フェラーリ デイトナ SP3、ラ フェラーリ以来のV12ミッドシップモデルの真相

フェラーリ史上最強の840ps! デイトナ SP3が示す「過去から未来」へ続くレジェンドとは?

フェラーリ デイトナ SP3のフロントスタイル
世界中から選ばれたジャーナリストのみを招待してムジェロ・サーキットで発表されたフェラーリ デイトナ SP3。開発チームに栄光のネーミング“Daytona”が与えられた限定車の真相を訊く。
デイトナ SP3はタイムレスなフェラーリの魅力を継承し、革新的な技術で提案される限定モデル、Iconaシリーズの第3弾。その原点は1960年代に活躍した330 P3/4だ。840psのNA V12気筒をミッドに搭載するこのモデルは、フェラーリのひとつの時代の頂点として長く記憶されるだろう。

Ferrari Daytona SP3

レジェンド、再来

フェラーリ デイトナ SP3のフロントスタイル
F1のテクノロジーを活かしたカーボンコンポジットのフレームに、自然吸気のV12をミッドシップする。V型12気筒をミッドに搭載するフェラーリの市販車はラ フェラーリ以来だ。ドアは上方に跳ね上がる。

鋭く空気を切り裂くフロントノーズは肉感的なフロントフェンダーの狭間で次第に上昇し、やがて戦闘機のキャノピーを思わせるウインドスクリーンへと溶け込んでいく。その両側にはふくよかな曲面を描くボディサイドが低い位置に設けられているが、最後は圧倒的な量感を誇るリヤフェンダーに呑み込まれながら、水平なパネルが何枚も重ね合わされたテールエンドで劇的なエンディングを迎える・・・。

フェラーリ・イーコナシリーズの第3弾としてデビューしたデイトナ SP3は、そのエクステリアデザインがすでに一遍の物語として通用するほど展開が感動的で美しい。そしてそのドラマチックなプロポーションが1960年代のレーシングプロトタイプにインスピレーションを得ていることは、皆さんもお気づきのとおりである。

そもそもデイトナ SP3というモデル名が、1960年代の耐久レース・シーンを思い起こさせるものだ。

1967年のデイトナ24時間レース。前年のル・マン24時間で宿敵フォードに初めて破れた“跳ね馬”は、ワークスチームが330 P4や330 P3/4を投入しただけでなく、フェラーリを走らせるプライベートチームにも412 Pを供給する“フェラーリ流”の物量作戦でレースに挑むと、続々とリタイアするフォード GT40勢を尻目に1-2-3フィニッシュを達成。歴史的にも有名なデイトナ・フィニッシュと呼ばれるフォーメーションを組んでチェッカーフラッグを受けたのである。

様々なレーシングプロトタイプから着想

フェラーリ デイトナ SP3のフロントビュー
1960年代のスポーツプロトタイプマシンを思わせるフェンダーのラインを持つ。ヘッドライト上部には可動式のパネルがあり、昔のスーパーカーに必須だったリトラクタブルライトを思わせる。

では、今回発表されたデイトナ SP3はこのうちのどれをモチーフにしてデザインされたのだろうか? チーフデザイナーのフラヴィオ・マンツォーニに訊ねると、こんな答えが返ってきた。

「イーコナシリーズは、歴史上の特定のモデルをイメージしてデザインされるわけではありません。例えば、その第1弾ならびに第2弾となったモンツァ SP1とSP2は、1950年代のバルケッタに着想を得たもので、166 MMや750モンツァなど、様々な伝説的モデルをイメージしてデザインしました。そして初めて世に出たフェラーリである125 Sもまたバルケッタでした」

同様の考え方はデイトナ SP3にも受け継がれたとマンツォーニは言明する。「60年代から70年代初頭にかけての様々なレーシングプロトタイプからインスピレーションを得ています。1台だけではありません」

歴史上のモデルの再現ではない。伝統を大事にし未来の1台を造る

フェラーリ デイトナ SP3のリヤスタイル
何本もの水平のルーバーが特徴的なリヤスタイル。ルーフとリヤフェンダーのラインはまさにクラシックなレーシングマシンを彷彿とさせる。

もうひとつイーコナシリーズで重要なのは、歴史上のアイコニックなモデルを再現するのが目的ではなく、伝統を大切にしながらも未来志向のモデルを造ることにあるという。これについては、フェラーリのマーケティング並びに販売部門を率いるエンリコ・ガリレラが教えてくれた。

「数年前にフェラーリのカスタマーと議論したとき、『歴史上のモデルをテーマにした場合でも、懐古主義に陥るのではなく、未来志向であって欲しい』との意見を多くいただきました。そして、これについては私たちフェラーリもまったく同じ考えを持っていました」

つまり、デイトナ SP3は60年代のレーシングプロトタイプをイメージしつつも、そこで用いられるデザインは未来志向が強く、最新のテクノロジーを用いるとのコンセプトが当初より定まっていたのだ。そしてこのような方向性は、マンツォーニ、ガリレラ、そして技術部門を統括するミハエル・ライタスの3人で相談して決めたという。

限定台数599台、約2憶6000万円のデイトナ SP3はすでに完売

フェラーリ デイトナ SP3のインテリア
オリジナルデザインのインテリアはシンプルで機能的。左右が一部で連続しているシートはフロアに固定されており、ドライビングポジションはペダルで調節する。

完成したデイトナ SP3のデザインは、往年のレーシングカーが持つ美しさを再現しながらも、モダンでフューチャリスティックなイメージでまとめ上げられている。そしてこの流麗なスタイリングを実現するため、空力デバイスはなるべく目立たないデザインとし、アクティブエアロを一切採用しなかった点も注目される。結果として、デイトナ SP3は純粋な美しさを備えたスタイリングに仕上がったといえるだろう。

一方ハードウェア面では、ラ フェラーリ アペルタのモノコックをベースとしつつ、812 コンペティツィオーネで登場した最新の自然吸気式V12エンジンをさらにチューンナップして搭載。最高出力はフェラーリ史上最強の840psに達する。ちなみに0-100km/h加速は2.85秒で、最高速度は340km/h以上と発表されている。

インテリアで興味深いのは、シートがカーボンモノコックに直接固定されている点で、このためシートはスライドせず、レーシングカーのようにペダルを前後させてドライビングポジションを調整するという。

デイトナ SP3の現地価格は200万ユーロ(約2億6000万円)。599台が限定販売されたが、ご想像どおりすでに完売という。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/Ferrari S.p.A
MAGAZINE/GENROQ 2022年 2月号

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【SPECIFICATIONS】
フェラーリ デイトナSP3
ボディサイズ:全長4686 全幅2050 全高1142mm
ホイールベース:2651mm
乾燥重量:1485kg
エンジン:V型12気筒DOHC
排気量:6496cc
最高出力:618kW(840ps)/9250rpm
最大トルク:697Nm(71.1kgm)/7250rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/30ZR20 後345/30ZR21
最高速度:340km/h以上
0-100km/h加速:2.85秒

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…