“EVのSクラス”EQS AMG 53は、完璧に調教の行き届いた猛獣だ!【メルセデス・ベンツ EQS試乗記】

近年、一気にEV化攻勢を掛けているメルセデスは、EQA、EQB、EQC、EQE、EQSとすでに5つものラインナップを設定する。名前を見ればわかるように、EQSは、EVのフラッグシップという位置付けである。BEV専用プラットフォームに107.8kWhの大容量バッテリーを搭載。一充電走行距離700kmの標準モデルと、0-100km/h加速3.8秒のAMGをラインナップする。
REPORT:山田弘樹 PHOTO:中野幸次

EV専用プラットフォームは3210mmの超ロングホイールベース

コンパクトなフロントセクション、キャブフォワードなフォルム、ロングホイールベース。エンジン車のSクラスとはスタイリングの文法がまったく異なることが見て取れる。

メルセデスの電動化ブランド「EQ」。そのフラグシップとなる「EQS」が、遂に日本上陸を果たした。ここで最大の注目ポイントとなるのは、このクルマが、長らく続いたフラグシップ「Sクラス」に、取って変わる存在となるのか? ということだろう。

そしてこれをまずそのスペックから紐解いていくと、これがなかなかに期待が持てると筆者は感じた。

今回試乗したのはよりスタンダードなグレードとなる「EQS 450+」と、AMG初のEVとなる「EQS AMG 53 4MATIC+」の2台だったが、まず、スタンダードなEQS 450+の航続距離は、実に700kmという長さを得ているのだ。

メルセデス初となるEV専用のプラットフォームは3210mmというロングホイルベースを実現しており、これは現行Sクラス(3105mm)とSクラス ロング(3215mm)のまさに中間といえる長さを得ている。

そしてこの空間にEQSは107.8kWhの大容量バッテリーを備えることで、450+の場合で700kmの航続距離を可能とした(AMG 53 4MATIC+は601km)。

WLTCモード値であるとはいえ、ストレスなく使った場合を7割方と考えても、単純計算で490kmという数値が得られる。

EQSを選ぶようなユーザーが休憩なしで1回に走行する現実的な状況を考えても、これはEVが一気に現実味を帯びてきたことを意味するだろう。

ちなみに急速充電で要する80%充電までの所要時間は50kW充電器で110分、同90kWで55分、150kWで48分。むしろ今後必要なのは、高速道路における充電器の普及だと言える。

そんなEQS 450+に乗り込んでまず目を奪われるのは、「MBUXハイパースクリーン」と銘打たれた巨大なディスプレイだ。ドライバー用モニター(13.2インチ)と、有機EL仕様となった中央(17.7インチ)および助手席(12.3インチのタッチスクリーン計3枚が一体となった光景は、気持ちいいくらいにダイナミック! EQSのインパネは通常Sクラスに準じた仕立てとなっているが、ユーザーは105万円のエクストラコストを支払うことで、この近未来的な光景を手に入れることができる。

大画面モニターにも見慣れて来たが、EQSの場合、メーター、センターパネル、助手席側パネルがすべて1枚のガラスで覆われている。圧倒的な未来感に驚かされる。

ハイパースクリーンで注目すべきは、助手席用ディスプレイの存在だ。このディスプレイはナビの表示や様々な車両情報を確認できるだけでなく、動画を見ることが可能になった。

ただし走行中はドライバーの視線が車両側のカメラからモニタリングされており、助手席側に視線を向けると、ディスプレイの映像が減光され見えなくなってしまう。そしてこれを防ぐには、助手席のパッセンジャーが専用のBluetoothヘッドフォンを装着する必要がある。

助手席パッセンジャーは専用ヘッドフォンで助手席モニター画面のエンタメを楽しむことができる。

せっかくの快適な移動で助手席の同乗者がヘッドフォンを付けるのはどうかと思うが、これも初出しの技術に対する安全確保を第一としたためだ。外野の意見としては、運転中はスマホのようにプライバシーフィルターをかけるのもありだと思う。ただ走行中ばかりに目を向けずとも、たとえば充電中に車内で動画や各種機能を楽しめるのは、悪くない機能だ。

リアアクセルステアは10度!までアップグレード可能

さてEQS 450+をワインディングで走らせた印象はというと、これが実にまとまりの良い仕上がりだったことに感心させられた。

その成り立ちは、リアアクスルに電動パワートレイン「eATS」を搭載する後輪駆動(もはやFRではない)。搭載されるモーターは最高出力が245kW(333PS)/568Nmとなかなかの数値を誇っているが、車重も2560kg(オプション装着車)と重たいため、絶対的な加速感は驚くほどではなく、それを求めるのであれば後述するAMG版をお勧めする。

タイヤはかなりボリューム感がある。サイズを見ると、前後265/40R21だった。

とはいえアクセル操作に対するトルク追従性の速さと滑らかさはEVならではであり、この巨体をゼロ発進からスムーズに転がして、気持ち良くスピードを乗せて行ってくれる。

ステアフィールもEV的だ。タイヤはその車重を支えるため構造が強く、転がりを優先するため路面を捉える感じは薄めだが、その分低速域では切った通りに舵が反応して、取り回しが若々しい。

ちなみにリアアクスルステアリングは60km/h以下で最大4.5度まで逆位相に切れる。その最小回転半径は5.5mと、S400d Longと同等であり、アップグレードキットで10度の切れ角を得れば、それが5mにまで短縮される。

写真の後輪は4.5度切れている状態。フロントの切れ角もかなり大きく、最小回転半径は5.5mと非常に優秀だ。アップグレードキットを組み込めば、脅威の5.0mまで短縮できる。

