アルピーヌA110の最強グレード「A110R」をハラマサーキットで試乗

軽量なアルピーヌA110を過激仕上げた「A110 R」はサーキットで試乗してこそ真価を発揮する物騒なマシンだった

屈指の軽量性能で極上のドライビングプレジャーを提供するアルピーヌのA110は、ライトウエイトスポーツの筆頭モデルだ。そしてRadical(過激)を意味する「R」は、シリーズに新たに加わった野心作。マドリッドのサーキットでポテンシャルを測る。

Alpine A110 R

過激に軽量化されたクラブスポーツ

プロ・アマ問わずエンスージアストたちから絶大な支持を得る現代のライトウエイトスポーツカー、アルピーヌA110。その最終章ともいうべき「A110R」に、スペインはマドリッドにあるハラマ・サーキットと、その周辺道路で試乗することができた。

さてこのA110Rのキャラクターを端的に説明すると、それは「過激に軽量化されたクラブスポーツ」ということになる。そう、アルピーヌいわくRの頭文字は、“Radical”を意味するという。

ただしその車重「A110S」と比較して、26kg軽いだけの1090kgでしかない。もちろん現代水準で考えればこの車重は十分に軽いが、例えばそこにはアルミ製プラットフォームをフルカーボンモノコックに置換して、車重が1tを切った! などという荒技は用いられていない。

では一体そのどこが“ラディカル”(過激)なのか? それはずばり、ドライビングプレジャーを追い求める姿勢にある。

その証拠にA110Rの乗り心地は、スパルタンなチューニング内容からは想像できないほど穏やかだ。バネ下には18インチの「ミシュラン パイロットスポーツCUP2」が奢られ、高められたショルダー剛性が時折不整地で存在感を示すけれど、20段の減衰力調整機構を備える車高調式ダンパーの動きはとても緻密。なおかつ放熱性と空力性能の向上を目的にディッシュ面が前後異形、かつ本体と分割構造になったカーボン製ホイールが、バネ下の動きを整えている。また素材は同じカーボン製ながら、A110Sからさらに2脚で約5kg軽量化されたフルバケットシートも、的確なパッドの配置によってホールド性と快適性を高次元でバランスしていた。

最強のA110として登場する「A110 R」のアグレッシブなエクステリアを予感させる画像も公開された。

非公開: 軽量化とシャシーを強化した「アルピーヌ A110R」がF1日本GP開催中の鈴鹿サーキットでワールドプレミアされる!

アルピーヌは、日本時間10月4日20時30分、新型ハイパフォーマンス仕様「A110 R」を、F1日本GP開催中の鈴鹿サーキットにおいてワールドプレミアする。さらに、「RADICAL」と称した、A110 Rの変更点を予告する画像も公開した。

この軽さが紡ぎ出す進入速度は

ピットロードで感じたこのちょっとした驚きは、コースインしてさらに大きなものとなった。日本に比べ路面μが低いハラマでは、走り出しこそ発熱しきれなかったフロントタイヤがいきなりロックアップして1コーナーをオーバーランしたものの、いったんこれが暖まってからのA110Rは、極めてクラブマン・フレンドリーな挙動を示した。

車体にミッドマウントされる1.8リッター直列4気筒ターボの出力は、A110Sの300PS/340Nmから変わりない。これはフランスのCO2排出量に対する課税や、駆動系における耐久性を考慮した結果だ。とはいえ0-100km/h加速3.9秒、パワーウエイトレシオ3.6kg/PSの走りは俊足で、アマチュアが手の内に納められるギリギリのスピード感にはむしろ好感が持てる。

そしてこの軽さが紡ぎ出す進入速度は、前後320mm径のバイメタル2ピースローターで確実に減速される。ちなみにバンパーにはダクトが新設されており、その冷却性能はA110S比で20%向上している。

