「アストンマーティン ヴァルキリー」で東京を走る

2シーターのF1「アストンマーティン ヴァルキリー」の東京一般道試乗で「見たもの」と「わかったこと」

ヴァルキリーの注目度は凄まじい。最も大げさに喜んでくれるのは欧米からと思しき観光客だが、日本の皆さんもスーツ姿の方から若者も含めて、老若男女幅広い層がカメラを向けてくる。
ヴァルキリーの注目度は凄まじい。最も大げさに喜んでくれるのは欧米からと思しき観光客だが、日本の皆さんもスーツ姿の方から若者も含めて、老若男女幅広い層がカメラを向けてくる。
F1デザイナーであるエイドリアン・ニューウェイが生み出した「アストンマーティン ヴァルキリー」。F1マシンに限りなく近く、そして公道も走れるという驚きのクルマだ。ついに日本のナンバーを取得したヴァルキリーを、東京の街で走らせた。公道のF1が巻き起こす旋風をレポートする。(GENROQ 2023年7月号より転載・再構成)

Aston Martin Valkylie

公道に舞い降りた2シーターのF1

ミッドに搭載されるのはV型12気筒自然吸気レーシングエンジンだ。そこにモーターを組み込み、48Vバッテリーへのエネルギー回生と、スターターと動力アシストのためにハイブリッドとした。
ミッドに搭載されるのはV型12気筒自然吸気レーシングエンジンだ。そこにモーターを組み込み、48Vバッテリーへのエネルギー回生と、スターターと動力アシストのためにハイブリッドとした。

ヴァルキリーの日本上陸1号車にライセンスプレートが付いた。そう言われて実車を目にしても、このクルマが本当に公道を走っていいのか、にわかには信じられない思いだ。F1デザイナー、エイドリアン・ニューウェイが生み出した、2シーターのF1とも言える究極のスーパースポーツカー。その姿はフォーミュラマシンにカウルを被せただけ、と言えるもので、超特大のフロント&サイドウイング、剥き出しのサスアーム、大型トンネルのような特大ディフューザーなどが尋常でない迫力を醸し出す。これに比べたら通常の(?)スーパースポーツカーなど子供の乗り物に見えてしまう。

試乗車両はブラックのボディにゴールドのアクセントカラーが加えられているが、これは刀をイメージした、とオーナー。実にクールである。

ガルウイングドアを開け、ステアリングを外した室内に潜り込むには、モノコックの縁に一端腰掛けてから、身体を反転させアクロバティックな体勢が必要になる。ドラポジは足を持ち上げたF1流で、パッセンジャーとの距離も極めて近い。カーボンモノコックのコクピットがやたらとタイトなのは、走行風を下向きの力に変えて接地性を高める、ウインドトンネルの面積を確保するためだ。シートは固定式でポジション調節はペダルユニットをスライドさせて行う。つまりシートはベストな重量配分の位置で固定されており、ペダルとステアリングの調節により、身長差に関わらず理想的なドラポジが完了する仕組み。小柄な筆者はもちろんペダルを手前に引き出す。

パッセンジャーとの会話はヘッドホンで

四角いステアリングは中央のモニターに速度、回転、燃料、油温、水温等の各種情報。その下にイグニッション。N=ニュートラルとLC=ローンチコントロール。エンジンの始動はイグニッションONから各種データのやり取りの後となる。ブレーキを踏みつつクランキングしたモーター音の直後にV12は爆発的な音をたてて盛大に鼓動開始。あまりの音で、各種レクチャーのために同乗してくれたアストンマーティン東京の担当者氏との会話さえままならない。と思ったらなんとパッセンジャーとの会話はヘッドホンを通じて行うのだという。

