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大ヒットの初代の路線を踏襲しない、チャレンジングな二代目
■エクステリア:ウェッジシェイプから伸びやかな水平基調へ
ホンダの初代ヴェゼルは、現在、国内外のメーカーが鎬を削っているコンパクトSUVの先駆けのような存在だ。しかし、当初はアコード、シビック、CR-V、フィットに続くグローバルカーを作るということが決まっていただけで、コンパクトSUVありきで始まった企画ではなかった。当時の開発責任者が世界中を回って市場をリサーチした結果、SUVのニーズが世界的に高まっていること、そして今後はより小型のSUVが出てくる兆しがあったことから、ヴェゼルの開発がスタートしたのである。
結果、初代ヴェゼルは2013年の発売後、世界中で支持を受け、2020年11月までに累計で約384万台を販売するヒット作となった。目論見通り、ホンダ第5のグローバルカーの地位を確立したのである。当然のことながら、2021年に発売された新型となる現行の二代目ヴェゼルにかかる期待も大きなものだった。
そんな現行の二代目ヴェゼルだが、開発責任者を務めた岡部宏二郎さんによると、ボディサイズは初代(全長4330mm×全幅1770mm×全高1605mm)とほぼ同等とのこと。実車を目にした際の印象では大きくなったような印象があったのだが、それはデザインの妙だったようだ。
というのも、ワンモーション的なフォルムだった初代から二代目は大変身。ボンネット前端の厚みが増しているほか、ルーフが後端まで伸ばされていたり、サイドのキャラクターラインが水平基調になっている。その伸びやかなフォルムが、実際のサイズ以上に二代目を大きく見せる要因となっているようだ。
フロントマスクも、二代目からは初代の面影が皆無と言っていいくらい激変している。初代は、当時ホンダが推し進めていた「ソリッド・ウイング・フェイス」というデザインコンセプトを採用。メッキの大型グリルが中央にドドーンと居座り、その左右にヘッドライトが連続する構成となっていた。
ここ最近は、いかにグリルでメーカーのアイデンティティを主張するかが重要視されている。そのためBMWやアウディといったプレミアムブランドも、どんどんグリルが巨大化する傾向にある。
しかし、二代目ヴェゼルではなんと、ボディ同色のグリルを採用。フィットのグリルレスマスクから発展させたデザインとのことだが、時代の流れに逆張りするあたりが、いかにもホンダらしいところだ。
リヤスタイルも、初代と二代目はまったく別物。左右に独立した逆L字型のテールランプを配置する初代に対して、二代目はシンプルな横型のテールランプを左右で連結することで、よりワイド感を強調しているのだ。またリヤゲートのパネル自体も、二代目では余計なキャラクターラインを拝することでクリーンになった印象だ。
テールゲートスポイラーの処理も異なる。初代では左右の折れ下がった部分をあえてボディ同色としていたのだが、二代目ではブラックアウトしている。
エクステリアで初代を継承している部分が、リヤドアのハンドルだ。ウインドウグラフィックにインテグレートすることで、2ドアクーペのような雰囲気を醸し出していいる。ただ、初代はサイドウインドウがアーチ状だったのでこのヒドゥンタイプのドアハンドルがハマっていたが、二代目の水平基調のサイドウインドウでそれを踏襲する必要があったのか…という気もしないでもない(小声)。
二代目でユニークなのは、「PLaY」というグレードの存在だ。2トーンのボディカラーを採用するほか、内外装にトリコロールのアクセントをあしらうなど、遊び心が盛り込まれているのが特徴。どちらかというと体育会系のノリだった初代に対して、二代目は心地良さや快適さといった部分が強調されているが、そんな二代目のキャラクターを象徴しているのがこの「PLaY」グレードといえるかもしれない。
二代目では、上級グレードは18インチ・アルミホイールが標準となる。取材車両のタイヤはミシュラン・プライマシー4の225/50R18が組み合わされていた。下位グレードでは16インチ・アルミホイールが標準となる。
初代の場合は下位グレードが16インチ・スチールホイールで、グレードが上がるにつれて16インチ・アルミホイール、そして17インチ・アルミホイールとグレードアップ。そして、スポーティグレードのRSでは、18インチ・アルミホイールが標準装備となっていた。
