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チョクロク、どうよ!
今回の待ち合わせは、田園調布に朝8時。例によってどこからともなく沸いてくる編集部75(ナコ)を自動車評論家のヒトシ君(瀬在仁志さん)がお迎えにあがるスタイルも変わらずです。
さて、前回よりかなり間があきましたが、今回の試乗車はマツダが社運を賭けて(!?)開発したラージ商品群の第一弾・マツダ CX-60です。
助手75:おはようございます。いや~いいお天気ですねぇ。でもアタクシ、花粉症……ツライ。
ヒトシ君:そうなんだよ、オレもどうやら花粉症。クルマも昨日洗車したばかりなのに、ボンネットにうっすら花粉が……。
助手75:長~いボンネットね。
ヒトシ君:そりゃそうだよ、ここにチョクロクが入っているんだから。
助手75:チョクロクねぇ〜。ワタシは、R35 GT-RラブだからV6って言われるほうがグッとくるけど、どこがいいのさ、そのチョクロクとやらは?
ヒトシ君:チョクロクとは直6、直列6気筒エンジンのことね。簡単に言えば、バランスがいいんだ。振動がなく滑らかに回る。だから高級車に使われるってわけ。国産車だと日産のR34以来になるのかな? トヨタはV6やV8がメインだし、ホンダはクルマで直6って聞いたことないよなぁ。超高級車ともなれば、直6をふたつくっつけてV12になるってわけ。で、直6といえば、やっぱりBMWなのね。もちろん近年ではメルセデス・ベンツやジャガーなんかも持ってるよね……っていうと、やっぱり高級車用って感じがするでしょ?
助手75:フムフムなるほど。でも、世の中にはV6のほうが多いわね。それはどうして?
ヒトシ君:V6はエンジンの長さが直6の半分だから、だな。エンジンルームに縦でも横でも置きやすし、長さも短いから前面衝突安全性でも有利になる。だから直6は減ってV6が増えたんだけど、技術が進んで直6でも衝突安全もクリアできるようになったこともあって、直6復活ってなったわけ。まぁ、もちろんほかにもいろいろ理由があるけど、今回は割愛。まずは、走りだそう。
助手75:ところでさ、ちょっと脱線してコッソリ聞くけどさ、CX-5とかCX-8との違いがイマイチわからないのよねぇ。
ヒトシ君:確かにオレもデザインだけ見たときには、似たようなクルマばかり出して、どうするんだろうって思ってたよ。でもね、このCX-60って見た目はもちろんだけど、中身は従来のマツダのSUVとはまったく異なっていて、驚くことばかりなんだ。乗ったときの印象も同様で、それは前に書いたヨンクモデルとこのFRモデルのインプレを参考にしてほしいんだけど、そのフィーリングは良くも悪くも別物。じつは中身はまったく異なっているからなんだよね。まず、このCX-60を出した狙いだけど、いまの世界の人気カテゴリーでもあるプレミアムSUV市場に参入するために企画されたシリーズであるってこと。マツダではラージSUV商品群って言っているけど、ひと言でいえば世界戦略車として投入されたプレミアムSUVシリーズの第一弾ってことなのね。
では、さらっと今回の試乗車をご紹介
ふたりを乗せるのはマツダCX-60 XD エクスクルーシブモード(FR)で、車両本体価格は443万3000円(オプション:特別色ソニックシルバーメタリック5万5000円)である。
CX-60は、2.5L直4ガソリン、3.3L直6ディーゼル、3.3L直6ディーゼル+マイルドハイブリッド、そして2.5L直4+PHEVの4種類のパワートレーンを設定する。
トランスミッションは全車8速AT。主力は4WDで、2WD(後輪駆動)が設定されているのは、2.5L直4と3.3L直6のみ。
つまり、エントリーモデルという位置づけだ。そのなかでも今回の試乗車、XDエクスクルーシブモード(FR)は、エントリーの最上級モデル(変な言い回しになるけどね)である。
さぁ、そんなCX-60は田園調布の街から環八、第三京浜を南へ走ってゆく。
ヒトシ君:で、今日はどこへ行くの?
