エンジンの中に水。 ヘッドガスケットが吹き抜けたヤマハ・ビーノを復活させてみた|原付スクーターのメンテナンス

静かで低燃費、高性能な4ストロークの水冷エンジンだが、修理するとなると2スト、空冷エンジンに比べるとパーツも多く手間がかかる。今回修理したヤマハ・ビーノ(SA26)も50ccながら4スト水冷エンジンを搭載している。ただ、乗りっぱなしにされている事も多く、冷却水不足でエンジンに深刻なダメージが出ている車両も。この個体もウォーターポンプが故障したまま走り続けてしまったらしく、ヘッドガスケットが吹き抜けてしまっていた。なるべく手間とお金をかけずに直してみることにした。

ネットオークションで購入したヤマハ・ビーノ(4スト前期型SA26)。エンジンは掛かるようになったものの、エンジンオイルに冷却水が混じるトラブル発生。ウォーターポンプをオーバーホールして一件落着、かと思いきや結局改善されず。おそらく原因はヘッドガスケットの吹き抜け、と言うことで、水漏れ(水入り?)修理リベンジ。ヘッドガスケットを交換します。

冷却水混入の犯人だと思っていたウォーターポンプをオーバーホールしたのに、エンジン内への冷却水混入は直っておらずエンジンオイルは見事に乳化していた。そう、真犯人はヘッドガスケットだ!

今回も車体からエンジンを下ろさずに作業するので、エンジンマウントのシャフトとリヤサスペンションのボルトを取り外し、エンジン自体を後ろにずらして作業を行った。この時、ボディ側が固定されておらずぐらぐらしてしまうので、フロア下に木材やタイヤなどを挟んでおくと、作業中にボディを倒してしまう危険性が少なくなる。確実に作業をするならエンジンを下ろす事をお勧めする。今回の作業はなかり横着しています。

冷却水とエンジンオイルを抜き、エンジン右側にあるラジエターを取り外してその下にあるファンを外すとローターが見える。ヘッド周りを取り外す前にこの状態にしておく。
ラゲッジボックス、サイドカバーを外し、キャブレター(後期型のSA36はインマニとインジェクション)を取り外す。同時にマフラーも取り外しておこう。

まずはマフラーを取り外し、前回オーバーホールしたウォーターポンプとラジエターなどの水回り、キャブレター、水温センサーのカプラーを取り外しておく。ちなみに冷却水、エンジンオイルはすでに排出してある。ラジエター下のファンを取り外し、ローター部分の合いマークでピストンの上死点を合わせて、カムチェーンのスプロケットを固定するボルトを緩める。これでカムチェーンがフリーになるので、ヘッドボルトを緩めてれば、ヘッドを取り外すことができる。ヘッド自体には大きな問題はないはずだが、エンジン内部に水が回ってから長期間そのままにされていたようで、カムスプロケやガイドパーツ、ボルトなどに錆が出てしまい、ヘッドカバーの中はサビが付いてしまっている。できるかぎり洗浄を行なったが、ここまで酷いとクランクのベアリングも錆が出ている可能性が高く、最悪の場合はクランクケースを開けてベアリングを交換する必要があるかも。

エンジンを車体から取り外さずに作業を行うが、エンジンマウントのシャフト、リヤサスのボルトを取り外し、エンジンを後ろにずらす。ウォーターポンプもこの時外しておく。
ローターを手で回転させて合いマーク(F)を▽印に合わせてピストンの上死点を出しておく。ヘッドの中がサビだらけなのが気になるが、カムシャフトを押さえているブラケットの左側(向かって右側)にある合いマーク(ー)と、カムスプロケットの合いマーク(ー)の向きを合わせておく。
ローターにある穴にユニバーサルホルダーを掛けて固定し、反対側のカムスプロケを固定しているボルトを緩める。カムスプロケの錆がひどいので、取り外してワイヤーブラシで錆を落とした。クランクベアリングの状態が心配になる。
ハウジングを開けると中からは錆びだらけのサーモスタットが! 今回はパーツを用意していないのでそのまま組み直すが、あとで交換した方がいいだろう。

