用途を選ばず、乗り手を選ばず。ズバリ、ホンダCL250は”みんなの”デイリーモビリティである!

レブルに続いて発売と同時に好調な売れ行きを見せている、ホンダの新しいスタンダード250「CL」。オンロード/オフロードを、兄弟車のCL500と乗り比べながら試乗した。

ホンダCL250…‥621,500円(消費税込み)

メインフレーム部とエンジンをレブルと共有しながら、シートレール以降を作り替えてスクランブラーテイストを作り上げたCL。特徴的なタンク形状や存在感のあるアップサイレンサー、前後の大径ホイールなどでモダンなストリートスタイルと往年のスクランブラースタイルを融合している。カラーは写真のオレンジ、走行写真のホワイトの他、グレーの3色が設定されている。

新たな「普通」の提唱

既に発売されてから時間が経っているから、街で見たよ!という人も多くなってきている頃だろう。レブルに続く気軽な軽二輪モデルとして好調な滑り出しを見せているCL。「こんな普通なのが欲しかったんだよ」という要望は確かにあったはずだ。
というのも兄弟車はオフ車のCRF250L、クルーザーのレブル、ストリートファイターのCB250Rであり、どれも「こんな使い方をしてくださいね」といった方向性が味付けられている。「そうじゃない、ただの素バイク」って昔はもっとなかったっけ? と思い返すとCB223Sが思いあたった。あのFTR223とほぼ共通車体にスタンダードな外装を載せた、エイプのオヤブンみたいなモデル、CB223Sである。あれが名車だったのだ!
なぜ名車だったかって、自信を持って扱えるハンドリングがあり、トルクフルで信頼性のあるエンジンが載ってて、どこにも無理や押しつけがない、本当の万能ストリート車だったからだ。使い方を限定しない、ゆえに何にでも使って良くて、何に使っても不満が出ない。そんなバイク、最近は減ってきていたと感じる。そこにこのCL。カテゴリーとしては「スクランブラー」なのだろうが、その実は「究極のスタンダード」に感じ、そんなバイクの復活を心から歓迎したい。

足つき性チェック

シート高がレブル比で10cmも上がっていると思うとハードルが高そうなイメージがあるが、実際はスリムな車体のおかげで足つきは想像するよりも良い部類。ただステップがかなり横に飛び出している設定のため、そのステップの外側に足を置こうと思うとかなり開いてしまい足つきが悪く感じるかもしれない。
足をつくときは写真(下段左,右)のようにステップとペダルの間にふくらはぎを滑り込ませよう。

意外や大きい車格は要試乗

そんな万人/万ユース向けのCLだが、最初に言っておきたいのは「意外と大柄」ということだ。レブルがあれほどの爆発的ヒットとなったのは、「圧倒的に足がつき、ゆえに安心感が高い」ということがあるだろう。コンパクトで低重心ゆえに実重量以上に軽量に感じられ、かつ足つきが良いのだから初心者や小柄なライダーだけでなく誰でも気負わず乗ることができた。
ところがCLはレブル比でとらえると「けっこうデカい」のであり、写真やこういったインプレッションを読んだだけで「買う!」と予約せずに、一度現車に触れてみて欲しいと思う。シート高はレブル比で10cmも高く、また重量はほぼ同じながら着座位置の高さやアップマフラーなどで重心が高く、押し引きしている時はレブルよりもずいぶん大柄でずっしりした乗り物に感じるのだ。
走り出せばそのサイズ感はむしろ堂々としたもので持て余す印象はないものの、取り回しの時点では、少なくとも「レブルと比べた場合」、けっこう大きいということを知っておいてほしいと思う。

優雅に走る車体は大柄ゆえ

文頭から「大柄だよ」と言ったものの、走り出せばその大柄さがプラスに働くことも多い。レブルに比べるととても視界が広く、先の交通を見渡せるアイポイントの高さは気持ちがいいだけでなく優雅で安全だ。レブルでは股関節や膝の曲りが強めなのに、ハンドルはちょっと遠めという独特のポジションだったが、CLではシートが高くなったことで下半身の窮屈さが解消され、上半身とのバランスが取れた印象。
この余裕のあるライディングポジションがフロント19インチホイールとも超絶マッチ。FTR223やCB223Sは走り出してすぐにフルバンク近くまで持ち込めてしまう神ハンドリングだったが、CLにも同じ匂いがする。常にフロントがドシッと接地していて、大柄な車体を自信を持ってスイースイーと振り回すことができるのだ。これはレブルには無かった魅力であり、同時に500版とも共通するハンドリングだ。
加えてブレーキも良く効き、そして何よりもリアサスのストロークが大きく伸ばされたおかげで乗り心地も格段に良くなっている。……ほら、死角がないのだ。これぞ極スタンダード。「何に使っても、どんな乗り方をしても過不足がない」というのは難しいことなのだが、CLはそれに近いと思う。

