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「金曜ロードショー」で2週に渡って放送される劇場版『ルパン三世』
GWのチャンネルは決まったぜ!
日本テレビ系の「金曜ロードショー」にて劇場版「ルパン三世」から2作品が4月28日・5月5日の2週連続で放送される。オンエアされる作品は28日が劇場版シリーズ第1作の『ルパン三世 VS 複製人間』(読み方はクローン人間。以下『複製人間』)、5月5日が宮崎 駿監督の劇場公開映画初監督作品として有名なシリーズ第2作の『ルパン三世 カリオストロの城』(以下『カリ城』)だ。
『カリ城』については昨年末からDMM TVで独占配信された『LUPIN ZERO』の記事内で詳しく語っているので、今回は『複製人間』について解説して行くことにする。
『ルパン三世 VS 複製人間』【STORY】
ルパン三世は峰不二子からの依頼で永遠の命が手に入るという「賢者の石」をピラミッドから盗み出した。だが、不二子の背後には自らを“神“と名乗るマモーの存在があった。すり替えた偽の賢者の石を渡したことで捕らえられたルパンは、マモーに不老不死の話を持ちかけられるが……。
【STAFF】 制作:藤岡豊 原作 :モンキー・パンチ(双葉社刊) 監督/演出/絵コンテ/キャラクターデザイン:吉川惣司 脚本:大和屋竺、吉川惣司 監修/メカニックデザイン:大塚康生 レイアウト:芝山努 作画監督:椛島義夫、青木悠三 美術:阿部行夫 撮影監督:黒木敬七 編集:相原義彰 録音:加藤敏 音楽:大野雄二 選曲:鈴木清司 製作補:郷田三朗、片山哲生 【CAST】 ルパン三世:山田康雄 峰不二子:増山江威子 次元大介:小林清志 石川五ェ門:井上真樹夫 銭形警部:納谷悟朗 マモー:西村晃 エジプト警察署長:三波春夫(特別出演) 大統領:赤塚不二夫(特別出演) 書記長:梶原一騎(特別出演)
アニメ版ルパンの原点回帰を狙って
“大人向け”のアニメ作品として制作された『複製人間』
『複製人間』が劇場公開されたのは1978年12月16日のことである。
TVの本放送時に低視聴率に苦しんだ『ルパン三世Part1』(放送期間:1971年10月~72年3月)が、その後、各局で繰り返し行われた再放送によって人気に火がつき、それを受けて制作された新シリーズの『Part2』(放送期間:1977年10月~80年10月)がオンエアされ、高い視聴率を叩き出したことと、1977年3月に劇場公開された『宇宙戦艦ヤマト』が若者を中心に爆発的なヒットを飛ばしたことから、ルパンを映画化する企画が持ち上がり、制作費5億円の巨費を投じて『複製人間』は制作された。
当時、東京ムービー新社(現・TMS)の社長であり辣腕プロデューサーでもあった藤岡豊氏は、暴力やセクシャルな表現を抑えたファミリー路線の『Part2』に対して物足りなさを感じていたようで、劇場版は対象年齢を引き上げ、『Part1』のようなハードボイルドかつアダルティーな作風のルパンとして映画を作ることを企画する。
そうなれば自然と『Part1』メインスタッフの再結集……となりそうなものだが、『Part1』で演出を手掛けた大隅正秋(現・おおすみ正明)氏は『Part1』降板の経緯から復帰は望めず、大隅氏の後任として途中参加した宮崎駿氏と高畑勲氏は『未来少年コナン』(放送期間:1978年4月~同年10月。制作作業はオンエアの1年半から始まっていた)の制作に忙殺され、参加が難しい状況だった。
『Part1』でキャラクターデザイン・設定・作画監督を担当した大塚康生氏は、旧スタッフの中で唯一の参加となったが、『未来少年コナン』の影響で参加が遅れ、クレジットには監修・メカデザインとあるものの、スタジオ入りしたときには作画の80%が完成していたことから、実際の作業は作画チェックの補佐をするに留まった。
虫プロ出身の吉川惣司氏が制作現場の中心となり
SF色の強い作品として 『複製人間』は制作される
こうした制作状況にあって『複製人間』で、監督・演出・絵コンテ・キャラクターデザイン(マモーのデザインを担当)・脚本と、八面六臂の活躍を見せたのが吉川惣司氏である(大和屋竺氏との連名だが実際にはひとりで脚本を書き上げた。大和屋氏はチェックのみ)。
読者の中に吉川氏の名前に見覚えがあるという人がいたとすれば、その人はロボットアニメのファンだろう。彼は『無敵超人ザンボット3』や『無敵鋼人ダイターン3』、『太陽の牙ダグラム』『戦闘メカ ザブングル』『装甲騎兵ボトムズ』など、数多くのサンライズ作品で脚本や絵コンテ・ストーリーボード、キャラクターデザインを手掛けたアニメーター&脚本家であり、SFに造詣が深いことでも有名な人物だ。