助手75:はい。今日は、千葉県の棚田を見に行きます。都内からもっとも近い棚田だっていうから行ってみようかと。南房総ね。ところでこのクルマ、内装がオシャレよね。シートのこのアクセントがいいわ。なんかボーボチックじゃない? このエアコンの吹き出し口がもっと長かったらもっとボーボっぽいと思うけど。
ヒトシ君:マツダのデザイナーが聞いたら喜ぶ……がっかりするかな。でも、なかなかいいインテリアだよね。細かい造りもいい出来だね。音はどう?
助手75:最初、ちょっとディーゼルっぽい音が気になったけど、いまはもう気にならなくなったな。静かでいいじゃん。
ヒトシ君:マツダが自社開発した8速ATのおかげで100km/h巡航でもエンジン回転数は1500rpm回転にもならないの。だから静かなんだ。
助手75:なるほどね。しっかし待ち合わせ時間が早すぎて、お腹空いたわね。
相変わらず常にハラヘリの助手75を乗せ、CX-60は首都高速からアクアラインを渡って房総半島へ。
あらためてCX-60をチェック
そして房総スカイラインの駐車場であらためて車両チェックです。
助手75:直6+FRが高級車のレイアウトだっていうのはなんとなくわかった。たしかにCX-60、なんか無骨というよりちょっと優雅な感じがするわね。どうしてかしら?
ヒトシ君:うん、いいところに気づいたね。プレミアムレングスのおかげだな。
助手75:なによ、プレミアムレングスって。
ヒトシ君:ここ、前輪の中心からフロントドアの前端までの長さを「プレミアムレングス」って呼ぶんだよ。ここが長いと、プレミアム感が増すの。アストンマーティンもロールス・ロイスもマセラティもみんなここが長いでしょ。フロントにエンジンを縦に置いて後輪を駆動するレイアウトじゃないとなかなか実現できないプロポーションなんだ。
助手75:たしかに。でも、可憐なワタシにはちょっとサイズが大きすぎるかな。
ヒトシ君:可憐かどうかは別として、このクルマのボディサイズは全長×全幅×全高:4740mm×1890mm×1685mm、ホイールベース:2870mmだから、幅と高さだよね、大きいのは。でも、視界もよく考えられているし、ボディの見切りもいいから運転しやすいと思うよ。ちょっと運転してみようか。
全高1640mm(短足)にはハードル高し?
助手75:う~ん、やっぱりアタクシのサイズで乗るには、やっぱり大きいなぁ。ん……ちょっと待って。アレ? アタクシのマツダ試乗初、シートポジションが合わせられていないかも……。なんだろう。乗った瞬間にポジションをチャッと決められる、っていうのがマツダに対するイメージなんだけど、今回ばかりは少しアレレって感じだな。でも、視界はすっばらしくいいわね。この乗った瞬間の運転しやすそうな安心感も、さすがマツダって感じ。
ヒトシ君:いやいや、でもちゃんと運転できてるじゃん。不安げないよ。
ほどよいワインディングにさしかかったところで、ヒトシ君にドライバーチェンジ。ドライブモードスイッチの「Mi-DRIVE」をNORMALからSPORTに。メーターの基調が赤になって、なんだかやる気モードになる。
ヒトシ君:おおっ! スポーツモードにすると直6の真価が味わえるね。エンジン、よく回るし音もいい。これぞストレート6って感じの音が気に入った。4輪駆動じゃなくてFRだから、操縦性も素直だな。
助手75:うんうん。コレ、いい音だね! ところでさ、CX-60って脚が硬いとかいろいろ言われていたでしょ? こうして乗ってみたら、そんなふうにはワタシは感じないけど、そこんとこはどうなの?
ヒトシ君:うん。詳しくはオレのインプレッションを読んでほしい。前に乗った直6ディーゼル+マイルドハイブリッド+4WDのものとは違って、サスペンションにちょっと変更が加えられてるんだ。リヤサスペンションのコントロールアームの前側をボールジョイントからラバーブッシュに変えていたり、スタビをなくしてあったり……。
助手75:♫遠ぉい~むぅかしのことさ~、ゆぅめで見たんだ~♫
ヒトシ君:それ、スタレビな(註:スターダストレビュー)。相変わらずの昭和感だな。
助手75:で、スタビってナニよ?
