【eVTOL交通革命:01】空飛ぶクルマは実現するか?

空飛ぶクルマと言われる「eVTOL」とは何か?をわかりやすく解説【eVTOL交通革命】

今後さらに混雑が予想される都市部などにおいて、既存の自動車よりも素早く快適で、一般的な航空機よりも安く手軽に利用できるのがeVTOLの特徴とされている。
今後さらに混雑が予想される都市部などにおいて、既存の自動車よりも素早く快適で、一般的な航空機よりも安く手軽に利用できるのがeVTOLの特徴とされている。
空飛ぶクルマとして注目を集めるeVTOL。2025年の大阪万博に向けて、実証実験や法整備が粛々と進められている。それを訝る向きもあるが、全てを否定するのではなく、そうなる可能性があると考えて、eVTOLがもたらすインパクトを検証する。

ヘリコプターや飛行機よりも容易に空へ

eVTOLの使われ方は、主に数百m程度の高度で飛行し、航続距離は数十km〜数百kmほど。飛行高度が比較的低く、操縦も容易なことから、機体の認証や操縦に必要な免許の取得などが、ヘリコプターや飛行機よりも容易になると見込まれている。

現在、「空飛ぶクルマ」の候補としてもっとも有力視されていて、世界中でもっとも盛んに開発競争が繰り広げられているのが「eVTOL(イーブイトール)」である。eVTOLはElectric Vertical Take-Off and Landing aircraftの頭文字で、日本語に翻訳すると電動垂直離着陸機となる。その外観は、まるで巨大なドローンのようで、数多くのローターが取り付けられているタイプが主流。こうしたローターを、電気モーターなどで駆動することにより、いわゆるゼロエミッション飛行を実現するのがeVTOLなのである。

その使われ方としては、主に数百m程度の高度で飛行し、航続距離は数十km〜数百kmほど。乗用であれば数名の乗員と乗客を、貨物輸送であれば数百kgの荷物を運ぶ能力が想定される。そして垂直に離着陸できることから滑走路が不要で、まるでヘリコプターのように狭い敷地でも離陸や着陸が可能なほか、カーボンニュートラルなので都市部での飛行も受け入れられやすいと期待されている。さらにいえば、飛行高度が比較的低く、操縦も容易なことから、機体の認証や操縦に必要な免許の取得などが、ヘリコプターや飛行機よりも容易になると見込まれている。

つまり、今後さらに混雑が予想される都市部などにおいて、既存の自動車よりも素早く快適で、一般的な航空機よりも安く手軽に利用できるのがeVTOLの特徴といえるだろう。その将来性を見越して、eVTOLを手がけるスタートアップなどが世界中で誕生。ここに航空会社や自動車メーカーなどが投資して開発が加速しているのが現状である。

世界で競い合うeVTOL開発

現在、eVTOLを開発している代表的なスタートアップとしては、アメリカで2009年に設立された「ジョビー・アビエーション」(以下、ジョビー)、2015年にドイツで誕生した「リリウム」、2011年に同じくドイツで創業した「ヴォロコプター」などが挙げられる。ちなみに、現在もっとも投資額が大きいとされるのはジョビーで、およそ20億ドルというから3000億円ほど。そのなかにはアメリカ空軍が契約金として支払うおよそ1億3000万ドル(約200億円)も含まれているというので、かなりシリアスなビジネスといえる。そのほかにも、リリウムやヴォロコプターなど、8億〜10億ドル(900億〜1500億円)規模の投資を集めた企業は、ジョビーを含めて計6社を数える。

では足下の国内はどうかといえば、eVTOLを扱うスタートアップでもっとも規模が大きいのは「スカイドライブ」で、その投資額はジョビーなどに比べればまだまだ小さいものの、それでも150億円規模の資金を調達済み。投資元にしても、東京海上ホールディングス、三菱UFJ銀行、三井住友信託銀行、関西電力、スズキ自動車など国内優良企業が名を連ねている。そのほかにも「テトラ・アビエーション」や「ALI」といった企業が国内でeVTOLの開発に取り組んでいるが、そうしたスタートアップ系とは一線を画しているのが本田技研工業で、すでに国際市場に大成功を収めているプライベートジェット事業、さらにはF1などで培った電動化技術を駆使しながらeVTOLの開発を進めている。

なお、トヨタ自動車はカワサキや全日空(ANA)とともにジョビーに投資しているほか、エンジニアリング面では、国内最大手のレーシングカー・コンストラクターである童夢から派生した東レ・カーボンコンポジットがスカイドライブなど複数のスタートアップ企業に技術支援を行っている。

実用化への道も着実に進んでいる。ジョビーはすでにアメリカ空軍と結んだ契約に従って1機目のeVTOLを納入済み。さらに中国・広州の億航智能(EHang)も5機のeVTOL“EH216-S”を深センのBoling社に納入したとの報道がある。eVTOLの実用化に向けた動きは国内でも進んでいて、2025年に開催予定の大阪・関西万博では、会場周辺の2地点区間でeVTOLを運航する計画が進行中。ここにはスカイドライブを始め、ANAホールディングス(ジョビー)、日本航空(ボロコプター)、丸紅(ヴァーティカル・エアロスペース)などが参入し、それぞれ独自に運航する見通しだ(カッコ内は運用機)。

もっとも、技術的にも発展途上の部分が少なくないほか、法整備もまだ途についたばかりのeVTOLが本当に実用化できるのか、さらにはどの程度まで普及するのかなどについては、まだまだ見通せない部分が少なくない。そこで本連載では、実際にeVTOLの開発に関わる企業や技術者などへの取材を通じ、eVTOLの偽らざる現状と将来像をリポートする予定なので、どうかご期待いただきたい。

REPORT/大谷達也(OTANI Tatsuya)
PICTURE/モリナガ・ヨウ(MORINAGA Yoh)
COOPERATON/東レ・カーボンマジック株式会社

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…