メルセデス・ベンツ・ミュージアムに「300 SL クーペ」を展示中

「メルセデス・ベンツ 300 SL クーペ」が起こしたセンセーションとは?「史上初のガルウィングドア採用市販車」

メルセデス・ベンツ・ミュージアムにおいて、来場者から高い人気を誇る「メルセデス・ベンツ 300 SL クーペ」。
メルセデス・ベンツ・ミュージアムにおいて、来場者から高い人気を誇る「メルセデス・ベンツ 300 SL クーペ」。
ドイツ・シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ・ミュージアム(Mercedes-Benz Museum)には、1954年2月に発表され、その後の自動車業界に大きなインパクトを与えた「メルセデス・ベンツ 300 SL クーペ」を展示中。300 SL クーペは、スペースフレームに3.0リッター直列6気筒エンジンを搭載し、市販車初採用のガルウィングドアが導入されている。

Mercedes-Benz 300 SL Coupe

シルバーのボディカラーにレッドの内装

メルセデス・ベンツ・ミュージアムにおいて、来場者から高い人気を誇る「メルセデス・ベンツ 300 SL クーペ」。
メルセデス・ベンツ・ミュージアムのレジェンド・ルーム4で展示中の「メルセデス・ベンツ 300 SL クーペ」は、シルバーのボディカラーに鮮やかなレッドのインテリアが組み合わせられている。

シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ・ミュージアムは、様々なトピックに関する「クローズアップ」企画を展開中だ。今回、取り上げるのは、美しいガルウィングを備えたスポーツカー「メルセデス・ベンツ 300 SL クーペ」だ。

レジェンド・ルーム4「戦後の奇跡 – 1945年から1960年までのフォルムと多様性(Post-war miracle – form and diversity, 1945 to 1960)」には、「メルセデス・ベンツ 300 SL クーペ(W 198)」を展示中。特徴的なガルウイングドアを備えた2シータークーペは、そもそも市販化の予定はなかったと言われている。

メルセデス・ベンツ・ミュージアムに展示されている300 SL クーペは、美しく輝くシルバーのボディカラーに、鮮やかなレッドの内装が施された仕様。レジェンド・ルーム4を訪れた自動車ファンの多くが、このクルマの周囲を歩きまわり、何枚も写真を撮る。70年前の初公開以来、300 SL クーペは誰にとっても、夢のクルマなのだ。

1954年のニューヨークショーで初公開

メルセデス・ベンツ 300 SLは、1954年のニューヨーク国際オートショーにおいて、190 SLと共に初公開された。
メルセデス・ベンツ 300 SLは、1954年のニューヨーク国際オートショーにおいて、190 SLと共に初公開された。

1954年2月6日、ニューヨーク国際オートショーが開幕すると、メルセデス・ベンツはまったく予想外のクルマを持ち込み、世界中の人々を驚かせた。メルセデス・ベンツが現代で言うところの「スーパースポーツ」を発表したのである。

その名は「300 SL」。その際立った特徴のひとつが上方に跳ね上がるガルウィングドアであり、当時市販車で初めて採用された新技術だった。発表に際し、メルセデス・ベンツは300 SLのために特別な演出を採り入れている。エレガントなドレープが施されたクロスで覆われ、少し高い位置の丸いターンテーブルの上に鎮座していた。

この年のニューヨーク国際オートショーでは、エレガントなロードスター「190 SL(W121)」も同時公開された。どちらのモデルもアメリカ市場を強く意識しており、ニューヨークがワールドプレミアの場に選ばれたのである。

必然だったガルウィングドアの採用

メルセデス・ベンツ 300 SL クーペのガルウィングドア。
軽量かつ強靭なチューブラー・スペースフレームが採用された300 SLは、その構造上サイドシルが高い位置にあり、通常のドアでは十分な開口部を設けられないため、特徴的なガルウィングドアが採用された。

300 SLのベースとなったのは、メルセデス・ベンツがモータースポーツに復帰を果たした1952年に投入された、レーシングスポーツカー「300 SL(W 194)」。ミッレミリア、ル・マン24時間レース、カレラ・パナメリカーナ……世界で最も華やかなスポーツカーレースでの勝利は、市販仕様の300 SL(W 198)の遺伝子に強く刻まれた。

ガルウィングドアの採用はマーケティング上のギミックではなく、エンジニアリング上の必然だった。レーシングカー由来の300 SLは、レース仕様の300 SL(W 194)と同様に軽量かつ強靭なチューブラー・スペースフレームを備えていた。そのため比較的サイドシルが高く、 従来のドアデザインでは十分な開口部を設けることが不可能だったのだ。そのため、上向きに跳ね上げる、ガルウィングドアが採用された。

ガルウィングドアには細かな設計上の工夫が導入されている。ドア上部に取り付けられたスプリングにより、容易な開閉を実現。スプリングによりオープンポジションを維持することも可能になった。また、発表後すぐにニックネームが与えられた。アメリカ人は「ガルウイング(カモメの翼)」と呼び、フランス人は「パピヨン(蝶)」と名付けている。

ただ、その形状からウィンドウの開閉機能は導入できなかった。300 SLのサイドウインドウは、レバーで固定機構を解除することで取り外すことができる。取り外したサイドウインドウは、トランクに入れて持ち運ぶことができた。

ロードスターに採用された通常ドア

特徴的なガルウィングドアだったが、やはり乗り降りの不便さが指摘されており、「300 SL ロードスター」では、スペースフレームが改良され、フロントヒンジ・ドアが採用された。
特徴的なガルウィングドアだったが、やはり乗り降りの不便さが指摘されており、「300 SL ロードスター」では、スペースフレームを改良。サイドシルの位置が下げられ、フロントヒンジ・ドアが採用された。

300 SLに乗り込むには、ある程度のコツを要した。魅力的なガルウィングだったが、日々の乗り降りでは、不便だと判断されたのだろう。1957年に投入された後継モデル「300 SL ロードスター」は全く異なる解決策が採り入れられた。

このオープン仕様にはフロントヒンジ・ドアが採用されていたのだ。一般的なフロントヒンジ・ドアを導入するため、スペースフレームに改良が加えられ、サイドシルが低く変更された。この改良型スペースフレームも、レジェンド・ルーム4に展示されている。

300 SLのドアハンドルは、魅力的かつ機能的なディテールだ。小さなスイッチを軽く押すとハンドルが折り畳まれ、引っ張るとドアがスイングして開く。これはエレガントさをアピールしながら、同時に空力的な効果も備えている。

300 SLは他にも多くの特徴を備えていた。ほぼ理想的な重量配分、先進的なサスペンション、そして革新的な3.0リッター直列6気筒エンジンといった具合だ。エンジンには量産車として世界で初めて4ストロークが採用され、最高出力は300 SL(W 194) の125kW(170PS)から、158kW(215PS)へと約25%も向上している。最高速度は250km/hに達し、1950年代半ばとしては驚異的なパフォーマンスを発揮した。

300 SL クーペは1954年から1957年にかけて1400台を生産。後継モデルのロードスターも1858台が世に送り出されている。

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