アウディの最新フル電動SUV「Q8 e-tron」試乗

アウディの最新フル電動SUV「Q8 e-tron」に試乗して2026年に完全電動化を目指すアウディのスタンダードを理解する

電動化を加速させるアウディ。2026年以降発売するクルマをすべてEVとし、2033年には内燃機関の生産を停止すると宣言している。
電動化を加速させるアウディ。2026年以降発売するクルマをすべてEVとし、2033年には内燃機関の生産を停止すると宣言している。
アウディのEV専用モデルとして先陣を切った、その名もアウディe-tron(イートロン)がマイナーチェンジ。新たに「Q8」のシリーズ名を冠して登場した。「名は体を表す」とはよく言うものの、今回の名称変更には果たしてどのような意図があるのだろうか?(GENROQ 2024年1月号より転載・再構成)

Audi Q8 e-tron

e-tronのマイナーチェンジ版

いきなり説明で恐縮だが、最初に整理しておきたい。今回Q8スポーツバックe-tronに試乗した。だがアウディにはすでにQ8というモデルが存在する。3.0リッターV6ターボエンジンを搭載したSUVだ。対して今回乗ったのはe-tronが付くことからわかるようにEV。これらはいずれもMLBエボというプラットフォームで、姿形も似ているが、同じクルマのパワートレイン違いというわけではなく、形もサイズも微妙に異なる2種のクルマだ。

内燃機関をもつQ8はSUVでありながら流麗なスタイリングで、典型的なSUVであるQ7のクーペ版という位置づけだ。これに対してQ8 e-tronにはSUVとクーペ(スポーツバック)という2種類のボディ形状があり、Q7 e-tronというモデルは存在しない。

そしてここがわかりにくさの一番の理由だと思うのだが、この度Q8 e-tronとして登場したEVは、従来アウディe-tronという車名で販売されていたモデルのマイナーチェンジ版だ。アウディe-tronは2019年に登場した、同社初のEV専用モデルだ。この時点では唯一のEVなので、シンプルにアウディが電動技術を象徴するワードの「e-tron」を車名にして発売したのだが、今後、アウディは電動化を加速させる。2026年以降発売するクルマをすべてEVとし、2033年には内燃機関の生産を停止すると宣言している。つまりe-tronばっかりになるから「なんとかe-tron」という車名のルールになるということ。現在はQ8 e-tronのほかにQ4 e-tronが販売されている。

印象的な静粛性の高さ

割り当てられたのは、Q8スポーツバック55クワトロe-tronだ。総電力量114kWhのバッテリーを搭載し、前後2モーターから最高出力300kW(408PS)、最大トルク664Nmという強力なパワーを発揮する。低負荷時にはリヤモーターのみが駆動を担い、必要に応じてフロントモーターも稼働する。

首都高への合流時にアクセルを力強く踏み込むと、強烈な加速を体験することになる。が、408PS、664Nmという数値から想像していたよりはマイルド。マイルドというより洗練されている感じだ。印象的なのは静粛性の高さ。EVなんだから静かで当たり前と思うかもしれないが、エンジン音がなくなった代わりに風切り音とロードノイズが目立つクルマは少なくない。が、Q8 e-tronはそのどちらもよく抑えられていて、1317万円に見合う高級感のある走行環境が手に入る。

MLBエボというやや古い車台を用いて開発されているが、言い換えれば多種多様な内燃機関車に用いられた実績があり、これ以上なくこなれた車台ともいえる。バッテリー搭載などに関するパッケージング面ではEV専用の新しい車台のほうが有利なのだろうが、少なくとも乗り心地やハンドリングからは古さを感じることはなかった。

出力150kWまでの急速充電に対応

アウディはVW、ポルシェとともにPCA(プレミアムチャージングアライアンス)を組んでいるため、Q8 e-tronユーザーになれば、国内356ヵ所の急速充電器を利用することができる。このクルマは出力150kWまでの急速充電に対応するが、PCAには何ヵ所か150kW級の急速充電器があるので、実際に高速充電を経験できる可能性がある。ただ充電環境については、アウディを含む充電規格にCHAdeMO方式を用いるすべてのブランドは、拠点数がもっと多く、充電速度もはるかに速いテスラに及ばない。自宅に普通充電環境がない状態でEVを使おうとしているのなら、この差は大きい。逆に、自宅で充電できるならどのEVを選んでも問題はないと思う。

急速な進化の過程にあり、興味があっても買い時が難しいEVだが、デジタルガジェット同様、進化が止まることはない。だからEVは結局欲しいと思ったタイミングで買うしかないのかもしれない。

REPORT/塩見 智(Satoshi SHIOMI)
PHOTO/郡 大二郎(Daijiro KORI)
MAGAZINE/GENROQ 2024年 1月号

SPECIFICATIONS

アウディQ8スポーツバックe-tron 55クワトロSライン

ボディサイズ:全長4915 全幅1935 全高1620mm
ホイールベース:2930mm
車両重量:2600kg
システム最高出力:300kW(408PS)
システム最大トルク:664Nm(67.7kgm)
駆動方式:AWD
EV航続距離(WLTC):501km
サスペンション形式:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ディスク
タイヤサイズ(リム幅):前後255/50R20(9J)
0-100kh加速:5.6秒
巡行最高速度:200km/h
車両本体価格:1317万円

【問い合わせ】
アウディ コミュニケーションセンター
TEL 0120-598-106
https://www.audi.co.jp/

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著者プロフィール

塩見 智 近影

塩見 智

1972年岡山県生まれ。1995年に山陽新聞社入社、2000年に『ベストカー』編集部へ。2004年に二玄社『NAVI』…