傾向が見られ、旋回初期から途中までは僅かながらも当て舵ぎみでコントロール。旋回途上からコーナー脱出では当て舵を緩めつつ、パワーオンと共に自然とバイクを起こしていく感じの扱い方に慣れ親しんでくる。
前後サスペンションは、ストロークこそ多くないが、小さなギャップにも敏感に反応する作動性の良さを披露。都市部からやや舗装の荒れた郊外まで、なかなか快適な乗り心地を提供してくれた。 
ローギヤで5,000rpm回した時のスピードは58km/h。6速トップギヤで100km/hクルージング時のエンジン回転数は約2,900rpm。ボンネビルT120よりは少しギヤ比が低めにセッティングされている。
渋いバイクに跨がり、散歩気分で自由な時間を謳歌する。そんな相棒に相応しい一台と思えたのが正直な感想だ。
しかも英国車然とした佇まいと乗り味は、確かにそれらしいテイストを漂わせていたのが印象深い。
往年の標準的なネイキッドスポーツに興味があるなら、比較検討車種として覚えておくと良いだろう。ボンネルビル系の各車はもちろん、カワサキ・W系やメグロK3にも競合する興味深い1台なのである。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

モータリスト・ブリクストン
モータリスト・ブリクストン
モータリスト・ブリクストン
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シート高は800mm。それほど高いわけではないが、左右サイドカバーの張り出しが少し大きい。車体幅が太く足付き性がいくらかスポイルされる感じだ。とは言え、ご覧の通り両足は指の付け根でしっかりと地面を踏ん張ることができる。バイクを支える上での不安は少ない。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…