ボディリフト用スイッチを押すと瞬時に車高が上がる。70mmと低い最低地上高で公道を走るには重要な装備だ。そろそろと道路に繰り出し、スロットルを踏んでいく。走行モード切り替えはアーバン、スポーツ、トラックとあり、もちろんアーバンを選択。ステアリングはパワーアシストがある割には重めの設定だが、ミリ単位の転舵が必要な300km/hカーでは、切り過ぎないための重要な重さなのだ。

ブレーキにサーボアシストが無いのは、ドライバーの踏力に頼るAMR Proと同じ発想。街乗りではブレーキディスクとパッドが喰い付くバイト感はないが、オーバー300km/hからの突んのめるほどのブレーキ力を知っていれば、踏力でコントロールするオトコらしさは、ヴァルキリーを象徴するものだと思える。

トランスミッションの機械音とV12サウンドが溢れる室内

ミッドにはV型12気筒を搭載するが、12気筒というと優雅に滑らかに回るというイメージが強い。だがこの12気筒はそれとはまた違う。燃料を一滴の無駄も無く爆発的にパワーとトルクに変え、駆動力に直結させる究極の自然吸気レーシングエンジンだ。そこにモーターを組み込み、48Vバッテリーへのエネルギー回生と、スターターと動力アシストのためにハイブリッドとしたことは時代の要請。1万1000rpmという超高回転を実現し、モーターを含むシステム合計1160PS/900Nmの途方もないスペック。モーターのみの走行は発進時のごく僅かだが、最高速度は355km/h。AMR Proでは富士スピードウェイで300km/hを呆気なく越える体験をした者としては、公道とはいえ、いや公道だからこそ身構えてしまう。

5000rpm以下ではメカニカルノイズと混ざり雑味があるV12サウンドだが、そこを超えるとサウンドは一変。アーバンモードでの上限9000rpmを味わうために乗った高速道路では、目を見開くほどの加速Gとハイトーンに変化したV12の魅惑のサウンドを体験できた。

だがカーボンモノコックにV12をダイレクトマウントするため、サウンドも振動もレーシングマシンそのもの。回生充電システムの作動音や変速とギヤ鳴りを含むトランスミッションの機械音。そしてV12サウンドが充満するコクピット。ヘッドホンが必要なわけだ。

本当のスピードフリークに向けた1台だ

フォーミュラマシンにカウルを被せただけ、と言えるヴァルキリー。超特大のフロント&サイドウイング、剥き出しのサスアーム、大型トンネルのような特大ディフューザーなどが尋常でない迫力を醸し出す。
フォーミュラマシンにカウルを被せただけ、と言えるヴァルキリー。超特大のフロント&サイドウイング、剥き出しのサスアーム、大型トンネルのような特大ディフューザーなどが尋常でない迫力を醸し出す。

それにしてもこの注目度は凄まじい。最も大げさに喜んでくれるのは欧米からと思しき観光客だが、日本の皆さんもスーツ姿の方から若者も含めて、老若男女幅広い層がカメラを向けてくる。信号待ちで停まるとスマホの砲列だ。実はクルマ離れなんて嘘なんじゃないの、なんて考えてしまう。ついコクピットで浮かれ気分、というかこれだけ注目されると妙な緊張感が走る。

7速シングルクラッチは速度が上がるほどに変速がスムーズになり、速く走れば走るほど乗り味も滑らかさを増し、路面へのダウンフォースが増えて安定感も増す。交通の流れに乗ればスムーズに走行できて、少し気も楽になる。とはいえこれはやはり本当のスピードフリークに向けた1台。それを公道に放ってしまうのは、アストンマーティンの遊び心なのだろうか。まともに走らせるにはスキルと男気が必要だが、個人的には大好物だ。

REPORT/桂 伸一(Shinichi KATSURA)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年7月号

【問い合わせ】
アストンマーティン・ジャパン・リミテッド
TEL 03-5797-7281
http://www.astonmartin.com/ja

【車両協力】
パパパゴー[8885channel]
https://www.youtube.com/@hypercarcircuit

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桂 伸一 近影

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