250というサイズ制限の中で

ここまでは基本的に250と500で共通するCLの魅力だが、エンジンとなると排気量が約倍も違うのだからそれぞれ違った表情がある。250cc版はレブルをはじめ多くの兄弟車でも使われてきたDOHCシングル。CLではレブルをベースにCRFのカムを使うなどしてトルクフルに味付けしたうえ、ファイナルを少しショートに振って活発さを追求したそうだ。
とはいえ、その印象は兄弟車と大きくは変わらない。アイドリング領域のすぐ上、クラッチミートする時に使う回転数ではクランクが重くなっているかのような確かなトルクがあり、ラフにクラッチを繋いでもエンストはしにくい設定。そしてそのちょっと先、ストリートで多用するようないわゆる「常用域」はむしろトルクが薄く感じ、おかげでラフなアクセルワークでもギクシャクせず、かつ燃費も良い。排気音もパタパタと楽しいもので、ストレスフリーのクルージングが楽しめる。
そしていざ、信号から元気よく発進したい時や、一気に追い越し加速をかけたい時などは高回転域を使うのだが、ここではDOHCらしい元気な吹け上がりがあり、大柄な車体をグイッと進める確かな力強さがある。
ということは、一つのエンジンの中に3つも表情があるということであり、これが良い方に作用すると感じる場面と、そうでもなく感じる場面があった。良い方は、とにかくエンストしにくいという事。動き出すその瞬間に頼もしさがあるのはとても良いことだろう。クラッチミートでスコッとエンストしてしまうと即立ちゴケに繋がることもあるため、これは大歓迎したい。そして常用域のスムーズさと燃費の良さも嬉しい。高回転域の元気さも魅力ではあるが、その領域はかなり振動も増え排気音も勇ましくなるため常用したく
ないところ。高速道路を走っていても、90km/hを超えるとこの領域に踏み込んでしまい、快適な巡航は難しくなってくる。
そしてこのエンジンの3面性がちょっと難しく感じたのが不整地だ。出だしのトルクはあるのに、その先はのんびりゾーンに入ってしまうためアクセルを大きく開けても意図するトラクションを得にくい感覚があった。結局高回転域を維持しないとアクセルで車体姿勢をコントロールするのが難しく感じる場面があり、かといって高回転ばかりを使っているとせわしないというジレンマがあった。そういう意味で、不整地は積極的に楽しむというよりは、トコトコと散策するといったイメージに切り替えて走ることにした。

うまくまとめた素バイクを更に自分色に

これまでなかったようで、むしろ昔はこういうのしかなかった、と思えるような万能さのCL。ちょっと前のモデルでは先述したようにCB223S、もっと昔のモデルだとAX-1といった、万能モデルとの共通性を感じる。現行車で似ているのは、意外やVストローム250SXかもしれない。そんな万能性に加え、CLにはストリートやカジュアルウェアにもフィットするスマートさがあるのが魅力だろう。
CLのキャッチコピーにはEXPERSS YOURSELFという、CLで自分を表現しようというアピールがあるし、それは豊富なアクセサリー/カスタマイズパーツ群にも表れているメッセージだ。そこでこの素バイクをちょっとカスタムすることも想像した。
まずヘルメットホルダーは必須だ。ストリートユースがメインだと考えると純正でついていないことに疑問を持つ。そしてキャリアの類。シートがフラットゆえキャリアとツライチで大きな積載スペースが確保できそう。ネットで気軽に荷物を固定してもいいし、ちょっと素敵なバスケット的なものを設置しても良さそうだ。
もう一つはマフラーだ。500版と共通サイズということもあってか、妙に大きく個人的にはアンバランスに感じる部分でもある。またアップタイプゆえ重心が高くなっているし、荷物の固定やタンデム時にはちょっと気になりそう。社外のダウンタイプも検討したいと思った。また、快適性を確保するという意味ではバーエンドウェイトも追加したいと思ったところ。特に高回転域のパワーバンドを使うとハンドルがかなり振動し手が痺れるため、バーエンドウェイトを追加すれば高速道路走行がいくらか楽になりそうな気がする。

「みんなの」なのである

タイトルにつけた「みんなの」がCLの魅力の核だろう。大抵こういったインプレッションの最後には「こんな人にフィットするでしょう」といったようなことを書くようにしているのだが、CLについてはライダー像を限定しないのが特徴に思う。まさに「みんなの」スタンダートバイクなのだ。
ストリートで気軽に走り回れるアシが欲しいという人でも、彼女とタンデムで街に繰り出したいという学生でも、荷物を積んでツーリング行きたい人でも、そしてバイク便さんでも、本当に幅広く対応してくれる一台だ。
ただ、一方で250cc/軽二輪という枠に縛られているかな、と、500cc版と同時試乗したことで感じる場面もなくはなかった。250ccという排気量の限られたパワーで500ccと同じ車体を引っ張らなければいけない動力性能的にも、そして500cc版よりも25万円も安く設定された価格に抑えるためのコスト的制約なども、単体で乗れば気にならないものの、500cc版と乗り比べてしまうと気づいてしまう部分もあった。合わせて500cc版のインプレッションも読んでいただければ幸いだ。

