最大航続距離240kmのフル電動1929年製「ロールス・ロイス ファントム Ⅱ」

オリジナルの内外装に手を加えず中身をフル電動化した「ロールス・ロイス ファントム Ⅱ」

1929年に製造されたエレガントなスタイルを持つ「ロールス・ロイス ファントム Ⅱ」に、エレクトロジェニックが最新の電動パワートレインを搭載。最大航続距離は240kmが確保された。
1929年に製造されたエレガントなスタイルを持つ「ロールス・ロイス ファントム Ⅱ」に、エレクトロジェニックが最新の電動パワートレインを搭載。最大航続距離は240kmが確保された。
英国・オックスフォードを拠点とするエレクトロジェニック(Electrogenic)は、1929年製「ロールス・ロイス ファントム Ⅱ」のフル電動仕様を公開した。エレクトロジェニック社が独自開発した電動パワートレイン、93kWh容量のバッテリーを搭載し、最大航続距離150マイル(約240km)が確保されている。

Electrogenic 1929 Rolls-Royce Phantom II

これまでで最も複雑な電動化プログラム

エレクトロジェニックのフル電動「ロールス・ロイス ファントム Ⅱ」のエクステリア。
エレクトロジェニックは、これまで初代ディフェンダーや、ナロー911、オリジナル ミニと言ったモデルの電動化を行ってきたが、今回の「ロールス・ロイス ファントム Ⅱ」は、戦前に製造された車両が初めてベースとなった。

エレクトロジェニックは、技術部門の「パワード・バイ・エレクトロジェニック(Powered by Electrogenic)」が開発したフル電動ドライブトレインシステムを展開。取り付けが簡単なエレクトロジェニック製「ドロップインEVキット」は、初代ランドローバー ディフェンダー、ポルシェ 911(901)、オリジナル ミニ、ジャガー Eタイプ用をラインナップする。

今回、エレクトロジェニックは、HJマリナー&カンパニーによるコーチワークが施された、1929年型ロールス・ロイス ファントム IIをベースに開発された、フル電動仕様を公開した。この特注電動コンバージョン仕様は、威風堂々としたヒストリック・ロールス・ロイスでありながら、排気ガスを一切出さない。

ロールス・ロイス ファントム IIは、1920年から1935年にかけてわずか1681台のみ製造。今回のプロジェクトは、これまでエレクトロジェニックが手がけてきた電動コンバージョン仕様の中でも、最も複雑な開発作業を経て完成したという。エレクトロジェニックのディレクターを務めるスティーブ・ドラモンドは、フル電動ロールス・ロイスについて、次のようにコメントした。

「この素晴らしい電動化されたファントム IIを世界に向けて公開できることを嬉しく思います。このプロジェクトは、業界をリードするエンジニア、プログラマー、加工業社で構成されるチームによって、18ヵ月にわたって開発作業が行われました」

「これは間違いなく、これまでに試みられた中で、最も複雑なクラシックカーのEVコンバージョンです。私たちはこの成果に誇りを持っています。英国の自動車史の重要なピースに、クリーンで静かな電気モーターを搭載し、次の100年に向けてアップデートしたのですから……」

オリジナルの形状をできる限り維持

エレクトロジェニックのフル電動「ロールス・ロイス ファントム Ⅱ」のエンジンルームに搭載されたバッテリー。
オリジナルの7.7リッター直列6気筒エンジンと4速ギヤボックスを取り外し、入念な検討を行った上で、内外装に変更を加えることなく93kWh容量のバッテリーがエンジンルームに収められた。

オリジナルのロールス・ロイス ファントム IIは、最高出力50PSを発揮する7.7リッター直列6気筒エンジンを搭載。4速マニュアル・ギヤボックスを介して、後輪を駆動する。当時のロールス・ロイスによる広告では「80mphを優に超える最高速を誇る」と謳われていた。

