SUVに乗りたいけれど、人と同じじゃつまらないアナタに。キャデラック XT4試乗記 【JAIA 輸入車試乗会】

コンパクトボディと2.0Lダウンサイジングターボで、ここ日本においても非常に扱いやすいキャデラックがXT4だ。乗降しやすいサイドシルの工夫や、ブラインド操作しやすいスイッチ類など、使い勝手の良さが光る。欧州車的な操舵フィーリングも頼もしい。
REPORT:安藤 眞(ANDO Makoto) PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)/MotorFan.jp

コンパクトでも適度に広い後席空間

引き締まったスタイリングのせいもあり、実寸以上にコンパクトに見えるXT4。全長は、フォレスター(4640mm)よりも、RAV4(4610mm)よりも短い4605mmだ。

キャデラックのSUVといえば、小山のように巨大な“エスカレード”が真っ先に思い浮かぶが、それと対極にあるモデルがXT4。キャデラックブランドのSUVライン最小モデルで、スリーサイズは、全長4605mm×全幅1875mm×全高1625mm。トヨタ・ハリアーと較べても、全幅が20mm広い以外は、むしろ小さい。

搭載エンジンは2.0L直列4気筒のダウンサイジングターボで、最高出力169kW/最大トルク350Nmを発生。これを内製の9速ATを介して路面に伝える。駆動方式はFWDとAWDの両方あるが、日本向けには後者のみの設定となる。AWDはリヤデフの出口に油圧多板クラッチを配したオンデマンド&トルクベクタリング方式を採用する。

今や“アメ車”でもデフォルトになってきた感のある直4、2.0Lダウンサイジングターボを搭載する。モーターアシストはなし。

グレードは3種類あり、今回の試乗車は真ん中の“SPORT”。ハンドル位置は左のみで、世界的にも右ハンドルは作っていないそうだ。

乗り込もうとして最初に気づいたのが、乗降性に対する配慮。SUVはサイドシルが高めになるし、近年は側面衝突やボディ剛性を考えてシル幅も広くなる傾向にあるが、XT4はドアパネルでサイドシルを覆うオーバーラップ方式であるのに加え、キャビンの床側も外側にえぐっており、実質的なサイドシル幅を130mmに抑えている。アメリカでは女性に人気の高いカテゴリーだからなのかも知れないが、GMもこんな細かい配慮をするようになったのだと感心した。緻密な配慮には、走り出してからも気づくことになる。

足を出し入れする箇所のサイドシルが抉られている。乗降性向上へのうれしい配慮だ。

シートは本革が、全グレードに標準装備。シートヒーターも標準装備されており、中間グレード以上にはベンチレーション機能もつく。メーターパネルは今時珍しい機械式の2眼で、センタークラスターパネルに並んだ空調系のスイッチも機械式。ブラインド操作しやすいだけでなく、エアコンオフから温度調節スイッチを触るだけでエアコンが起動する。

グレードを問わず本革シートが奢られる。ホワイトカラーのシートはブラック内装とのコントラストで華やかな印象だ。

後席は適度に広く、身長181cmの僕が座っても頭上には60mm、膝前には90mmの余裕が残る。つま先は前席下にスッポリ入るので、足を置く場所の自由度は高いが、フロアトンネルが幅230mm×高さ130mmと大きいので、2名で使用するのが快適だと思う。

外観から想像するよりもゆったり座れる後席シート。

テールゲートは電動開閉式で、キックモーションでも開くセンサー付き。この手の装置はセンサー位置が分かりにくいものが多いが、XT4はセンサー真下の路面にキャデラックマークを映し出すプロジェクションランプが付いている。

ラゲッジはローディングハイトが790mmと高めの設定。床面の前後長は中央で840mm、幅はホイールハウス間で990mm、高さはトノボード下までで405mm。4名分のキャンプ道具は積めそうだ。

電子制御ダンパーを装備するSPORTグレード

久々の左ハンドル車で、なおかつ車幅もワイドなので、車線内の走行位置を探りながら走っていたら、車線逸脱警報が作動した。運転席のクッション下に振動発生モーターが仕込んであり、音だけではなくシートの振動も使って注意を喚起する。

乗り味は思いのほかシャキッとしており、20世紀アメリカ車のふかふかした感触はまったくなし。操舵力もしっかりしており、ハンドリングはむしろ欧州車的でもある。ドライブモードは4種類あり、モードに応じて減衰力や駆動力の制御が変わるが、今回はデフォルトの“ツーリング(FWD)”しか試していない。

ディスプレイ化されたメーターが全盛の今、機械式の2眼メーカーは珍しい。

SPORTグレードにはリアルタイムに減衰力を調整する電子制御ダンパーが付いており、姿勢変化をうまくコントロールしていながら、ゴツゴツした突き上げはない。タイヤの硬さが少し感じられるのは、装着されていたコンチコンタクト6の特性と、245/45R20というサイズを前後240kPaという高めの空気圧で使っているのが原因だと思う。道路を横切るグレーチングを通過した際、リヤがブルっと震えるのは、5リンクマルチ式リヤサスのコンプライアンスによるものだと思うが、いずれも取り立てて上げつらうほど不快ではない。

走行中の室内は非常に静か。フロントガラスに遮音膜を挟んだり、前後フェンダーライナーに不織布を使用しているのが奏功しているようだ。高速域での風騒音も小さい。

PREMIUMは18インチ。PLATINUMとSPORTは20インチを履くが、デザインはいずれも異なり、写真のSPORTがもっともスポーティな5スポーツデザインを採用する。

パワートレーンの振る舞いはダウンサイジングターボらしく、低速段では2000rpmぐらいまで引っ張ってからアップシフトするが、3速以上になると、過給圧をうまく使って回転を上げずに走るようになる。勾配変化の頻繁な狭いワインディングに持ち込んでも、ターボラグらしきものは一切、顔を出さない。ちょっとでもトルクが落ち込みそうになると、9ATがすかさずダウンシフトして回転を上げに行く。このATは下り坂でも非常に賢く、緻密なダウンシフトでエンジンブレーキを適切に利かせてくれる。

自動車専用道の入り口で強めの加速を試みると、静かな室内に心地よいエキゾーストサウンドが響き渡る。乾いて抜けの良い音質は高回転まで続き、なかなか気持ち良い。加速力も最大トルク相応に力強い。

中央部のフロア前後長は840mm。フロア高も高く、競合国産車などと比べると、寸法自体はやや控えめか。

価格は689万円〜809万円と少々値は張るが、欧州車ではオプションになるような装備は一通りついていることを考えると、実質価格はむしろお買い得ではないかと思う。「SUVに乗りたいけれど、人と同じじゃつまらない」という向きには、良い選択肢になるのではないか。

ラインナップ


PREMIUM  6,890,000円
PLATINUM  8,090,000円
SPORT    7,690,000円
キャデラック XT4 SPORT


全長×全幅×全高 4605mm×1875mm×1625mm
ホイールベース 2775mm
車両重量 1760kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:マクファーソン式 R:マルチリンク式
タイヤサイズ 245/45ZR20

エンジン 水冷直列4気筒
総排気量 1997cc
ボア×ストローク 83.0mm×92.3mm
トランスミッション 9速AT
最高出力 169kW(230ps)/5000rpm
最大トルク 350Nm(35.6kgm)/1500-4000rpm

価格 7,690,000円

キーワードで検索する

著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…