ディテール解説

19インチのフロントホイールは同じ19インチである400Xと共通デザインだが、こちらはシングルディスク仕様。正立フォークと2ポッドキャリパーで必要十分の装備。19インチホイールの大らかなハンドリングが魅力だが、ハンドル切れ角のせいなのか車体の長さのせいなのか、Uターンは意外と大回りで慣れが必要。
スイングアームはレブルと同じ丸パイプ形状で、リアホイールはこれも400Xと同デザインの17インチ。サスストロークが145mm確保されたおかげと、タイヤはハイトのあるラジアルタイプとなっていることで乗り心地は上々。チューブレスタイプであるということもあって、未舗装林道でのパンクの心配も少ない。
レブル系のDOHCシングルにCRFのカムを用い、よりトルクフルな特性として仕上げたエンジン。確かに幾分トルクフルに感じられるが、各回転帯の表情は兄弟車種と共通するものがある。アップマフラーなのにエキパイがエンジン下を通るのはオフロード好きからすると疑問もあるかもしれないが、走行中に熱くないということと、足を降ろした時に火傷をしにくいという意味でも良い設定と言えるだろう。
難点に感じたのはメインキーとハンドルロックの位置。メインキーはレブル同様に車体左側にありアクセスが難しく、かつハンドルロックは逆に右側にありしかもステムの下側と手が届きにくい。メーター横に集約したメインキーが理想だが、せめてハンドルロックは近年のハーレーのようにトップブリッヂ横にしてくれたら使いやすかっただろう。
デザインアイコンでもあるアップタイプのサイレンサーは500cc版と(少なくとも外寸は)共通ということもあってかなりのサイズである。しっかりとしたヒートガードなど機能的に問題はなくかつ排気音もパタパタと心地よいものだが、タンデムや荷物の固定時にはさすがにサイズが大きく感じそう。
レブルベースの車体であることからか、本来想定されていない場所にステップを持ってきた感があり、ゆえに妙に左右に飛び出しているのがちょっと気になるところ。車体に跨ったままヨチヨチとUターンをしたり、車体を押し引きしたりする場面でふくらはぎにステップをぶつけやすいため、そういった取り回し時には思い切って降車した方が良いだろう。ステップ周りの遮熱は非常によくできていて、薄手のズボンで乗ってもエンジンなどの熱部に触ってしまうようなことはなく安全だった。
丸ライトの中に4つのLEDを配するヘッドライトは夜間走行でも頼もしい明るさを提供。ひと世代前のホンダLEDヘッドライトは明るさが心許なかったが、近年は大きく改善されたと感じる。
大排気量車のような走行モードなど無いこともあって、極めてシンプルなスイッチボックスは操作性良好。左側、ホーンボタンがウインカースイッチの上に位置しているのはいつまで経っても慣れず、不意にホーンを鳴らしてしまうのは勘弁してほしい。グリップはオフ車系のもので手へのなじみがとても良い。
速度、ギアポジション、時計、燃料計が常時表示されるメーターは見やすく好印象。左右にあるボタンも操作しやすく、またデザイン的にもスマートだ。メーター上の燃費は市街地走行で30km/Lを超えており、タンクは12L容量と大きくはないもののワンタンク航続距離は300kmほどが見込めるという事だ。
テールランプはフェンダー後端にLEDタイプを設置。キャリアを装備してボックスなどをつけたとしても被視認性を損なわない設定が安全だ。

主要諸元

車名・型式ホンダ・8BK-MC57
全長(mm)2,175
全幅(mm)830
全高(mm)1,135
軸距(mm)1,485
最低地上高(mm)★165
シート高(mm)★790
車両重量(kg)172
乗車定員(人)2
燃料消費率*1
(km/L)国土交通省届出値:
定地燃費値*2
(km/h)47.0(60)〈2名乗車時〉
WMTCモード値★
(クラス)*334.9(クラス 2-2)〈1名乗車時〉
最小回転半径(m)2.6
エンジン型式MC57E
エンジン種類水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒
総排気量(cm³)249
内径×行程(mm)76.0×55.0
圧縮比★10.7
最高出力(kW[PS]/rpm)18[24]/8,500
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm)23[2.3]/6,250
燃料供給装置形式電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉
始動方式★セルフ式
点火装置形式★フルトランジスタ式バッテリー点火
潤滑方式★圧送飛沫併用式
燃料タンク容量(L)12
クラッチ形式★湿式多板コイルスプリング式
変速機形式常時噛合式6段リターン
変速比
 1速3.416
 2速2.250
 3速1.650
 4速1.350
 5速1.166
 6速1.038
減速比(1次★/2次)2.807/2.642
キャスター角(度)★27° 00′
トレール量(mm)★108
タイヤ
 前110/80R19M/C 59H
 後150/70R17M/C 69H
ブレーキ形式
 前油圧式ディスク(ABS)
 後油圧式ディスク(ABS)
懸架方式
 前テレスコピック式
 後スイングアーム式
フレーム形式ダイヤモンド
■道路運送車両法による型式認定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元)
■製造事業者/Thai Honda Co., Ltd.
■製造国/タイ 
■輸入事業者/本田技研工業株式会社

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著者プロフィール

ノア セレン 近影

ノア セレン

実家のある北関東にUターンしたにもかかわらず、身軽に常磐道を行き来するバイクジャーナリスト。バイクな…