今回、ガソリンエンジンとギヤボックスが慎重に取り外され、代わりに93kWh容量のバッテリーを搭載。バッテリーは、専用のアルミ製ケーシングに収められてエンジンルームに設置された。バッテリーからの電力は、専用設計されたシングルスピード・ダイレクトドライブ・トランスミッションを介して、シャシーレールの間に取り付けられた電気モーターへと供給。電動モーターは最高出力150kW(203PS)、最大トルク310Nmというスペックが与えられている。

車両構造を3Dスキャン後、CADで最適なバッテリー設置位置をレンダリングするという、入念なプロセスを導入。これまでエレクトロジェニックが手がけてきた電動コンバージョンと同様に、バッテリーをはじめとする電動パワートレインは、車両の構成に変更を加えることなく搭載された。車両の形状に合わせて、バッテリー容量を最大化することが可能になった。 

電動化のために加えられた様々な変更

エレクトロジェニックのフル電動「ロールス・ロイス ファントム Ⅱ」のエクステリア。
電動化に合わせて、オリジナルのオイル循環システムやブレーキシステムにも変更が加えられている。

100年近く前の高級車を、最新のEV技術を使って走行させるまでには、様々な課題が山積していた。エレクトロジェニックは、これまで培ってきた技術力と創造力を駆使し、それらの課題を巧みに解決している。

重要な課題のひとつが、ファントム IIの中央集中型完全機械式「スルーフロー」シャシー潤滑システムだった。これはブレーキやサスペンションのリン青銅製ブッシュや、ロールス・ロイスのトレードマークであるシルクのような走りに欠かせない、メカニカル制御システムへとオイルを循環させるシステム。 この当時としても非常に複雑な機構を持ち、直6エンジンによって作動していたため、内燃機関がなくとも作動するよう慎重に改良が加えられている。

また、ケーブル式ブレーキシステムも、電動パワートレインに対応させるため、再設計が求められた。ブレーキペダルとレバーはバルクヘッド下部に配置されていたが、大型バッテリーパックのスペースに干渉するため、新たなレイアウトに合うよう、ブレーキシステム全体を改良。元々のブレーキバランスを維持しながら、オリジナルのブレーキレバーとケーブルの搭載位置を移動させている。

内燃機関搭載モデルへと戻すことも可能

エレクトロジェニックのフル電動「ロールス・ロイス ファントム Ⅱ」のエンジンルームに搭載されたバッテリー。
エレクトロジェニックは、内外装に手を加えることなく電動化しているため、カスタマーの希望があれば、オリジナルの直6エンジンを搭載し直すことも可能という。

美しく艶出しされたレザー&ウッドが贅沢に奢られたキャビンは、できる限りオリジナルの雰囲気が残された。スイッチやレバー類の操作系は再利用され、メーターは表示内容を変更。燃料計はもともと縦型サイトグラスだったが、このスペースにLED式充電計が配置された。アンプメーターはパワーゲージとなり、加速時の電力消費率や充電時の発電量を表示。油温計は充電器の温度計、水温計は電気モーターの温度計となっている。

新たに最新の高機能マルチスピーカーHiFiシステムも搭載され、リヤシート下部にはサブウーファーを内蔵。オーディオシステムには、Bluetoothでの接続も可能となっている。これらの最新デバイスは、パッセンジャーの視界を邪魔しないよう、あえて隠されている。通常走行時の「ドライブ(Drive)」、航続距離を伸ばす「エコ(Eco)」、ハイパフォーマンス走行用の「スポーツ(Sport)」という3種類の電動パワートレイン専用ドライブモードも導入した。

また、電動化後、オリジナルの状態に戻したくなったカスタマーにも対応。「エレクトロジェニックがこれまで手がけてきた電動コンバージョンがそうであったように、このロールス・ロイス ファントム IIでも、ボディや内装に穴を開けたり、切ったりすることは一切ありません。必要であれば、すべてのパーツを組み直し、元の状態に戻すことだってできるのです」と、スティーブ・ドラモンドは説明している。

2023年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードにおいて、ロールス・ロイスは最新電動クーペ「スペクター」を中心に現行ラインアップの展示を行う。

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