Q4とQ8の間を埋めるアウディのフル電動モデル「Q6 e-tron」に試乗

フル電動ミドルSUV「アウディ SQ6 e-tron」に試乗して感じた「アウディに変革をもたらす可能性」

アウディのミドルサイズ電動SUV「Q6 e-tron」についに試乗できる僥倖を得た。新型ポルシェ・マカンとプラットフォームを共有するQ6 e-tronはアウディらしい走りを有しているのか? スポーツグレードのSQ6 e-tronをメインに試乗記をお届けしよう。
アウディのミドルサイズ電動SUV「Q6 e-tron」についに試乗できる僥倖を得た。新型ポルシェ・マカンとプラットフォームを共有するQ6 e-tronはアウディらしい走りを有しているのか? スポーツグレードのSQ6 e-tronをメインに試乗記をお届けしよう。
アウディとポルシェが共同開発したBEV専用プラットフォーム「PPE」を採用したQ6 e-tron。Q4とQ8の間を埋めるアウディにとって重要なモデルとなる電動SUVだ。最新テクノロジーが満載されたQ6 e-tronとはいかなるSUVなのか? スポーツモデルとなるSQ6 e-tronをメインに、その驚くべき性能をお伝えしよう。(GENROQ 2024年9月号より転載・再構成)

Audi SQ6 e-tron

アウディにとって必要不可欠だったミドルサイズ電動SUV

コンパクト電動SUVのQ4 e-tronとラージ電動SUVであるQ8 e-tronの間にラインナップされるミドルサイズ電動SUVだ。ポルシェと共同開発したプラットフォーム「PPE」を採用している。
コンパクト電動SUVのQ4 e-tronとラージ電動SUVであるQ8 e-tronの間にラインナップされるミドルサイズ電動SUVだ。ポルシェと共同開発したプラットフォーム「PPE」を採用している。

2033年までにICEの販売を段階的に廃止する計画を打ち出しているアウディ。現在、アウディは4ドアGTの「e-tron GT」、コンパクトSUVの「Q4 e-tron」、ラージSUVの「Q8 e-tron」と3モデルのBEVをラインナップしているが、電動化を推進する彼らにとってどうしても必要不可欠だったピースがQ4とQ8の間を埋めるミドルサイズSUVだったのは容易に想像がつく。そのSUVのラストピースとして3月に発表されたのが「Q6 e-tron」だ。

Q6 e-tronはアウディとポルシェが共同開発したBEV専用のPPE(プレミアムプラットフォームエレクトリック)を採用し、インゴルシュタット工場で生産される初のフル電動モデルとなる。

パワートレインはQ6 e-tron(以下、Q6)、SQ6 e-tron(以下、SQ6)ともにフロントアクスルにASM(非同期モーター)、リヤアクスルにハンガリー工場で生産される新開発のPSM(永久磁石同期モーター)を搭載するAWDモデルとなる。リヤに搭載されるPSMはわずか118.5kgと軽量ながら、280kW/580Nmという強力なマックスアウトプットを実現しているのが特徴だ。

充電中にヘッドアップディスプレイ上でゲームが楽しめる

フロア下に敷き詰められるバッテリーは12モジュール構成でそれぞれに15個の角形セルが並び、容量は100kWh(ネット94.9kWh)となる。新採用のプラットフォームPPEは800Vシステムを採用したことで、最大270kWの高速充電に対応。これにより、わずか10分で最大255kmの航続距離を確保するほか、約21分で10%から80%まで充電容量が回復するという。ちなみに最大航続距離はQ6が625km、SQ6が598kmとなる。

今回、筆者はスペイン・バスク州で行われた国際試乗会でアウディ最新BEVの実力を試す僥倖を得た。近年、モダン建築(近代建築の巨匠フランク・ゲーリーが設計したグッゲンハイム美術館など)や町並みの再整備により芸術・観光都市として有名となったビルバオから、世界屈指の美食の街として有名なサンセバスチャンを2日間で往復するワインディング有り、ハイウェイ有りの起伏に富んだ試乗ルートだ。

厚みのあるSQ6のシートは超快適だった

まずはノーマルのQ6の運転席に収まり、ハイウェイを目指す。ふとルームミラーに目を移すと後続のQ6のフロントマスクに目が釘付けになった。「なんて未来的でスリークなSUVなんだろう」。まるで岩の塊から削り出したような彫刻芸術を想起させる力強く鋭角なボディと、セレナイトシルバーとグロスブラックの2色が設定されたシングルフレームグリルがQ6が醸し出す未来的な印象に一役買っている。一度Q6を見てしまうとQ4やQ8のデザインがやや古く感じてしまったのは、紛れもない事実だ。Q6のターゲットはカップルや若いファミリーだとアウディは語っていたが、時代の感度に敏感な独身男性&女性にも十分突き刺さるポテンシャルを持ったデザインだと感じた。

閑話休題。Q6の走りはあまりBEVであることを感じさせない極めてナチュラルなフィーリングだ。まず驚いたのが加速のマナー。BEVといえば、アクセルを全開にするとヘッドレストに頭を打ち付けるほど急激かつ不快なGが襲ってくるモデルが多いが、Q6にはそれがない。もちろん285kWのシステム出力を有するので踏めば速いが、その加速が実にスムーズなのだ。Q6は1ペダルと任意で回生の強さを設定できるマニュアル、オートの3つの回生モードを選択できるが、1ペダルモードでもそれほど強力な制動Gを感じることはない。この加減速のスムーズさは、従来のBEVでは体験できない実に洗練された所作である。