アニメ業界にはいくつかの制作プロダクションやアニメーターの流れがあり、大きく分けると東映動画(現・東映アニメーション)系と虫プロ系が2大ルーツになっている(さらにタツノコプロを加えて3大ルーツとする見方もある)。吉川氏は虫プロ第1期生アニメーターとして『鉄腕アトム』でキャリアをスタートさせていることから、まさしく虫プロ系の本流にいたアニメーターである。そんな彼がこれまでメインスタッフを東映動画系の人間で占められていたルパンシリーズにおいて、製作現場の中心となったことは特筆に値する。
もともとSF志向だったことに加え、虫プロの特徴である華美でケレン味のある演出術を身につけていた吉川氏が作品の主導権を握ったこと、そして当時は『スターウォーズ』や『宇宙戦艦ヤマト』などに端を発する空前のSFブームの最中だったこともあり、『複製人間』はルパンシリーズとしては異色とも言える、SF色が強く先鋭的な作品に仕立てられている。
また、本作は「夢」をキーワードにして「ルパン三世の泥棒としてのアイデンティティ」の喪失と回復を物語としたことが、ルパン三世という存在そのものへの問いかけとなっており、これによって作品世界に奥行きを与え、大人の鑑賞に充分耐えうる映画として成立させている。
「神」を自称するマモー と「神」の意識を持つルパンの対決
物語を読み解くキーワードは「夢」
この映画の中でルパンは明晰な頭脳と並外れた行動力を持つ超リアリストとして描かれており、「狙った獲物は逃さない神出鬼没の大泥棒」であることから「盗み」という手段によって、欲しいと思ったものはすべて現実世界で手に入れてきた。故に彼はマモーの語る「永遠」には一切関心を示さず、また「夢」を見ることがないのだ。
一方、ルパンと対峙するマモーは、クローン技術によって1万年という時間を生きながらえ、人類の歴史にたびたび干渉してきたが、クローンの劣化によりその命脈はいよいよ尽きようとしていた。だが、それでも彼は生に固執して「永遠の命」という「夢」を追い求める。
当初、マモーはルパンを「取るに足らない存在」と見下していたのだが、不二子を巡って争奪戦を繰り広げているうちに、ルパンの深層心理を覗いてしまい、ルパンが夢を見ず、その意識が「神」に近いことを発見してしまう。「神」を自称するものの「永遠の命」という、あやふやで儚い「夢」に縋るしかなかったマモーには、現世で充実し切った人生を送るが故に「夢」を見る必要のないルパンがどうしても許せず、嫉妬心から彼を殺そうとする。
しかし、あわやというタイミングで米軍の攻撃が始まり、それに乗じて窮地を脱したルパンであったが、潜伏先の南米コロンビアのホテルに再び現れたマモーに不二子を連れ去られてしまう。その際にマモーは自身の正体を明かした上で、「(物語冒頭で警察に逮捕され)処刑されたのはオリジナルの(ルパンの)方だったかもしれないよ(=お前は本物のルパンのコピーかもしれない)」という「呪い」をルパンにかけた。これにより自身のアイデンティティを奪われたルパンは、失った自尊心を取り戻すべく、マモーとの最終決戦にひとり赴く。以下はその際にルパンを止めようとする次元とのやりとりだ。
ルパン「オレは夢、盗まれたからな。取り返しに行かにゃ」
次元「夢ってのは女のことか?」
ルパン「実際、クラシックだよ。お前ってヤツは」
普通の人間である次元は、ルパンが不二子を助けるために死地に赴くものと誤解しているが、彼が戦う理由はそこにはない。ルパンにとって「自分がルパン三世である」という自己同一性が自信や活力、人生の充実の根源となっており、彼の「夢」を具現化したものだった。それをマモーの言葉で自身に疑念を生じたからには、実力で「自分がオリジナルのルパン三世である」ことを証明しなければならない。すなわち、彼がマモーと戦う真の目的は自身の奪われたアイデンティティを泥棒の流儀に則って盗み返すことにある。
この作品のクライマックスは、自身のアイデンティティを巡って「神」を自称する男と「神」の意識を持つふたりの男の死闘だ。それ故に他のシリーズ作品とは異なり、ルパンファミリーである次元や五ヱ門は戦いに加わらない……といよりも、超越者同士の戦い故に常人が加わる余地がないのだ。
Part1』と『Part2』の長所を取り入れ
大人向けの洒脱で遊び心に溢れた作品となる
