カローラ/スプリンターのスポーティバージョンとして1972年に発売されたレビン/トレノ。本家カローラは初代からアメリカなどへ輸出されたものの、レビン/トレノは国内専用車種だった。だから富士スピードウェイのグランドスタンド裏にズラリと並んだ初代TE27レビン/トレノの中に左ハンドルの展示車を見かけて「オヤ?」と思った。たまたまオーナーがそばにいたので早速お話を聞くと、案の定アメリカ仕様のカローラに2T-Gエンジンをスワップした改造車とのこと。それだけなら驚かないのだが、こっそりボンネットを開けて見せてくれたそこには独特のオーラを放つワークスエンジンが鎮座していた!
このカローラのオーナーである杉山武彦さんは2T-Gのレース用ワークスエンジンを複数所有しているコレクターで、マニアの間では有名な方。以前はさらに過激な151Eを搭載していたそうで、1750ccの排気量から240psを発生させていた。現在は少々マイルドな126Eで、2リッターの排気量から200psを発生させている。ただ、なぜ左ハンドル車を選んだのかといえば、国内では希少な個体だから。以前からTE27にも乗り続けられ、なんと7台も乗り継いだという。ところが1990年にこの個体を出合い、それまで集めてきたパーツやエンジンを移植することにされたのだ。
ボディは一見ノーマルに見えるのだが、軽量化のため徹底的にパネルを変更している。ボンネットやトランク、前後バンパー&オーバーフェンダーなどをFRP製としつつ、ドラミラーや内張などにカーボン製を装着。フロント以外のガラスは全てアクリル製を特殊コーティングしたものとしている。またフロントハブやミッションメンバー、エンジンマウントやフロアパネルなどをジェラルミン製として全体で120kgもの軽量化を実現。もちろん足回りも強化済みでフロント車高調整式サスペンションには延長ロアアームに中空スタビライザーなどを組み合わせた。リヤにはピロボール式等長リンクや強化リーフ、AE86用TRD製スタビライザーなどを用いている。
注目の126Eエンジンはトヨタワークスにより開発された、当時は2T-G改などと称された純レース用ユニット。そもそもセリカ用として開発されたエンジンで当初は100Eと呼称された。外観こそ市販2T-Gと変わらないがバルブ駆動系全般、ピストンおよびクランクシャフト&コンロッドなどは専用部品で構成されていた。さらに市販2T-Gと決定的に異なるのがカムシャフト駆動で、通常のベルトではなくギアトレインとなっていることが特徴。この100Eは仕様変更を繰り返して戦闘力を高め105Eや126Eへと発展する。今回の126Eで言えばツインプラグ化されたことでヘッドカバーに2T-Gの倍になるプラグホールが存在することで外観からも特別なエンジンであることがわかる。またオイル潤滑系にドライサンプ方式を採用しているため、オイルタンクが別に必要となることでも識別可能だ。
126Eには1600ccと1750ccの排気量が存在して、国内レースやラリーで大活躍する。さらに8バルブ仕様から16バルブ仕様へと進化させるため狭角シリンダーヘッドを採用した151Eなどに発展すると、ヨーロッパF3選手権のマシンにも数多く搭載された。WRCにも参戦を続け、1975年の1000湖ラリーに出場したレビンがWRC初優勝を遂げている。このエンジンは進化を続け、2リッターの151Eや、市販2リッターの18R-Gエンジンをベースに狭角ヘッドを組み合わせた152Eまで発展している。152Eは後期になると排気量を2.2リッターとして320〜330psを発生、最終的にはドイツのチューナーであるシュニッツァーが製作したグループ5マシンであるセリカターボのパワーユニットにも採用されている。
一方で室内に目を向けると、ベースになったカローラから唯一残されたダッシュボードからしか判別できないほどモディファイされている。ダッシュボードにしてもパネルを自作してメーターやスイッチ類はすべて変更してあるため、もはやレーシングカーのようなコクピットになっている。簡素化された室内にはカーペットすらなく、車体全体の乾燥重量はわずかに756kgでしかない。まさにサーキットを走るために製作されたようなカローラになっている。さらに驚くのが過去に数多くTE27を改造してきた杉山さんは、昭和の時代から書類を作成して自ら公認車検を取得しているということ。もちろんこの左ハンドルのカローラも公認車で、しっかりナンバープレートがついているのだ。