1970年代は排出ガス規制への対応に追われてモデルチェンジの時期が大幅にずれたカローラ/スプリンター。「総合性能に優れた、’80年代をリードする高級大衆車」として1979年にようやくフルモデルチェンジが実施された。力の入ったモデルチェンジで、ボディタイプだけでもセダン、ハードトップ、クーペ、リフトバックの4種類が設定され、レビン/トレノだけでなく通常のカローラ/スプリンターにも高性能DOHCエンジンである2T-GEU型を搭載するグレードが誕生している。スプリンターだけでみるとトレノはクーペにだけ設定され、ハードトップとリフトバックに2T-GEU型が採用されたグレードはトレノを名乗らず1600GTとされていた。
トレノの存在感が薄れたモデルチェンジとなったが、排出ガス規制への適合を優先して設計が古くなっていた2T-GEUエンジンを少しでも量産すべく考えられた結果だろう。初代TE27からエンジンを継承しているため、さすがにスポーツカーとしてみれば不満の残る内容だが、このTE71型ではサスペンションにトピックがあった。代々リヤに固定軸であるリジッド方式を採用してきたのだが、この世代になり4リンク式に進化しているのだ。これにより明らかに操縦性が高まり、スポーツドライビングを楽しみたい向きには歓迎された。
モデルチェンジ当初はスプリンタークーペ・トレノ1600を名乗ったTE71トレノは1981年のマイナーチェンジで装備を豪華にするとともにスプリンター・トレノ1600GTアペックスに進化する。内外装も変更され、特にスラントノーズの面を一体感あるデザインにしたことが特徴。異形ヘッドライトが認可されたことを受けて’70年代後半から順次採用が拡大されたライト形状によるもので、’81年になってトレノにも採用されたのだ。
特徴的なスタイルになったが、現在は残存率が非常に低いマイナーな車種になっている。2022TMSCクラシックカーミーティングの会場に、この珍しい後期型TE71トレノを見つけた。思わず声をかけたオーナーは62歳になる野村透さん。なんでも学生時代に同型のTE71トレノを所有していた経歴の持ち主だ。
学生時代に乗っていたTE71トレノは年齢とともに買い替えられ、現在はBMWのE90M3がメインカー。ところが40歳を過ぎた頃になって「学生時代に乗っていたTE71トレノにもう一度乗りたいと思ったのです」という。人生とともに愛車が入れ替わっていくのは当たり前だが、過去に所有していたクルマへ回帰したくなるのは年齢的なものだろうか。
それとも多感な学生時代に過ごした日々や、クルマの運転技術を磨いた過去の愛車に対する郷愁だろうか。若い頃に乗っていたクルマをもう一度所有したいと思うことは誰しも経験しているかもしれないが、本当に実現させる人は少ないのではないだろうか。その点野村さんは本気だったようで、インターネットで検索を続けることになった。
このTE71トレノを見つけたのはインターネット・オークション。2003年のことで出品者へ連絡すると事前にクルマを見せてもらうことになった。実際に見てしまうともういけない、結局そのTE71を購入することとされたのだ。2003年当時ですら22年前のクルマ、入手後にトラブルと無縁で過ごせたわけもなく苦労しながら維持し続けてきた。
これまでドアや給油口などののサビに対処しつつ、リヤのハッチゲートゴムが寿命になりコーキングで再生している。またクラッチのマスターシリンダーからオイル漏れを起こすこと2回、ドアの内張を他グレードから流用するなどを経験された。さらに穴が空いたマフラーはAE86用を流用するなど、トラブルのたびにアイデアを駆使して乗り越えている。
同じトレノでもAE86のような人気車なら部品の確保に困ることは少ないかもしれないが、TE71のようなマイナー車種だと探しても見つからない部品が多いはず。だからこそ、対処法が見つかるたび、愛車への愛着も深まるのだろう。購入から2023年で20年目になる野村さんだが、手放すつもりは一切ないそうだ。