ヘッドガスケットは錆や乳化したオイルがこびりつき、シリンダーの冷却水経路にもゲル状になったオイルが詰まっている。これらを全てクリーニングしてから新しいガスケットを入れて元通りに組み直した。冷却水が通るホース類を全て外してパーツクリーナーをスプレー。サーモスタットはサビでひどい状態だったが、今回は部品を用意していなかったので洗浄して元通りに組んでおいた。近いうちに交換しようと思う。

ヘッドボルトを緩めてまっすぐ引き抜けばシリンダーヘッドが取り外せる。ガスケットは錆と乳化したオイルでベタベタ。ここから冷却水がエンジン内に侵入している。
シリンダーのウォータージャケットには乳化したオイルがゲル状になって詰まっている。これらを取り除いてヘッド周りもパーツクリーナーで綺麗にしておいた。
(上)左が新品のヘッドガスケット。水抜きの穴が1カ所少ないが、何かの対策品? (下)元通りにシリンダーに組み付ける。
オイルストーンに潤滑油を塗り、シリンダーヘッドの接合面を削って平滑にしておく。シリンダー側も同様に処理しておいた。
シリンダーヘッドの締め付けトルクは12Nm。均等に締め付けるためにもトルクレンチを使用すること。締め付け過ぎは厳禁。

元通りに組み立て、冷却水とエンジンオイルを入れたらエンジン始動。今回も問題なくエンジンは動いているが、10分くらいそのままアイドリングさせて様子を見てみる。特に異音もなく、安定してアイドリングしているようなので、一旦エンジンを止めてオイルフィラーキャップを開けてオイルの状態を確認してみた。エンジンオイルの状態はクリアで水が混ざっている形跡もない。少しエンジンが冷えてからラジエターのキャップを開けてみたが、オイルが浮いているということもなく、どうやらヘッドガスケットの交換が功を奏したようだ。エンジン音も静かなので今のところはクランクベアリングも無事、だと思う。500kmくらい走ったら、もう一度点検してみようと思う。

カムチェーンテンショナーを取り外し、テンションを緩めておく。カムスプロケの合いマークをヘッドに対して垂直に合わせ、固定する。この時、ローター側の合いマークが(F)の位置になっているのかを確認。
全てのパーツを元通りに取り付け、ラジエターに冷却水を注入。エンジンオイルも規定量(730〜830ml)を入れておく。クランクケースの右上にある冷却水のエア抜きボルトを開け、エンジンをかけて空気の泡が出なくなったらエア抜き完了。
しばらくアイドリングさせてもエンジンは安定。オイルフィラーキャップを開けてゲージを確認してみたが、水分が混じってはいなかった。これで修理完了。

今回交換したパーツは

  • ヘッドガスケット10B-E1181-00/¥889
  • Oリング(ヘッドカバー)93211-18800/¥231
  • マフラーガスケット1P4-E4613-00/¥439
  • ガスケット(ウォーターポンプ)5ST-E2435-10/¥239
  • 合計/¥1798(冷却水、エンジンオイルなどは含まれない)

今回の作業をショップにお願いすると、大体3万円くらい掛かるようだ。部品は安いが作業の時間がかかるのでどうしても工賃が高くなってしまう。もし、クランクベアリングまで被害が及んでいた場合、交換費用は高額になり、安い中古車が買えてしまいそうだ。

4ストビーノや水冷JOG、4ストギア、VOXなどが同系統のエンジンを搭載しているので、水温の警告灯が点灯したら、早めに点検したほうがいい。

無事に路上復帰が完了しました。クランクのベアリングは少し心配だが、今のところは異音もないので、しばらく走って様子を見てみよう。まぁ、リベンジ成功ということで。

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橘 祐一