インテリア:二代目はユニークな装備を多数採用
続いて、インテリアを比べてみよう。
初代は、ハイデッキタイプのセンターコンソールと助手席側に連続する大型のセンターパッドがパーソナル感を演出していた。一方、二代目はセンターパッドが左右幅一杯に広がる水平基調のダッシュボードを採用している。
そして、視界と操作性に配慮しているのも二代目の特徴で、9インチのディスプレイを視界にとらえやすい上方に配置し、操作系は手が届きやすい位置に配置。エアコンの操作は初代がタッチ式だったのに対して、二代目はダイヤル式になっている点にも注目だ。見た目の先進性はタッチ式に軍配が上がるが、使いやすさは運転中にブラインド操作が可能なダイヤル式の方が上。名を捨てて身を取ったというところだろうか。
メーターは、初代が中央に大型のアナログ速度計、左右に液晶ディスプレイを配置していた。二代目では液晶の表示領域が拡大され、右側3分の1に速度計、左側3分の2に各種情報が表示される。
初代が画期的だったのは、電子式パーキングブレーキと電子式シフトレバーをいち早く採用していたこと。コストアップにつながるため、採用に至るまでには侃侃諤諤の議論があったそうだ。そして初代は、センターコンソールがフローティングデザインとなっており、下側には小物を収納することが可能となっている。最近、ルノーの新型キャプチャーやマツダのMX-30などでもフローティングデザインが採用されているところを見ると、2013年発売の初代ヴェゼルが国内外のメーカーに多大な影響を与えたことがうかがえる。
二代目は、電子式パーキングブレーキを踏襲するが、センターコンソールはフローティングタイプではなくなった。その代わり…というわけではないだろうが、置くだけでスマホを充電できるトレーがシフトレバー奥に新設された。
センターコンソールに設けられたドリンクホルダーもチェック。初代では深さが調整可能だったり、細缶をホールドできる格納式のフラップを備えていたりと凝ったものだった。二代目では、コンベンショナルなものとなっている。
そのほか、二代目では様々な新機能が加わっているので、一つずつ紹介していこう。まずはパノラマルーフだ。前席と後席の頭上をルーフ幅ギリギリのガラスで覆うことで、抜群の開放感を演出している。遮熱やUVカットの機能も備わっているので、夏場も安心だ。
ダッシュボード左右のエアコン吹き出し口は、サイドウインドウに沿わせた風の流れを作ってくれる。直接乗員に風が当たるよりも心地良いし、風の幕を作ることで外気の熱や寒さをカットする役割も見込めるという。
二代目は、シートも新しくなっているようだ。前席はサイドサポートの張り出しが控えめとなっており、後席はヘッドレストの形状が変更されている。
ちょっと気になったのは、前席の調整機構が二代目が手動となっていること。初代も標準は手動なのだが、オプションで運転席8ウェイ&助手席4ウェイのパワーシートが用意されていた。二代目も同様にオプションでパワーシートが用意されていると選択の幅が広がってうれしいのだが、果たしてどうだろうか。
また、二代目はセンタータンクレイアウトを継承しており、後席は初代同様、座面をチップアップさせることが可能だ。二代目の上級グレードではUSBの充電ポートが2基とエアコンの後席用吹き出し口が標準装備されるなど、後席の快適性向上が図られている。
そのほか、静電タッチ式LEDルームランプや独自開発のプレミアムサウンドシステムも二代目の新装備だ。
ラゲッジルームの広さに関しては、新旧で大きな差はなさそうだ。どちらも後席の背もたれは左右4:6分割で前倒しが可能となっている。二代目では後席のシートバックにチャイルドシートのテザーアンカーが備わっているのが分かる。
ハイブリッドモデル同士で、荷室床下のスペースを比較してみると、二代目の方が広くなっていた。また、二代目の「PLaY」グレードでは荷物を固定できるコードがフタの裏に備わっているのにも注目したい。
二代目で進化しているのはテールゲートの操作性だ。電動開閉式を採用しており、スイッチ操作はもちろん、足をボディ下に出し入れするだけで開閉が可能となっている。