Q6の試乗車はオプションの21インチタイヤを装着したエアサス仕様。ハイウェイでは走行モードを頻繁に切り替えて走ったが、コンフォートとバランスドが好印象。豊かなサスのストロークと相まってハイウェイの凹凸を柔らかくいなしてくれる。

やや気になったのが最新のADASだ。ハイウェイ走行時、タイヤが少しでも車線に触れただけでも、過敏にステアリングに干渉してくる。

同乗者にも最高のおもてなしを提供

その一方でこれぞアウディらしいと感じたのが最新のインフォテインメントシステムだ。2枚のディスプレイを繋ぎ合わせたカーブドOLEDスクリーンは実に高精細で鮮やかだ。スクリーン自体が大型なので、運転中も迷わず操作することができる。またユニークなのが助手席前に備えられた10.9インチMMIパッセンジャーディスプレイだ。助手席の乗員が移動中に映画やストリーミング再生を楽しめる優れもので、アクティブプライバシーモードを備えるため、ドライバーは走行中に助手席側のディスプレイを視認することはできない。

これら走りの制御や最新インフォテインメント技術、ADAS、快適装備、ドメイン間のネットワークを司るのがQ6に初搭載された新開発「E3 1.2電子アーキテクチャー」だ。「E3 1.2」は5台の高性能コンピューターが用いられており、上記のインフィテインメントからモーターのパワー配分にいたるすべての車両機能を制御している。もちろんこちらもポルシェと共同開発したものだ。

翌日SQ6に乗り換えると、そのキャラクターの違いに軽い衝撃を覚えた。走り出しからスポーティなサウンドが車内に轟き、気分を高揚させてくれる。ダイナミックモードでは車高が下がり、アクセルに対してより機敏にトルクが立ち上がり、面白いほど正確無比にコーナーをトレースしていく。だからといって決して粗野な振る舞いを見せないのがアウディらしい。ステアリングはやや軽めな操舵感だが、雑みのないすっきりとしたステアフィールはICEのアウディと何ら変わることはない。

帰路、まるで箱根ターンパイクのようなスムーズな路面の高速ワインディングを走行したが、そこでのSQ6はまるで水を得た魚のようだった。わずかなロールを伴いながら、一定舵でコーナーを曲がっていく。とても車重が2.3tもあるクルマを運転しているとは思えない。380kWの高出力は伊達ではなく、アクセルを入れると瞬時にリヤとフロントに適切な駆動力を伝達してくれる。SQ6はまるでスポーツGTのような所作でワインディングをファンに駆け抜けた。最新の電子アーキテクチャーが寄与しているのか、ダイナミックモードでも、一般道〜ハイウェイを含め、実に快適なフラットライド感を味わうことができた。SQ6のオーナーはデフォルトでダイナミックモードを選んでもいいと思う。Q6の安心感も捨てがたいが、個人的に選ぶなら断然SQ6だ。

日本導入は2025年を予定

試乗車はオプション設定の21インチホイールとエアサスペンションを装備していた。SQ6 e-tronの走りは従来のBEVとはまた違った高級感にあふれるものであった。
試乗車はオプション設定の21インチホイールとエアサスペンションを装備。SQ6 e-tronの走りは従来のBEVとはまた違った高級感にあふれるものであった。

惜しむべくはQ6、SQ6ともに日本導入が2025年になるという事実だろう。アウディのBEVの概念を一変するに違いない、Q6こそいち早く日本のユーザーに味わってもらいたいものだ。

スペインでの最終日、休日で賑わうビルバオのバルで様々なタパスを堪能し、旅の終わりの寂寥を感じながら宿へ向かっていた。その時、突然、懐かしいエニグマの名曲「Return To Innocence」が街中のスピーカーから大音量で流れてきた。そのメランコリックかつダンサブルな曲は夕暮れ時のオレンジ色に染まったネルビオン川とビルバオの街、そして楽しげに闊歩するスペインの若者たち、すべてを内包して信じられないほど自然に溶け込んでいた。二度とないその刹那は僕の琴線を激しく刺激した。「Return To Innocence(無垢への回帰)」、それはもしかするとSQ6からの粋なメッセージだったのかもしれない。

REPORT/石川亮平(Ryohei ISHIKAWA)
PHOTO/AUDI AG
MAGAZINE/GENROQ 2024年9月号

SPECIFICATIONS

アウディSQ6 e-tron〈Q6 e-tronクワトロ〉


ボディサイズ:全長4771 全幅1939 全高1648mm
ホイールベース:2899mm
車両重量:2350kg
モーター:システム最高出力:380kW(517PS)〈285kW(381PS)〉
トランスミッション:1速固定
駆動方式:AWD
EV航続距離(WLTP):598〈625〉km
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
0-100km/h加速:4.3〈5.9〉秒
最高速度:230〈210〉km/h

【問い合わせ】
アウディ コミュニケーションセンター
TEL 0120-598-106
https://www.audi.co.jp/

最新アーキテクチャーPPEを採用した「アウディ Q6 e-tron」の走行シーン。

最新アーキテクチャーPPE採用の「アウディ Q6 e-tron」がデビュー「アウディEVで最大の航続距離652km」【動画】

アウディは、フル電動プレミアムミッドサイズSUV「Q6 e-tron」を正式発表した。インゴルシュタットで生産される初のEVとなり、ポルシェと共同開発した新型電動アーキテクチャー「プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック(PPE)」を初採用。欧州各国では2024年3月からオーダーが開始され、2024年第3四半期からデリバリーされる予定だ。

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著者プロフィール

石川亮平 近影

石川亮平

スーパーカー&プレミアムカー雑誌「GENROQ」に在籍しながらも、カジュアルなフレンチカーも大好物な編集…