エアサスと可変ダンパーの組み合わせはタイヤの硬さを巧みにバランスしており、荒れた路面での乗り心地を上手に和らげている。そしてスピードを上げるほどに、タイヤと足周りがしなやかに調和していく。

ワインディングでのハンドリングは極めてニュートラルステアで、素直に曲がるのが好印象だった。床下にバッテリーを敷き詰めた低重心さと、フロア剛性の高さを軸に、足周りが路面をしなやかに捉えてカーブをクリアしてくれる。立ち上がりからアクセルを踏み出せば、じわっと後ろから押し出される感覚が気持ち良い。

ただこうした滑らかなモーターのアウトプットも、ことEVに関しては全車が横並びとまではいかないものの、大きな差を感じないというのも事実だ。シャシーの素晴らしさとインフォテインメントの迫力では大きな差が付いているけれど、パワーユニットの動的質感としては、巷のEVとあまり差別化できていない。

ベンツらしくない? 450+のルックスに押し出し感はなく、大人しい印象だ。

またCd値0.20を達成したボディや面構えも、現行Sクラスと比べれば押し出しが弱い。

このふたつの点に画期的な解決策が見いだせれば、EQS 450+はSクラスに取って変わる存在になれるだろうと思えた。

0-100km/h加速3.8秒のロケット加速【AMG 53 4MATIC+】

基本フォルムは同一ながら、AMG 53には縦桟グリルが個性を主張し、存在感が増した印象だ。

EQS 450+の上質なさは魅力だが、やっぱり少し物足りない。そんなカスタマーにメルセデスは、このEQS AMG 53 4MATIC+を用意している。

ざっくり言うとこれはEQS45+に174kW/345Nmのモーターを付け加えた4WDだが、そのシステム合計出力はなんと484kW(656PS)/950Nmにも及び、「Race Start」使用時に至っては最大で560kW(761PS)/1020Nmのパワー&トルクが発揮される。

握りの太いDシェイプステアリング、カーボン柄コンソールパネルはAMG専用。

その0-100km/h加速はEQS 450+の6.2秒に対して3.8秒と圧倒的に速く、最高速度は同じく210km/hに対して、250km/hを実現する。

しかしその分、航続距離は601km(WLTCモード値)と短くなる。

その走りはまるで、「完璧に調教の行き届いた猛獣」だった。

アクセルを踏み込めば、0-100km/h加速3.8秒のロケット加速がヘッドレストに頭を押しつける。最近のEVはこうした加速を敢えて抑える傾向が強いけれど、AMGならやっぱりこうでなくちゃ! である。

迫力のアウトプットに対してシャシーは、ボディ剛性の高さだけでなく、全ての制御が全方位的にそのスタビリティを高めていた。

エアサスとダンパーの連続的な減衰力可変制御は、カーブでその車体をガッチリと支えきるが、一番ハードな「Sport+」モードを選んでも乗り心地にはまったく硬さがない。そしてクリップからアクセルを踏み込んでいくと、前後4つのモーターが恐ろしく滑らかに、かつ素早くトラクションを掛ける。

こうした全ての要素は瞬時に絡み合い、まとまり、その速さに安定感を与えている。

450+よりも幅広の275/40R21を履く。撮影車の銘柄はミシュラン・パイロットスポーツEV。

床下にバッテリーを敷き詰める低重心なEVながら、そのハンドリングはコーナリングを楽しむというキャラクターではない。むしろ4MATICの制御で敢えて曲がりすぎない躾(しつけ)になっており、クルマの動きに関してだけ言えば、EQS 450+の方が味わい深い。

つまりEQS AMG 53 4MATIC+が目指す走りは、雨が降ろうが槍が降ろがどこまで矢のように突き進む、ハイスピードドライビングだ。

日本ではこうした走りが実用的に求められる環境はないけれど、少なくともこうした能力を持っていることはひとつのステイタスであり、さらに言うとそれを得ても全く快適性が犠牲にならないことに、EQSとしての価値を見いだすことができた。

簡単に言えば、凄すぎる。個人的には450+とAMG 53の中間くらいが、もっともよいバランスではないかと感じた。

EQSはクーペサルーンフォルムだが、独立トランクのセダンではなく、ハッチバックスタイル。実用面でも有利だ。
メルセデス・ベンツ EQS 450+


全長×全幅×全高 5225mm×1925mm×1520mm
ホイールベース 3210mm
最小回転半径 5.5(5.0)m
車両重量 2530(2560)kg
駆動方式 後輪駆動
サスペンション F:4リンク R:マルチリンク
タイヤ 前後:265/40R21

システム最高出力 245kW(333ps)
システム最大トルク 568Nm

リヤモーター種類 交流同期電動機
リヤモーター型式 EM0027
最高出力 245kW/4147-11544rpm
最大トルク 568Nm/0-4060rpm

駆動用バッテリー種類 リチウムイオン電池
駆動用バッテリー総電力量 107.8kWh

一充電走行距離(WLTC) 700km

価格 15,780,000円
メルセデス-AMG EQS 53 4MATIC+

全長×全幅×全高 5225mm×1925mm×1520mm
ホイールベース 3210mm
最小回転半径 5.3m
車両重量 2670(2700)kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:4リンク R:マルチリンク
タイヤ 前後:275/40R21

システム最高出力 484kW(658ps)
システム最大トルク 950Nm

フロントモーター種類 交流同期電動機
フロントモーター型式 EM0031
最高出力 174kW/4858-6937rpm
最大トルク 346Nm/0-4858rpm

リヤモーター種類 交流同期電動機
リヤモーター型式 EM0028
最高出力 310kW/4918-6886rpm
最大トルク 609Nm/0-4822rpm

駆動用バッテリー種類 リチウムイオン電池
駆動用バッテリー総電力量 107.8kWh

一充電走行距離(WLTC) 601km

価格 23,720,000円

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…