低速から高速域まで幅広いレンジをこなす

ブレンボ製のモノブロック・アルミキャリパーは公道をも想定したパッドの関係かタッチがややソフトだったが、踏力に応じて減速Gが調整しやすい。そしてこの感覚にトーンを合わせるかのように、ターンインでは足まわりがしなやかに追従する。その足まわりはA110S比でスプリング剛性が前後10%。スタビライザー剛性はフロントで10%、リヤで25%高められているが、操舵に対するリニアリティや、ロールさせながら姿勢を作り込んで行く様には、アルピーヌらしさが残されている。A110やA110Sと異なるのは、リヤの安定感。ヘルパースプリングとサブタンクを持つダンパーの効果だろう、車高を20mm低めた状態でも後輪が路面を捉え続け、ターンインでオーバーステアが出ない。

そしてこの安定性は、高速コーナーでさらに高まる。A110Rは幅広なサイドステップとリヤにオフセットしたウイング、そして大型化したディフューザーによって、リヤのダウンフォース量をA110比で110kgも向上させている。面白いのはA110Sの方がフロントのダウンフォース量が60kgと30kgほど高いことだが(対してリヤは29kg低い)、代わりにバンパー開口部を狭め空気抵抗を5%減らし、最高速を285km/hまで高めた。このことからも解る通りA110Rは、低速から高速域まで、幅広いレンジでの性能を追い求めたモデルだと言える。

ひとつ残念だったのは試乗車のダンパーセッティングが、極端に安全方向へ振られていたこと。もう少しフロントのダンピング剛性を強めるか、リヤの伸び側を緩めることができれば、より一体感が高まったのではないか。とはいえこうしたセットができるのも、「R」の特権だ。

またエンジンをレブリミット付近まで回すと、スムーズな変速ができずレブを打つ場面が何度かあった。ターボということを考えてもそのシフトアップは、トルクピークを過ぎたら直ぐに行う方がよさそうだ。

カタログモデルとして残る

まだその素性を推し量るにはマイレージが足りないけれど、A110Rの第一印象は、極めて扱いやすいクラブレーサーだと思えた。ちなみに公道ではその車高を10mm高め、ダンパー減衰力を和らげることで良好な乗り心地が得られていたから、ガレージからサーキットまでの道のりも、大きな我慢を強いられることはないだろう。個人的にはA110Sを独自にチューニングすれば2倍のプライスにはならない気もするが、26kgの軽さだけでなく空力性能が、どれほどの差になるかはわからない。ちなみに上半期の18台は既に完売だが、ガソリンモデルとしてA110が販売を続ける限り、Rもカタログモデルとしてその生産は続くとのことだ。

REPORT/山田弘樹(Kouki YAMADA)
PHOTO/Alpine Japon
MAGAZINE/GENROQ 2023年4月号

SPECIFICATIONS

アルピーヌ A110 R

ボディサイズ:全長4255 全幅1800 全高1240mm
ホイールベース:2420mm
車体重量:1090kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1798cc
最高出力:221kW(300PS)/6300rpm
最大トルク:340Nm(34.6kgm)/2400rpm
トランスミッション:7速AT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前215/40R18 後245/40ZR18
最高速度:285km/h
0-100km/h加速:3.9秒
車両本体価格:1500万円~

【問い合わせ】
アルピーヌ・コール
TEL 0800-1238-110
https://www.alpinecars.jp/

2022年シーズン、BWT・アルピーヌF1チームからF1グランプリに参戦するフェルナンド・アロンソが開発に参加した「A110 R フェルナンド・アロンソ リミテッドエディション」。

非公開: アロンソ推しなら購入しないと! F1マシンのカラーを採用した「A110 R フェルナンド・アロンソ リミテッドエディション」は32台限定

大幅な軽量化とパフォーマンスアップを果たしたアルピーヌ A110 Rの特別仕様、「A110 R フェルナンド・アロンソ リミテッドエディション」が発表された。BWTアルピーヌF1チームに所属する元F1チャンピオン、フェルナンド・アロンソからの様々なフィードバックが導入された特別なA110 Rは、世界32台のみの限定生産となる。

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

モータージャーナリスト。自動車雑誌『Tipo』の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した…