究極のヴィンテージカーショー「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステ」体験記(前編)

「隣の席はセリアAチームオーナー!?」憧れのヴィンテージカーショー“ヴィラデステ”に参加して見た景色

今回、個人的にもっとも興奮したDクラス。その名も「TITANS OF THE TRACK WHEN THE BOSS SAYS “LET'S RACE!”」。洒落てる。
今回、個人的にもっとも興奮したDクラス。その名も「TITANS OF THE TRACK WHEN THE BOSS SAYS “LET’S RACE!”」。洒落てる。
2025年5月23〜25日、イタリアのコモ湖を舞台に開催された「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステ」。その由緒正しいヴィンテージカーショーにエントラント側として参加したのが、ゲンロクWebでもお馴染みの西川淳氏だ。めくるめく華やかなショーの舞台裏を2回に渡って寄稿する。

Concorso d’eleganza Villa d’Este

100年前は最新ハイエンドモデルショー

ホテルのテラスレストランで朝食を摂る。ここからの眺めがまた最高だ。
ホテルのテラスレストランで朝食を摂る。ここからの眺めがまた最高だ。

自動車趣味の世界で“ヴィラデステ”といえば、毎年5月に開催される正式名「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラデステ」を指す。ヴィラデステそのものは、16世紀に建設の始まった貴族の邸宅で、19世紀以降はイタリア屈指のレイクリゾート・コモ湖畔にあって最もシンボリックな5スタークラシックホテルとして多くのイタリア人が憧れる場所となった。宿泊楝にはかつてイギリス王妃も別荘として愛用した建物もある。美しい庭園が最大の魅力であり、ユネスコ世界遺産にも登録されている。

そんな由緒あるヴィラデステで“カーショー”が最初に開催されたのは、実は相当に古い話で1929年9月のこと。およそ100年も前のことだから、当然ながらヴィンテージカーのショーではなかった。当時の最新ハイエンドモデル、今でいうならハイパーカーや超ラグジュアリーモデルのワンオフカーの祭典だった。

大戦中の中断を経て戦後に復活するも、一旦は幕を閉じた。およそ半世紀の中断を経てヴィンテージカーのコンクールとして復活。その可能性に目をつけたBMWがメインスポンサーとなることでイベントの基盤が確立する。現在の形式になって早四半世紀、ペブルビーチやグッドウッドと並んで世界中のカーコレクターが注目するコンクールイベントへと成長し、かつてない名声を獲得するに至った。今では原点に立ち戻って最新モデルの発表や、コンセプトカー&ワンオフモデルの展示も行うようになっている。

1972年に展示された個体そのもの

今回のエントリー車両「デ・トマソ パンテーラ Gr.4」。
今回のエントリー車両「デ・トマソ パンテーラ Gr.4」。

そんなヴィラデステに参加する日本人エントラントから「一緒に行こう」というお誘いを受けた。2年前にも同じように同伴参加の経験がある。それを買われて今回はエントリー車両のドライバー役も仰せつかったのだった。

ここからはエントラント目線で3日間にわたるイベントの内容を紹介してみよう(コンテストの結果など公式発表的な内容は検索すればいくらでも出てくる)。

今年のイベントは5月23日金曜日から25日日曜日にかけて催された。エントラントはまず23日夕方までに会場へチェックイン(車検)しなければならない。私たちはレンタカーでミラノ・マルペンサ空港からヴィラデステへと向かった。30分ほどのドライブで風光明媚(としか言いようのない)なコモ湖畔に到着する。湖岸道路は狭く、もとより小さな街が多いので、早くも渋滞が始まっていた。ヴィラデステ以外にも様々な催しが予定されているからだ。

到着するとまずクルマを受け取った。今回のエントリー車両は「デ・トマソ パンテーラ Gr.4」。わずか8台のみが生産されたグループ4ベース車両、それもホモロゲモデルではなくレースカーで、1972年のジュネーブショーに展示された個体そのものだ。8台中最後に生産され、一度もレースに使われなかった貴重な個体である。スーパーカーブームに沸いた1977年から日本にあるから、少年時代の私たちを大興奮させた個体そのものだろう。現オーナーは7年前に東京で開催されたオークションでこの個体を手に入れた。筆者もそのオークションに関わっていたから、運命の巡り合わせに心が躍る。

日本からの運搬中はガソリンタンクを空にしなければならない。用意しておいたガソリンを入れ、祈るようにエンジンを掛ける。静かな湖畔のホテルにV8の爆音が轟いた。「やってきたぜ、イタリア!」と、気分も大いに高まった。パンテーラGr.4にとっては、初の里帰りでもある。

持っている? セリアAチームを?

