ハーレーダビッドソンX350 1000kmガチ試乗|排気量や生い立ちを考えれば、賛否両論はあって当然⁉|1/3

オフロード系を除くアンダー400ccクラスは、一昔前は日本車が圧倒的な多数派だったものの、近年は海外勢も積極的な姿勢を示している。そんな状況下でハーレーダビッドソンが世に送り出したモデルが、スチール製トレリスフレームに水冷パラレルツインを搭載するX350だ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ハーレーダビッドソンX350……69万9800円

外装部品のモチーフは、1970~2000年代のAMAフラットトラック選手権で圧倒的な強さを誇ったXR750。カラーは、白、黒、橙、銀の4種。

普通自動2輪免許で乗れる、唯一の現行ハーレー

話題沸騰と言っては言い過ぎかもしれないが、2023年10月から日本での発売が始まったX350は多くのライダーから、いや、現時点でライダーではない人も含めて、かなりの注目を集めている。その最大の理由は言わずもがな、普通自動2輪免許で乗れる唯一の現行ハーレーダビッドソンだからだろう。もちろん、同社にとっては久々のフタケタ万円台、ヤマハMT-03やカワサキZ400などと大差がない69万9800円という価格も、X350が注目を集める一因だ。

ただし世の中には、“ハーレーにアンダー400ccモデルが必要なのか?”、“あんなのハーレーじゃない”、などと異論を述べる人もいるらしい。既存のハーレー好きの視点に立ってみれば、その気持ちはわからくはないけれど……。

中国のQJモーターとイタリアのベネリ

まず“ハーレーにアンダー400ccモデルが必要なのか?”という異論に関しては、近年になって急成長を遂げている東南アジア市場での勢力拡大を考えると、当然ながら必要だと思う。と言うより、KTM/ハスクバーナやBMWはすでにアンダー400ccクラスに力を入れているし、2024年からはトライアンフもこの市場への参入を開始したのだから、ハーレーダビッドソンの戦略は至って自然な流れだろう。

もっとも“あんなのハーレーじゃない”という意見には、僕も同意できなくはない。外装はらしさが全開のオリジナルで、各部のセッティングにはハーレーダビッドソンが関与しているけれど、X350の生産を担当しているのは中国のQJモーターで、パラレルツインのエンジンとスチール製トレリスフレームを筆頭とする車体は、同社の傘下であるベネリの302S/TNT249Sがベースなのだから(QJモーター自身も兄弟車として、SRK350/400を発売)。なおX350と同時期に開発されたX500も素性は同様で、現時点で販売しているのは日本と中国のみのようだが、こちらはヨーロッパのA2ライセンスも意識したモデルだと思う。

水冷パラレルツインのボア×ストロークは70.5×45.2mm。ちなみに兄弟車の数値は、ベネリTNT249S:61×42.7mm、302S:65×45.2mm、QJモーターSRK400:70.5×51.2mm。

まあでも、ハーレーダビッドソンが自社でゼロから設計していない車両、エンジンがVツインではない車両を販売するのは、X350とX500が初めてではないのである。1960~1970年代にはイタリアのアエルマッキが開発した、125~350ccの2/4スト単気筒車がラインアップに並んでいたし(2ストパラレルツインの250・350・500ccレーサーも存在)、1948~1960年代はドイツ生まれのDKW・RT125を規範とする、2スト単気筒車を数多く販売していた。さらに言うなら第二次世界大戦前には、イギリスのダグラスやドイツのBMWを思わせる、水平対向2気筒車を生産したこともあるのだ。

1956年から発売が始まったアエルマッキの水平単気筒シリーズは、低めのハンドル+ファンネル仕様のイメージが強いものの、ハーレーダビッドソンブランドではアップハンドル+エアクリーナー付きが定番となった。

言ってみればX350は、ハーレーダビッドソンにとって重要なモデルでありながら、生粋のハーレーダビッドソンではないのだが、日本への導入直後から話題になり、世間から大きな注目を集めていることを考えれば、このモデルはすでに同社にとって大きなプラス材料になっているのだろう。もっとも今回の試乗で当初の僕が意識していたのは、ハーレーダビッドソンとしてどうかではなく、普通自動2輪免許で乗れる最新の350ccパラレルツイン車として、どんな性能を味わわせてくれるのか、ということである。

灯火類はフルLED。イグニッションをオンにすると、ヘッドライト中央の社名ロゴと下側のデイタイムランニングライトが点灯する。

よく言えば普通、悪く言うなら主張が希薄……

さて、前フリがずいぶん長くなってしまったものの、ここからはようやくインプレ編。まずは今回の試乗で初めてX350を体験した僕の第一印象を述べると、よく言えば普通、悪く言うなら主張が希薄……だった。その主な原因は、振動対策用の1軸バランサーがいい仕事をしすぎている感があるエンジンで、もちろんハーレーダビッドソン特有のドコドコ感みたいなものはまったく期待していなかったのだけれど、まさか2気筒らしさがここまで感じづらいとは。

そんなX350のエンジンは、近年の500cc以下のパラレルツインでは珍しい(と言っても、ベネリの302S/TNT249SとQJモーターのSRK350/400も同じ)360度位相クランクを採用している。だから僕としては、他メーカーで主力の180度位相クランクとは異なる魅力を期待していたのだが、どんな走りをしてもなかなかグッと来る要素が見当たらない。あえて特徴を挙げるなら、等間隔爆発ならではの滑らかさが感じられることと、全域でスムーズに回って振動がきっちり抑え込まれていること……だろうか。

一方の車体に関しても、コレといった個性は発見できなかった。他メーカーのライバル勢と比較すると、大柄な車格が特徴と言えなくはないものの(車重は195kgで、ホイールベースは1410mm。ちなみにパラレルツインエンジンの日本車、ヤマハMT-03は167kg/1380mmで、カワサキZ400は166kg/1370mm)、だからと言ってビッグバイクに通じるフィーリングが味わえるわけではない。また、車体で僕が気になったのは後ろすぎるステップ位置。この件については、ベネリの302S/TNT249Sと同じ車体構成を採用しながら、シート高を18mm下げたことが主な原因のようで、現状のハンドル&シートとのバランスを考えると、もう少し前方に設置するべきではないかと思う。

いずれにしても、第一印象は芳しくなかったX350だが、バイクの本質はある程度の距離を走ってみないとわからないものである。改めて振り返れば過去に当記事で取り合げたホンダGB350だって、僕の第一印象はいまひとつで、エンジンは主張が薄く感じたし、車体は重さが気になったのだが、距離が進むにつれて印象がガラリと好転したのだから。というわけで近日中に掲載予定の第2回目では、約1000kmをじっくり走っての感想を紹介する予定だ。

スチールフレームはトレリスタイプで、スイングアームは右側を“への字”とした左右非対称デザイン。QJモーター/ベネリの設計を転用した結果ではあるけれど、いずれもハーレーダビッドソンとしては初の構成だ。

主要諸元

車名:X350
全長×全幅×全高:2110mm×──mm×──mm
軸間距離:1410mm
最低地上高:143mm
シート高:777mm
キャスター/トレール:24.8°/100mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:353cc
内径×行程:70.5mm×45.2mm
圧縮比:11.9
最高出力:27kW(36PS)/8500rpm
最大トルク:31N・m(3.16kgf・m)/7000rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.167
 2速:2.055
 3速:1.555
 4速:1.332
 5速:1.190
 6速:1.000
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:直押し式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:160/60ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:195kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:13.5L
乗車定員:2名

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…