緋色のシボレーが醸し出す悲哀

ボストンの裏社会。かつて拳ひとつで這い上がった元ボクサーの運び屋。人生の終盤、彼に突きつけられたのは、記憶が徐々に失われていく残酷な病でした。それでも胸の奥で消えずに残るのは、かつて捨てた家族への深い悔恨。すべてを忘れてしまう前に、せめて人として正しい生き様を遺したい――。そんな矢先、長年のビジネスパートナーでもある友が人身売買に手を染めていることを知った男は、未来を奪われる少女たちを救うことを誓うのですが……。
メガホンを執るのは、リーアムが麻薬密売組織を壊滅させる最強の除雪作業員を演じた『スノー・ロワイヤル』(2019年)のハンス・ペテル・モランド監督。そして物語の舞台となるのは、さびれた僻地とも風光明媚な田舎とも言える、暖かく乾いた光景が印象的な町です。
数十年にわたり裏社会で働いてきた男(リーアム)は脳の病が進行し、まるでめまいの中で刃物を握るような日々を過ごしているため、どのシーンも不穏な白昼夢のように見えます。そんな背景のなか、原題の『Absolution』が表すとおり、男は「赦し」を求めるかのように“最後の大仕事”に打って出ます。

もはや亡き我が子の名前さえ忘れ、自己嫌悪に苛まれる男。記憶が蝕まれていく恐怖に苛まれながらも、残された命を懸けて求める“贖罪”とは――? 『MEMORY メモリー』(2023年)でもアルツハイマーを患う殺し屋を演じていたリーアムは本作では仕事に対して枯れきっているようにも見えますが、心根はメラメラと熱いまま。その内面を表すアイテムとして強調されるのが、1970年式のシボレー・シェベル マリブ SS トリビュートです。
彼が面倒を見るビジネスパートナーの息子はイキりたい年頃ということで、2021年式の真っ黒いテスラ・モデルSが愛車。「この車は禁煙だ」というギャングらしからぬ警告にブツクサ言ってみせるなど、世代間のギャップが強調されています。仕事のパターンによってはトラックも登場し、フレイトライナーの中型車であるビジネスクラス M2 106に乗る彼らの眼の前で衝撃的な出来事が起こるのですが、ここは無力感に苦しむ重要なシーンになっています。
かたやシボレー乗車シーンは低いエンジン音が心を落ち着かせる、ヒリヒリとしたサスペンス展開の中では貴重なドラマパート。それでもピンチの際には頼もしい相棒となり、最後の最後まで男に付き添います。アクション映画はこれで最後になるかもしれないリーアム・ニーソン74歳の名演と、堅牢ながら控えめなシボレーの存在感が、鑑賞後に深い余韻を残すことでしょう。