ホンダ伝統のキラーアイテム「RS」が新型フィットに追加! スポーティなルックスに引き締まったしなやかな足まわり【新型フィット試乗記】

ホンダ・フィットがマイナーチェンジした。トピックはRSの新追加だけではない。e:HEVのユニット自体に手が入り、性能の“ベースアップ”が図られているのだ。駆動モーター、発電モーターともにパワーアップし、ピックアップの良さや燃費の向上に貢献している。
REPORT:佐野弘宗 PHOTO:平野 陽

JOY耐参戦で「RS」開発の知見を収集

ゆったり深めにロールしながら豊かな接地感を伝える、現行フィット全体に通じる味わい。RSもあくまでその延長線上にある。

ホンダ・フィットがマイナーチェンジを受けた。現行4代目の発売から2年強という最近では少し早めのタイミングなのは、外から見るかぎりあまり芳しくない国内販売台数へのテコ入れか……と分析する向きも多い。

実際、現行フィットが発売当初に設定された月間1万台という計画台数を達成したのは発売翌月の2020年3月だけ。あとはずっと下回っている。また、絶対的な販売台数でもN-BOXはもちろん、フリードやヴェゼルの後塵も拝している現状は、さすがに本意ではないだろう。しかし、フィット開発陣は「日本市場の現状や競合車との比較では、フィットの販売はけっして不調ではない。今回のマイナーチェンジも事前からの計画どおり」と話す。

ほぼグリルレスだったフィットに大型グリルを装着。バンパーも開口部を大きく取ったデザインで、明らかにスポーティな意匠へと変貌した「RS」

今回のメダマはホンダ伝統のキラーアイテム(?)ともいえる「RS」の新設定だ。これまでない新感覚スポーツモデルとして用意されていた従来の「ネス」は、そのRSに取って代わられるカタチで廃止となった。

ピアノブラック塗装のRS専用リアバンパーほか 、テールゲートスポイラー、エキパイフィニッシャー、RSエンブレムなどでリヤ周りも精悍な印象。

こうした経緯からも「RSはやはりフィットの起死回生のために急きょ企画されたものでは?」と意地悪に考えてしまった筆者だが、現在のフィット開発責任者である奥山貴也氏(以前はフィットの性能開発を担当)はそれを明確に否定した。そして「このタイミングでのRSの投入も当初から予定していたもの」と断言してくれた。実際、現行フィットは発売直後からモビリティリゾートもてぎで開催されている“JOY耐”に毎回参戦して、RS開発のための知見を蓄積していったという。

新型フィット JOY耐参戦車。JOY耐参戦時はまだ「RS」フェイスが付いていないため、RSの発表に合わせて「RS」フェイスを装着!

おとなし過ぎた?外観がスポーティに変貌

そんなフィットRSは外観からして、わかりやすいスポーツモデルだ。大開口バンパーとフロントグリル、サイドスカート、リヤスポイラーを備える。タイヤサイズは既存の16インチと共通だが、タイヤ銘柄=ヨコハマ・ブルーアースGTはRS専用。

RSのみ、ヨコハマのブルーアースGTを履く。専用開発タイヤではないため、リプレイスの際にユーザーの負担が少ないという配慮も。

このタイヤ選択について奥山氏は「普通のタイヤショップで交換しても走りが変わらないように、今回はあえてリプレイス用のブルーアースGTをそのまま使っています。このタイヤはグリップも高く、そのわりにしなやかで静粛性も高く、とてもバランスがいい」と太鼓判を押す。

エクステリアに比べると、過度にスポーティな演出はなく、シックな装いのインテリア空間。
NORMAL/SPORT/ECONの3つのモードを選択できるドライブモードは、RSだけの専用装備。
パドルを使用した減速セレクターもRS専用。4段階に減速の強さをコントロールできる。

誰の目にもスポーティなやる気が見えるエクステリアとは対照的に、インテリアは落ち着いた仕立てだ。目立つのは専用の3スポークステアリングホイール(他のグレードは2本スポーク)で、あとはシート表皮が変わるくらい。そのシート表皮もあえてグレーのレザーに黄色いステッチを組み合わせるなど、あからさまなスポーツテイストではない。

