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ひと目惚れするデザインを支える空力開発
新型プリウスはよりスタイリッシュなプロポーションを実現するため、第2世代プリウス以降にアイコンとして定着した「モノフォルムシルエット」を継承しながら、ルーフのピークを後方に移した。「ひと目惚れするデザイン」を実現するためだ。
空力的には、ルーフのピークは後ろにあるより、前にあったほうがいい。ルーフに沿って流れる空気はピークで剥がれる。ピークが前にあると、剥がれた空気はルーフの後方で着地する。ところが、ピークが後ろにあると、剥がれた空気の着地点がない。それがリフト(揚力)につながってしまう。
リフトは車体を浮き上がらせる方向に作用する。タイヤの接地荷重が減るので、直進時も旋回時も車両挙動を不安定にする方向に働く。しかし新型は格好いいデザインを実現することが優先されるので、目に見える範囲にデバイスを取り付けてリフト抑制を図ることはしたくなかった。
40km/h程度から効果がある床下空力デバイス
そこで着目したのが床下だ。新型プリウスは「エアロスタビライジングアンダーボデーステップ」と呼ぶデバイスを採用した。エンジンカバーとフロアカバー、リヤバンパー下部のカバーに設けた長方形の凹みのことだ。前から流れてきた空気が凹みの角を乗り越える際に、圧力差が生じて負圧を発生する。
流体が近くの物体に引き寄せられる現象をコアンダ効果と呼ぶ。蛇口から流れ落ちる水に手を近づけると、水が張り付いて流れが変わる現象がその一例だ。このコアンダ効果により、カバーに沿った空気は凹みの段差に追従して流れる。その際、流れが速くなって負圧が発生するというわけだ。負圧とはすなわちダウンフォース(マイナスの揚力)である。角を乗り越えて凹みに入るときだけでなく、凹みから出るときの乗り越えでも負圧を発生させる。
直進時は路面からの入力や風の影響によって車体を上下に揺らそうとするが、ダンパーでは減衰できない微細な上下動が残りがちだ。エアロスタビライジングアンダーボデーステップが発生する負圧は、その揺れを抑える効果がある。
エアロスタビライジングアンダーボデーステップは直進時だけ機能するのではなく、クルマが旋回姿勢に入り、角度が付いた状態で空気を受けた場合でも機能するよう開発されている。だから、コーナリング中は姿勢を安定させる方向に働く。
「真っ直ぐ走った状態でベストにすると、ステアリングを切った瞬間におかしくなることがあります。感応評価がベースになりますが、実際に評価しながら、長さや角度を決めました。空力操安の担当者は、『自分が携わったなかで歴代一二を争う効果があった』とコメントしています。効果は40km/h程度から感じられます。エアロスタビライジングアンダーボデーステップは、走りに関する空力の一番の目玉です」
開発担当者はこう語る。普段は見えないところに空力の新技術を採用し、走りを磨いたのが新型プリウスの特徴だ。