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Porsche 911 Carrera 4S
911のオフロード仕様でチリの最高峰へ
デビュー以来、60年近くにわたって、ポルシェ 911はサーキットや公道を舞台に、究極のパフォーマンスを発揮することを追求し続けてきた。今回、2台のユニークな911チリの高山に持ち込まれ、道なき道で過酷なテスト走行を繰り返した。アンデス山脈に属するオホス・デル・サラードは標高6893m。もちろん道などなく、空気が薄く、気温も氷点下、植物さえ生存できないような場所だ。
今回のチャレンジを率いたのは、耐久レースでポルシェのワークスドライバーとして活躍したロマン・デュマ(Romain Dumas)。チームは911の限界を探るべく、冒険の地として世界最高峰の火山の切り立った斜面を選んだ。
911による高山走行チャレンジプロジェクトが立ち上がり、ポルシェAGのコンプリート・ヴィークル・アーキテクチャー&キャラクター担当副社長を務めるフランク-シュテフェン・バリサー博士は、ポルシェ911のチーフエンジニア、ミハエル・レスラーにマシンの開発を依頼している。
「世界で誰も見たこともないような911を開発することは、魔法のような体験でした。今回、技術開発にに熱心な小さなチームによって、このプロジェクトが可能になったと言えるでしょう。911はすでにサーキットや公道において、その能力が証明されています。このプロジェクトでは、道なき道に焦点を当てています」と、バリサー博士。
「このプロジェクトでは、私たちが掲げた理論を試すため、最も過酷な環境を探し出し、それがうまく機能するかどうかを確認する必要があります。そして、世界で一番高い火山を舞台に、我々は成功を手にしたのです」
雪壁に阻まれるまで、登坂を続けた911
今回、チームとマシンによる、最初のテストが成功裏に完了。911 カレラ 4Sをベースとした実験仕様が、デュマのドライブにより、標高6007m地点を走行している。氷点下30℃、空気中の酸素量が海抜レベルの半分という環境下で、クルマとチームの能力を試される急勾配や氷原に挑んだ。
しかし、山頂付近の雪と氷でできた通行不可能な氷壁が走行限界点となり、チャレンジは終了。それでも、適切な条件下で車両の実力を測ることができたという。チームを率いたデュマは、最初のテストを終えて次のようにコメントした。
「美しく、そして過酷なこの地で、本当に忘れられない特別な瞬間を味わうことになりました。チームにとってもマシンにとっても、今回のテストは学ぶべきことがたくさんありました。911はトレーラーから出してすぐに、タフで軽快な性能を見せています」
「私たちは、登山家の皆さんに大きなリスペクトを持っています。火山の頂上で、これほど多くの氷と雪を見た人はいないでしょう。それでも私たちは標高6000mを超え、氷と雪の壁でこれ以上進めないというところまで行きました。このクルマとチームが初めて達成したことを誇りに思いいます。これからも多くの冒険が続くことになるでしょう」
911 カレラ4Sをベースに高地登坂仕様を開発
標高チャレンジ車両のベースとなったのは、最高出力443PSを発揮する3.0リッター水兵対向6気筒エンジンを搭載し、標準の7速MTを搭載した911 カレラ4S(タイプ992)。堅牢かつ軽量なシャシー構造、ショートホイールベース、十分なパワーと超高地への対応力など、911そのものが持つ優れたポテンシャルが証明された。
ミハエル・レスラー率いるヴァイザッハのエンジニアたちは、ロマン・デュマ・モータースポーツと密接に協力。高い標高を持つ場所での走行に必要な改造や装備の追加を行った。
2台の車両には、頑強なロールケージ、機材用ルーフラック、カーボンファイバー製シートと専用ハーネスを装着。さらに、足まわりを強化し、350mmという最低地上高を実現した。また、低速域での正確かつ穏やかなスロットル操作を可能にするため、専用の低いギヤレシオを導入。岩の上を滑ることができるように、軽量かつ高強度な専用のファイバー製アンダーボディプロテクション、不整地用に大径オフロードタイヤも装着されている。
新たなテクノロジー開発の場を求めるポルシェ
2台の911には、「ポルシェ・ワープ・コネクター(Porsche Warp-Connecter)」と呼ばれる、新デバイスが追加された。これはもともとモータースポーツ用に開発されたもので、4輪間にメカニカルリンクを追加することで、シャシーが厳しい負荷に晒された状況でも、各タイヤに一定の荷重を供給。最大限のトラクションが確保される。
手動で切り替え可能なディファレンシャルロックや、ステア・バイ・ワイヤシステムも採用。車体前部にウインチを追加し、310mm幅のオフロードホイールとタイヤのクリアランスを確保するため、ボディ形状も変更されている。1台目は、963 LMDhと同じポルシェ・モータースポーツのカラーリング、もう1台はヴァイザッハのスタイリングチームがデザインした、911をイメージしたカラーリングが採用された。
今回のプロジェクトは、今後ポルシェの技術開発に大きな進歩をもたらすと、バリサー博士は指摘する。
「30年以上前、ポルシェのエンジニアチームは4輪駆動を搭載した911を開発し、『もしも』を探求しました。エンジニアが持つ好奇心や限界への挑戦、新しいアイデアの検証、そして何よりもインスピレーションを産み続ける原動力が、今もポルシェに生きていることを誇りに思っています」
「このようなプロジェクトは、私たちポルシェにとって不可欠なものです。旅立ちのとき、チームは文字どおり高い空を目指していました。これが多くの冒険の最初の一歩となることを願っています」