さらに注目なのが、予約クローズ機能だ。専用スイッチを押しておくと、数秒後にテールゲートが閉まってロック操作までを自動で行ってくれるというもの。荷室から大量の荷物を取り出して両手が塞がってしまうような場面で活躍してくれそうな機能である。
コネクテッドサービス:二代目は地図の自動更新や車内Wi-Fiが利用可能
二代目の進化点で見逃してはいけないのがコネクテッドサービスだ。車載通信モジュールを全車に搭載しており、様々な情報を送受信することが可能。地図が自動で更新されたり、アプリをダウンロードしたりすることが可能なほか、車内Wi-Fiも搭載している。これらの操作は9インチのディスプレイで行うこととなる。スマートフォンをクルマのスマートキーの代わりとして使ったり、緊急時にボタン一つでオペレーターとつながる機能も目新しい。
■パワートレーン:二代目のハイブリッドは2モーターに進化
続いて、パワートレーンの違いを確認しておこう。初代は当初、1.5Lガソリンと1.5Lハイブリッドでスタートし、後に1.5Lターボが加わった。二代目で用意されているのは1.5Lガソリンと1.5Lハイブリッドだが、初代のハイブリッドが1モーター+7速DCTの「i-DCD」だったのに対して、二代目は2モーターの「e:HEV」となっている。
二代目で主力となるのはe:HEV搭載モデルで、4グレードのうちガソリンモデルは1グレードのみとなっている。
【二代目のグレード構成】
●e:HEV PLaY(ハイブリッドで2トーンボディや専用装備を採用する個性派グレード)
●e:HEV Z(ハイブリッドの装備充実グレード)
●e:HEV X(ハイブリッドのエントリーグレード)
●G(ガソリンモデル)
i-DCDではモーターの出力も低く走行時はエンジンが主体だったが、e:HEVでは駆動用と発電用の2つのモーターを搭載し、モーターの出力も大幅に向上している。
1.5Lのe:HEVはフィットとインサイトにも搭載されているが、両車はスペックが異なる。参考までに、初代ヴェゼル、フィット、インサイトのスペックを以下に記載しておく。二代目ヴェゼルのe:HEVは、どのようなスペックで登場するのだろうか。
【初代ヴェゼル(i-DCD)】
エンジン最高出力 :132ps/6600rpm
エンジン最大トルク:156Nm/4600rpm
モーター最高出力 :29.5ps/1313-2000rpm
モーター最大トルク:160Nm/0-1313rpm
【フィット(e:HEV)】
エンジン最高出力 :98ps/5600-6400rpm
エンジン最大トルク:127Nm/4500-5000rpm
モーター最高出力 :109ps/3500-8000rpm
モーター最大トルク:253Nm/0-3000rpm
【インサイト(e:HEV)】
エンジン最高出力 :109ps/6000rpm
エンジン最大トルク:134Nm/5000rpm
モーター最高出力 :131ps/4000-8000rpm
モーター最大トルク:267Nm/0-3000rpm
二代目のハイブリッドで目新しいのは、減速セレクターだ。パドルを操作することで回生ブレーキの強さを切り替えることが可能となる。インサイトにも同様の装備がある(フィットは未装備)。
■ホンダセンシング:後方誤発進抑制など新機能を追加
先進安全機能「ホンダセンシング」も、二代目では最新のものにアップデイトされている。初代からは、「後方誤発進抑制機能」「近距離衝突軽減ブレーキ」「オートハイビーム」が追加されている。また、マルチビューカメラやブラインドスポットインフォメーションの新採用により、「ボディが大きいSUVは死角が多くて怖い」と思っているドライバーをサポートしてくれるのもうれしい。
まとめ:クリーンなデザインと先進装備の充実が二代目のウリ。価格は?
さて、全方位的に進化を遂げた二代目だが、気になるのは価格だ。初代はガソリンモデルが211万3426円〜、ハイブリッドモデルが250万5555円〜だった。対して、二代目の価格はガソリンモデルが227万9200円〜、ハイブリッドモデルが265万8700円〜となる。初代と比較して二代目は値上がりはしているものの、優れたデザインと先進装備の充実を考えると妥当な価格ではないかと判断する。このクラスは、トヨタ・ヤリスクロスや日産キックスなど競合揃いの激戦区だが、コンパクトSUVの先駆者といえるヴェゼルは、時代のニーズを見事に掴んだ二代目への進化を遂げたと言えるだろう。