ヒトシ君:え、知ってるでしょ。知ってるけど機能がよくわからない? あ、そう。スタビはスタビライザーのこと。スタビがあると、ロールを抑えられるから操縦安定性が上がるんだね。でも、場合によっては乗り心地が悪くなる可能性もあるんだ。今回のCX-60のFRは乗り心地をよくするためにスタビレスにしたんだろうね。
助手75:で、その効果は?
ヒトシ君:だからオレの試乗記、読んでよ。
今回の目的地は、鴨川大山千枚田
今回の目的地である鴨川大山千枚田は東京より一番近い棚田の里と知られ、3.2ヘクタールに階段状に並んだ375枚を数える棚田である。日本の原風景ともいえる素晴らしい田園風景が広がるこの地は「日本の棚田百選」にも登録される。
助手75:あら、こんな狭い道なのに、運転しやすそうね。
ヒトシ君:2WDだけど、問題まったくないね。っていうか、棚田どこ? ここは棚田じゃないよねぇ。この先もあるような感じしないけど……。
助手75:大丈夫大丈夫。この先に、きっとある。ほらっ! 看板みっけ。
ヒトシ君:なんかいま、わっかりやすく安心しなかった? 相変わらず下調べしていないんでしょ。
助手75:まぁいいじゃん、着きそうだから。おっ!
そして目の前に拡がる棚田の風景。
だが、美しい風景では腹が膨れぬ助手75は、早くランチにありつきたくて仕方ない。豪快にお腹を鳴らしながら、ヒトシ君とカメラ担当をせかし、棚田横にあるという古民家レストラン ごんべいを目指す。大山千枚田産の長狭米を籾殻竈(註:もみがらかまどと読みます。地方によっては、ぬかくどとも言われます。薪ではなく、もみ殻を燃料に利用して米を炊きあげるかまどのこと)で炊き上げて結んだおにぎりが味わえるとくれば、行かない理由はありません。
というわけで、気を取り直して道の駅 みんなみの里にあるカフェ&ミール MUJIみんなみの里を目指すことに。
ここは全国でも珍しいと思われる、地元の農産物も販売する地域密着型の無印良品版道の駅で、店内には南房総の新鮮な野菜や果物、特産品などがたくさん並びます。
ランチはもちろんカフェMUJIにて。
ヒトシ君はわかめを練りこんだ麺(かき揚げのせ)と人気のバターチキンカレーのセット 1300円、75は、地元鴨川を中心とした季節ごとの素材を楽しめる、みんなみの里山プレート(1200円)をチョイス。
その後、デザートを求めて道の駅 富楽里とみやまへ。日本では珍しいブラウンスイス・ガンジー・ジャージー種の乳牛を飼育している牧場として注目される近藤牧場のソフトクリーム(350円)が食べられるんですよ。卵を使わない、濃厚なのにさっぱりとした後味のソフトクリームはぜひ食べて欲しい一品ですね。ちなみに、こちらの道の駅では、大好きなミモザを大量購入しました。
ヒトシ君:おっと、そろそろ戻らないと16時にマツダのR&Dセンター横浜にクルマ、返却できないね。
助手75:CX-60、とっても気に入ったわ。でも、まだ消化不良のところがいろいろありそう。乗り心地も悪くないけれど、高級SUVっていうには、もう少し改善が必要な気がする。そんでもってなんとなく、前輪が浮いているような感覚があるのよね。
ヒトシ君:そうなんだよな。ヨンクモデルでもそうだったけど、このクルマはフロントが上下動するね。やっぱり気になる? FRでもやっぱり上下するね。でもフロントにヨンクシステムを持たないぶんだけ軽いから、上下動が長く続くことがないね。それよりも運転しているとリヤからグイッと同時に押し出されるような蹴り出し感の良さがあるよ。リヤの接地感にとことんこだわったせいか、FRでは常に沈み込むようにしながら路面を蹴り出す感じが強いね。リヤが上下しながら前へ前へ蹴りだすから、軽くなったフロントは浮き気味だし、ヨンクモデルでは旋回中に押し出され感が出てしまうんだな。レンジローバーなんかはこのあたり、常にフラット感をキープし続けるからさすがだと思うし、欧州勢のターゲットモデルはこの上下動が少なくボディがこんなに動かない。さすがゴージャスなクルマに乗ってきた75、良くわかってるじゃない。
助手75:ありがとうございます。精進します。で、もうちょっとこのクルマの特徴を説明してくれませんかね?
