ホンダ・シティがボッコボコ!

©SWALLOWTAIL PRODUCTION COMMITTEE

『Love Letter』、『リリイ・シュシュのすべて』、『花とアリス』、『リップヴァンウィンクルの花嫁』など数々の傑作を世に送り続けている映画監督、岩井俊二。『スワロウテイル』は今から30年前の1996年9月に公開され、その独創的な世界観に熱狂する者たちが続出し、今もなお強い支持を集める傑作です。

公開当時まだ33歳の若手映像作家だった岩井監督が、中山美穂主演の『Love Letter』(1995年)に続いて世に放った長編映画第2作。そんな記念碑的作品が4Kリマスター化・DolbyAtmos化され、監督自身の完全監修による『スワロウテイル 4Kリマスター』として美麗映像で劇場に復活するということで、あの熱狂を知る映画ファンや未体験の若者たちが映画館に詰めかけることでしょう。

本作の舞台となるのは、かつて“円”が世界で一番力を持っていた架空都市。移民たちから“円都(イェンタウン)”と呼ばれ、しかし日本人からは蔑まれる街で、母を亡くした名もなき少女は娼婦グリコと出会い“アゲハ”と名付けられます。アゲハは個性的な面々が集うなんでも屋<青空>で働き始めますが……。

いわゆるレトロフューチャーSFと雑多な90年代アジアの雰囲気をミックスしつつも、岩井監督ならではのフィルターを通した瑞々しくもドライな世界観は、いま観ても唯一無二の魅力にあふれています。そして、どこか霞ががったような荒廃する架空都市を走るのは、私たちの暮らしと身近にありながら、普段は意外と目にする機会の少ないレアな国産車の数々です。

三上博史が演じるフェイフォンが何をするにも乗っているのは、幌付きトラック風に改造した1689年式のトヨタ・デリボーイ。江口洋介が演じるリョウ・リャンキ率いる<流氓>のメンバーが乗るのは、1978年式の三菱ふそう・キャンターワイドキャブ。デカデカと<円盗 流氓>と書かれた幌は威圧感抜群です。

ホンダ・シティR

そして物語も終盤、桃井かおり演じる雑誌記者の鈴木野がChara演じるグリコを乗せて走るのは、1983年式のホンダ・シティ(おそらくR後期型)。流氓のマオフウ(演:アンディ・ホイ)たちが乗る、えんじ色がシブい三代目トヨタ・ハイエースに“あるもの”を巡って執拗に追われるのですが、いまや希少車となっているシティがボッコボコにされる大迫力のシーンです。

本作には他にも1991年式のトヨタ・クラウンや1987年式のカリーナED、同じく87年式の三菱ギャランや日産ブルーバードなど80~90年代の懐かしい日本車たちがチラチラと映り込み、思わず興奮してしまいます。しかし、ラストシーンに登場するのはダイムラーのダブルシックスで、この高級車に運転手付きで乗るリョウの挙動が物語の結末を観客に委ねる形になっていて、よりズシンと深い印象を残すのでした。

『スワロウテイル 4Kリマスター』公式サイト