『複製人間』はこうした骨太な物語に、ルパンシリーズの魅力であるアクションやカーチェイス、奇想天外な盗みの方法、銭形との追いかけっこといった要素を作品内にふんだんに散りばめ、さらには『Part1』のハードボイルド&エロティシズム、『Part2』の世界を股にかけたスケールの大きな舞台&スラップスティックコメディなど、それぞれの長所を巧みに融合させつつ、さらにクローン技術という斬新な設定を加えたことにより、作品としてバランスが良く、異色でありながらも王道のエンタメ作品として成立させている。
他にも『複製人間』には語るべきところが多い。作画監督・キャラクターデザイン(主にレギュラーキャラ)の椛島義夫氏(代表作は『ガンバの冒険』や『さすらいの少女ネル』など)は、独特のタッチでスタイリッシュにルパンらをデザインし、本作収録時は全員40代と役者として脂が乗り切っていた旧レギュラー声優陣の好演や、マモー 役に実力派俳優の西村晃氏の起用、演歌歌手や漫画家、漫画原作者をゲストキャラに抜擢した意外性、大野雄二氏によるサウンド、そしてエンディングテーマは三波春夫氏による『ルパン音頭』という絶妙なミスマッチ感覚などなど、何もかもが洒脱で遊び心に溢れており、とにもかくにも見どころの多い作品だ。
大胆なディフォルメを効かせた『複製人間』に登場する魅力的なクルマやバイク
さて、ルパンシリーズの特色のひとつが「実証主義」(登場するメカやアイテムは実在するものの中からセレクトすることで作品にリアリティを与える演出手法)に基づくリアリティ溢れるメカ描写にある。
『複製人間』もその例に漏れず、個性豊かなさまざまなクルマやバイクが登場するが、それらはアニメらしい「ディフォルメと省略」を活かしたデザインとなっており、劇中で活躍を見せる車両は、スタイリング上もっとも特徴となる部分を極端に強調した独特なフォルムで描かれている。
例えば、ルパンの愛車として『Part1』から久々に登場したメルセデス・ベンツSSK (公開当時オンエアされていた『Part2』ではルパンはアルファロメオ・グランスポルト・クアトロルオーテを愛用)は、写実的なタッチで描かれていた『Part1』に対して、極端にノーズを長く描きつつワイド&ロー感を強調したユニークなメカデザインとなっている。その形状はオリジナルのSSKよりも、アメ車ベースに作られたそのレプリカであるエクスキャリバーにむしろ近い。
SSKを失ったルパンが不二子から奪ったオースチンMINIクーパーは、『Part1』や『Part2』が丸みを帯びたコロッとしたかわいいメカデザインなのに対し、『複製人間』ではノーズ部分は丸く描いているが全体のフォルムは直線基調で、車輪はかなり小さく、思いっきりホイールベースの長さを主張したメカデザインで描かれている。
この作品に登場するクルマやバイクは、このようにかなりクセのあるタッチで描かれているのだが、不思議と椛島氏の描くキャラクターや作品世界とマッチし、映画を彩る小道具としての役割を十二分に果たしている。
天才肌のアニメーター・青木雄三氏のメカ作画にも注目!
迫力のカーチェイスは映画『激突!』へのオマージュ
前述の通り、『複製人間』のメカデザインはクレジットにある大塚康生氏はほぼ携わっておらず(わずかに冒頭のエジプト警察が使用する軍用トラックのデザインに関与の可能性があるが)、大塚氏が描くメカのタッチとはまるで違う。それでは実際にメカデザインを担当したのは誰かと言えば、それはふたりの作画監督のうちのひとり青木雄三氏とされている。
青木氏は若干19歳で『Part1』に原画として参加し、複雑な形状で描くのが難しかったSSKを自在に動かすことができたのは、作画監督の大塚康生氏を除くと青木氏だけだったという天才肌のアニメーターだ。彼はクルマの作画を得意としており、パリ市内でルパンはヘリの襲撃を受けるシーンからカーチェイスの最後まで、ほとんどのカットを青木氏が担当している(一部を友永和秀氏が担当)。
スピルバーグの初監督作品である『激突!』をオマージュしたMINIクーパーとケンワースW900A(ビッグリグ)とのカーチェイスはまさに圧巻の一言。メカは精緻に描かれているもの追われるルパンの緊迫感を表現するためなのか、ビッグリグのスケールを10倍以上の大きさに描いている。この点については「いくらなんでもやりすぎだ」と大塚康生氏は苦言を呈したそうだが、こうした大胆な演出も実写にはないアニメならではの魅力である。『複製人間』の作風とも相まってこの大胆な演出は見事に成功している。
ほかにも劇中には不二子のハーレー・ダビッドソンFLH、銭形が冒頭で使用したフォルクスワーゲン・ビートル、エジプト警察のウィリスMBジープ 、警視総監の乗るマーキュリー・モントレーなどなど、70年代後半に実在した魅力的なマシンが数多く登場する。ぜひ金曜ロードショーで『複製人間』を視聴される際には、登場するクルマやバイクにも注目してほしい。