ヒトシ君:特徴ね、うん。電動化されたCX-60に対してで非電動化のFRディーゼルモデルと、この後出てくるガソリンエンジンを積むFR・4WDモデルにはリヤスタビライザーがなくて、リヤの前後方向を支えるマルチリンクサスのコントロールアームの前ブッシュは金属ブッシュからゴムブッシュに変更されているんだ。アーム類のほかのブッシュはすべて金属ブッシュだったのに対して、1ヵ所だけゴムに変更するのはなんでだろうね。75が「乗り心地が硬いという噂だったけど、意外とカドがないね」って言ったのはそのあたりに理由があるかもね。よく調べてみるとデビュー時期こそ異なっていても実際は開発は同時に進められていたようだから、硬いことに対する対策ではなく、重量差に応じて使い分けしているだけみたい。軽さとゴムブッシュの採用が結果として、少しカドを丸めてくれたのかもしれないな。
ここからに期待!
ヒトシ君:これはさ、マツダにとってはラージ商品群という新しいトライの第一歩なんだ。シャコタンモデルや背の低いモデルも期待したいけど、まだまだラージ商品群は第一弾。二の矢、三の矢が飛んでくるはずだから、ひと揃いするまでは楽しみにしてましょうね。きっと日本を代表するSUVシリーズになってくれるはずだから、乞うご期待。ノンハイブリッドの後輪駆動、オレは気に入ったよ。というより、マイルドハイブリッドモデルは、価格が高いぶんの価値をどう表現するか、が課題になると思う。マイルドハイブリッド付きの直6ディーゼル+4WDモデル、燃費はびっくりするほどいいんだけど、求められる価値は燃費だけじゃない。だって、今回のクルマ(ノン・マイルドハイブリッド)も燃費は充分以上にいいんだもん。200kmくらい走って、18km/Lくらい。いいよね。
助手75:ちなみにね、同じくらいのサイズのプレミアムSUVをちょっと調べてみたの。
BMW X3 M40d:これは3.0L直6ディーゼル搭載で4WD。ボディサイズ(全長×全幅×全高:4725mm×1895mm×1675mm)でCX-60とほぼ同じ。Mがついているから、価格は931万円!
MじゃないX3 xDrive20d(こっちは、2.0L直4ディーゼル)でも741万円!
メルセデス・ベンツだったら、GLC220d4マチックなんだけど、こちらもボディサイズ(全長×全幅×全高:4670mm×1890mm×1645mm)はほぼ同じ。エンジンは2.0L直4ディーゼルで、価格は768万円!
ボルボだったら、XC60 プラスB5。ボディサイズ(全長×全幅×全高:4710mm×1900mm×1660mm)。これが一番サイズは近いのかしら。エンジンは2.0L直4ターボ+マイルドハイブリッドで価格は689万円!
で、今回のCX-60は443万3000円なの。これって、ものすごくお買い得じゃない?
ヒトシ君:そうだね。内容的には100万円高くてもおかしくない。魅力や価値をどうやって伝えていくか、だね。
助手75:要するに、それってワタシたちの仕事ってことよね?
ヒトシ君:だね、頑張らなくちゃ、ね。
マツダCX-60 XD エクスクルーシブモード(FR) 全長×全幅×全高:4740mm×1890mm×1685mm ホイールベース:2870mm 車重:1840kg サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式/Rマルチリンク式 駆動方式:FR エンジン 形式:直列6気筒DOHCディーゼルターボ 型式:T3-VPTS型(SKYACTIV-D3.3) 排気量:3283cc ボア×ストローク:86.0mm×94.2 mm 圧縮比:15.2 最高出力:231ps(170kW)/3750pm 最大トルク:500Nm/1500-3000rpm 燃料供給:DI 燃料:軽油 燃料タンク:58ℓ トランスミッション:トルクコンバーターレス8AT 燃費:WLTCモード 19.6km/ℓ 市街地モード16.2km/ℓ 郊外モード:19.3km/ℓ 高速道路:21.8km/ℓ 車両本体価格:443万3000円(オプション:特別色ソニックシルバーメタリック5万5000円)