RSのインテリアカラーはグレー。落ち着いたモノトーンのコンビシートを採用する。控えめなイエローステッチがワンポイントだ。

パワートレーンは、ドライブモードスイッチとパドル式減速セレクターが加わる以外は、本体はほかのフィットと変わりない。今回のマイナーチェンジで駆動モーターと発電モーターの両方を性能アップして、よりさわやかなピックアップと燃費向上を図っている。

広大な後席空間は健在。ライバルにないフィットのセールスポイント。

正確で剛性感の高いコーナリングフィール

実際に乗っても、わずかだがパワフルになった感がある。また、アクセルを深く踏み込んだときに多段変速機のようにふるまう「ステップシフト制御」もより切れ味鋭い回転変化になっているそうで、それもふとしたときに気づくくらいの変化はある。

ハイブリッド車(e:HEV)の搭載エンジンは4気筒1.5L。パワートレーンのパフォーマンスはRSも他のe:HEVグレードと同様。とはいえマイナーチェンジを機に、駆動用モーターも発電用モーターも出力アップが図られている。

今回は箱根のワインディングロードでの短時間試乗に限られたが、フットワークは想像以上にスムーズに荷重移動して、柔らかにロールする。ゆったり深めにロールしながら豊かな接地感を伝える調律は、現行フィット全体に通じる味わいで、RSもあくまでその延長線上にある。

そのうえで、より正確で剛性感の高いコーナリングや手応えのあるステアリングフィールを味わえるのがRSというわけだ。今回のような本格ワインディングでも、目を見開いてコーナーのクリップを射抜くより、腹八分目のペースで流すのが心地よい。

そこそこのペースでドライビングを楽しむのが「RS」にはよく似合う。

市街地での姿勢変化の小ささを見るに、RS専用チューンのコイルスプリング、スタビライザー、ダンパー減衰がそれなりに引き締められているのは容易に想像できる。ただ、とくにワインディングではまるで硬さを感じさせず、とにかくしなやかな身のこなしなのは、奥山氏によると「今のフィットのボディが剛性感がとても高いからです」とのことだ。

RS以外のグレードも、同時にマイナーチェンジを果たした。写真はラグジュアリーグレードのe:HEV リュクス。ボディカラーはミッドナイトブルービーム・メタリックだ。
リュクスは、標準装備の本革シートで一気に高級なムードが漂う。内装色はブラックの他に、写真のライトブラウンを選択可能だ。
マイナーチェンジで新採用されたアームレスト付きのセンターコンソール。ベーシック以外のグレードに装着される。

また、この新しいRSをはじめ「ホーム」や「リュクス」に触れたときにも気づいたのだが、新しいフィット(のベーシック以外のグレード)には、以前になかったアームレスト付きのセンターコンソールが備わる。これもクルマ全体の質感を引き上げる効果を発揮している。

フィットの標準グレードと言える「ホーム」。ボディカラーは、プレミアムクリスタルレッド・メタリックだ。
ホームはオプションで、ブラック以外に「ライトグレー」インテリアを選べる。インパネは黒と白のコンビになり、標準グレードとは思えない上質な雰囲気を醸し出す。
ライトグレーインテリアのコンビシートは、上質なソファのような触り心地が特徴だ。

ただ、これも今回のために新設計したものではなく、側面衝突基準の厳しいヨーロッパ向けにもともとあったものを国内にも拡大採用したものという。欲をいえばセンターアームレストがもう少し前方にスライドしてくれると理想的だが、衝突安全のためにはそれもできないらしい。へえーそうなんだ。

ホンダ フィット e:HEV RS


全長×全幅×全高 4080mm×1695mm×1540mm
ホイールベース 2530mm
最小回転半径 5.2m
車両重量 1210kg
駆動方式 前輪駆動
サスペンション F:マクファーソン式 R:車軸式
タイヤ 185/55R16

エンジンタイプ 水冷直列4気筒横置きDOHC 
エンジン型式 LEB
総排気量 1496cc
最高出力 78kW(106ps)/6000-6400rpm
最大トルク 127Nm(13.0kgm)/4500-5000rpm

モータータイプ 交流同期電動機
モーター型式 H5
最高出力 90kW(106ps)/3500-8000rpm
最大トルク 253Nm(25.8kgm)/0-3000rpm

トランスミッション 電気式無段変速機

燃費消費率(WLTC) 27.2km/l

価格 2,346,300円

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