「ホンダ N-BOX」はなぜいつまでも売れ続けるのか 【ホンダ N-BOX 深掘り解説&試乗コラム】

2017年に現行モデルにスイッチしたN-BOXが相変わらず売れ続けている。街にはすでにN-BOXが溢れているし、広さや走行性能など、ライバル勢と比べてそこまで大きな差があるのだろうか? “標準車”のN-BOXに改めて試乗してみた。
REPORT:安藤 眞(ANDO Makoto) PHOTO:神村 聖(KAMIMURA Tadashi)/中野幸次(NAKANO Koji)/MotorFan.jp

実はスーパー万能車と言えるのがN-BOX

もはや完成されたスタイリングと言える二代目(現行)N-BOX。タイヤは四隅に配置され、居住空間はマックスに。とはいえ、あくまで軽自動車の規定内であり、寸法的に見ればライバル他車に比べて圧倒的なアドバンテージがあるとは言えない。

現在のN-BOXがデビューしたのは2017年だから、今年で5年目。いわば「モデル末期」と言えるタイミングだけれど、人気は未だに衰えず、21年度の新車販売台数では、軽自動車部門で7年連続の1位、登録車を含めた全乗用車でも、2年ぶりに1位に輝いている。

人気の理由は、「これ1台あれば、たいていのことはできてしまう」ということ。大人4人がゆったり乗れて、その状態でもそこそこ荷物が積載できるし、後席を折りたためば登録車のワゴンやSUV並みに荷物が積める。軽自動車だから、維持費も高速代も安いし、「峠道で走りを楽しむ」とか「オフロード走行したい」など特定の目的がないのなら、後で「失敗した!」思うリスクはほとんどない“スーパー万能車”がN-BOXだ。

メカニズム面でも、登録車もビックリな最新機構を満載。エンジンにはストローク×ボア比が1.29に達する超ロングストロークの「S07B型」を搭載する。ロングストローク化すればボア径が小さくなり、吸気バルブ面積が減ってパワーが出ない理屈だが、そこはホンダの“伝家の宝刀”Lo-Hi切り替えVTEC機構を採用。自然吸気エンジンの最高出力43kW/最大トルク65Nmは軽自動車最強。それでいてカタログ燃費も20.0km/Lを越える!

軽自動車はターボ付きでないとエンジンが非力で余分に回さざるを得ず、騒音も大きく、燃費も思ったほど伸びない、というケースも見られるが、N-BOXのNAエンジンはそうしたネガが非常に少ない。

なにより“センタータンクレイアウト”による使い勝手の高さは、競合他車にはない魅力。一般に後席下に置く燃料タンクを前席下に置いており、空いたスペースに後席をダイブダウン格納できるようにしたため、折りたたんだ際の床面がほぼ水平になり、傾斜が残る他車より使いやすい。

ホンダ独自のセンタータンクレイアウトの恩恵で後席はダイブダウン格納するため、相当に低い位置にフラットな荷室空間が得られる。
後席座面を撥ね上げられるのもホンダだけの特典。居室側に大きい荷物を積むのも楽だ。

新型が出るのはまだ少し先になりそうだし、年次改良で細かなネガもほぼつぶしきった今が、まさに“旬”と言えるのではないか。

あらゆる応答はマイルドかつ一貫していてストレスがない

小型車と比べても遜色ないインテリアの質感の高さも人気の要因だ。登録車から乗り換えるユーザーでも安っぽさを感じることはないだろう。

N-BOXの乗り味は、「平均的スキルのドライバーが、誰でも安心して走らせられる」といったイメージ。発進加速は過敏ではないが、アクセルを踏めば数値相応の力強さは感じられるし、自然吸気エンジンでも、街乗りの大抵のシーンを3000rpm以下でカバーできるため、室内は静か。ハンドルを切った際も、ロール角自体は車高なりに大きいけど、いきなりグラッとロールすることはないので安心感は高い。

後席は左右独立してスライド可能で、アームレストも左右独立して用意される。
助手席スーパースライドシート装着車は57cmもの前後スライドが可能。

ブレーキの食いつきもマイルドで、制動力はストロークでコントロールするタイプ。繊細なブレーキコントロールをしたいドライバーだと「もうちょっと効いたほうがいいな」と思えるかもしれないが、そうでないユーザーが多少、雑な操作をしても、同乗者がガクガクしないのはキャラクター相応だ。

むしろ、あらゆる応答がマイルドながら、一貫してそれが続くので、キャラクターさえ把握してしまえば、ジャーク(加速度の変化)を出さない運転はしやすく、走り好きでもストレスが溜まることはないはずだ。

乗り心地も概ね良好だが、市街地走行の速度域では、タイヤが少し硬い印象を受ける。路面のザラつきが変わるとロードノイズの変化が大きめだし、ジョイント通過時の当たりも硬い。

オートホールド付きの電子制御パーキングブレーキが21年12月のマイナーチェンジで追加された。
「ピタ駐ミラー」で、助手席側死角の確認をサポート。

ちなみに試乗車の装着タイヤは、ダンロップのエナセーブEC300。サイズは155/65R14で、指定空気圧は前240kPa/後230kPa。車重を考えると空気圧は少し高めに思えるが、そこは燃費(転がり抵抗)とトレードオフだから仕方ない。

試乗した際の燃費計の表示は21.6km/lと、WLTCモード燃費の21.8km/lとほぼ同じ。試乗距離は9.7kmで、試乗環境は「流れの良い郊外路が6割、それほど混雑していない市街地が4割」といった具合。エコドライブには適した環境だったとはいえ、強めの加減速を何度か試して、カタログ燃費同等が出たのは立派だ。

ホンダ N-BOX EX(FF)


全長×全幅×全高 3395mm×1475mm×1790mm
ホイールベース 2520mm
最低地上高 145mm
車両重量 930kg
駆動方式 前輪駆動
サスペンション F マクファーソン式 R 車軸式 
タイヤ 155/65R14

エンジン 直列3気筒DOHC
総排気量 658cc
エンジン最高出力 43kW(58ps)/7300rpm
エンジン最大トルク 65Nm(6.6kgm)/4800rpm
WLTCモード燃費 21.2km/l

車両本体価格 1,678,600円

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…