ホテルエントランス前に設けられたチェックインカウンターへ向かう。早くも戦前の「アルファロメオ 8C 2900」やネオクラシックの「フェラーリ F40 GTE」などが車検を待っている。受付でパス一式を受け取り、ホテルへのチェックインも済ませて、車検の順番を待つ。

パンテーラの番がやってきた。いよいよイベントが始まるのだという気分で盛り上がる。台の上に乗って、セレクティングコミッティー(選抜会議)の委員が車両をチェックする。オーナーへの簡単なインタビューと、車体番号やエンジン番号、クルマとしての基本的な機能を確認された。申し込み車両と相違ないか、走行可能であるかどうか、といったあたりのチェックである。無事に車検が終わるとホテルのガレージへ。全てBMWクラシックのスタッフが先導してくれる。彼らの献身的な働きはイベントの最後、なんなら終了後のチェックアウト時まで続いた。感謝しかない。

金曜日の公式行事としては夕方に参加者ブリーフィングがあり、そこでジャッジの紹介があった。庭では「BMW M2 CS」が披露されている。そしてもうひとつのお楽しみがディナーパーティ。金曜夜はBMW主催のカジュアルな立食パーティだ。ここでもBMWの新型車「コンセプト スピードトップ」も発表されていた。

テーブルの隣に座った青年夫婦が「メルセデス・ベンツ CLK-GTR」のオーナーで、ネオクラシックのマニュアルミッションスーパーカー好き。意気投合し、大いに盛り上がる。なんでもセリアAチーム(!)も持っているらしい。こういう出会いがあるからヴィラデステは面白い。

驚きのレアモデル

ヴィラデステの本番は日曜ではなく土曜。これは覚えておいた方がいい。7時にホテルのテラスレストランで朝食を摂る。ここからの眺めがまた最高だ。ガレージからパンテーラを出す。展示場所へ誘導されると7時半の段階ですでに半数以上が並んでいる。9時から10万円近くの入場料を払った観客が入り、クラス(8つある)ごとのジャッジも始まった。

パンテーラはクラスGだ。絶滅寸前とびきりレアで忘れられないモデルたち、という感じのキャッチフレーズだったが、そんなことをいうとここに並ぶ50台はみんなそう。隣のクラスで横に並んだ「ブガッティ EB110 GT」などは珍しいグリーンながら一見ノーマルに見える。どうして?と思ったら、プリプロダクションの最終プロトだった。要するに、たとえブガッティであってもフツーの生産車両では出場は叶わない。そこに並ぶ価値があるかどうかで参加の可否は判断される。「マクラーレン F1」も“GTR”の“ショートテール”だったしF40は“GTE”でミケロット本人がドライブした。

クラスGに並んだなかでも驚きのレアモデルが、これまたお隣の1967年式「OSI シルバーフォックス・プロトタイプ」だ。現物を見るのはもちろん初めて。双胴船のようなスタイルで、一見してどこにエンジンが入っているのかまるでわからない。バイクを2台つなげただけかと思ったほどだ。エンジンは左後輪の前に斜め45度の角度で収納されていた。アルピーヌの1100ccだ。2つのボディをつなぐブリッジはスポイラーとして機能し、フロント内部には前アクスル、リヤにはギアボックスと後アクスルが収まっていた。OSIは元ギアのデザイナーが興したカロッツェリア。奇怪な姿なのに見れば見るほど美しい。イベントの間中、ことあるごとに写メられていた。

イベントのハイライトは……

いろんな人が話しかけてくる。もちろんパンテーラファンも多い。中にはパンテーラクラブ員やパンテーラを3台持っているなんて人もいた。6月上旬にルクセンブルクでパンテーラミーティングがあるから来い、という嬉しいお誘いも。残念ながらすぐに送り返す船便を手配されていたのでお断りするほかなかったが……。

旧知の友人たちも歓迎してくれた。なかでも我らがヴァレンティノ・バルボーニもやってきて、いつものように笑顔で記念撮影に応じてくれた。ミウラもパンテーラもジャンパオロ・ダラーラの作品だ。彼も以前に乗ったことがあるという。ランボルギーニと比べてどうだ?と聞けば、「それぞれに個性があっていいクルマだ」とお利口さんの回答だった。

11時を回ってようやくジャッジがやってきた。クラスGは1948年式のタルボから1972年式のパンテーラまで年代のバラエティに富んでいる。シアタやペガソ、イソといったマニア垂涎の個体も多い。厳しい戦いになると踏んだが、案の定、クラスウィナーはタルボだった。ちなみに同じクラスだった「イソグリフォA3」はイタリア警察に捕まってクルマを押収されたらしい。ナンバーなし、保険なしで公道を走ったから、というけれど、そんなエントラントは他にもいた。だってレーシングカーだっていたのだから……。

審査が終わると、いよいよイベントのハイライト、ヴィラデステ内のパレードだ。といっても時速5kmくらいで観衆とジャッジの前を走り、紹介されるというもの。おなじみサイモン・キッドストンの名調子解説で観衆(といっても多くはオーナーとその仲間たち)の前を走り抜ける快感と言ったら! この日のパレードはパンテーラオーナーの奥様がドライブされた。これにはサイモンも観客も大喜びだった。次回は会場をヴィラエルバに移してレッドカーペットの様子までをお届けする。

「ミウラSVなど16台を手放してまで?」ヴィンテージカーショー“ヴィラデステ”に参加して聞いたすごい話

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2025年5月23日から25日にかけてイタリア・コモ湖において開催されたヒストリックカーイベント「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ(Concorso d'eleganza Villa d'Este)」に、メルセデス・ベンツはグループCレーシングカー「C11」と、2台の「CLK GTR」を持ち込んだ。

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西川 淳