ランチア・デルタとルノー5の究極進化系! HFインテグラーレエボII &サンクターボII……戦うコンパクトハッチバックを楽しむアクティブカーライフ

コンパクトなボディにハイスペックなエンジンを押し込みコンペティションマシンに仕立てるのは、市販車で競うレースの常道。それが最も顕著なのがラリーの世界だ。「ランチア」が1987年からWRCのグループAに投入した「デルタ」は1992年のワークス撤退に至るまで弛まぬ進化を続け王者に君臨。その最終進化系が「デルタHFインテグラーレ・エヴォリューションII」である。また、ルノーが量販モデルである「5(サンク)」をFFからミッドシップに大改造を施したラリーマシンが「5ターボ」を開発、市販にこぎつけたのが1980年。さらに1983年により生産性を高めて市販したのが「5ターボII」だった。これらのコンペティションコンパクトハッチを日常的に公道で楽しむオーナーを取材した。
REPORT:橘 祐一(TACHIBANA Yuichi)PHOTO:橘 祐一(TACHIBANA Yuichi)/MotorFan.jp

千葉のワインディングがWRCのスペシャルステージに早変わり

ワインディングをゆくデルタHFインテグラーレ・エボリューションIIジアラ。サンレモか、はたまたツール・ド・コルスか、ラリー・カタルーニャか……いえ、千葉の大山千枚田です。

ランチア・デルタを中心としたグループの房総半島ツーリングに同行した。主催の氷室さんはきちんとコース図とタイムスケジュールを制作しており、予定通り10時に木更津をスタート。今回のツーリングルートは木更津から富津、鋸南町を経て鴨川、君津、袖ヶ浦を回って木更津に戻るというもの。海沿いではなく内陸側を回るルートを選んでいるのは、ワインディングを楽しみたいからだろう。

今回の参加者は主催の氷室豊さん(ランチア・デルタHFインテグラーレ16V)、abrse037さん(ランチア・ラリー)、さいとうさん(ランチア・デルタHFインテグラーレエボルツィオーネⅡジアラ)、ヤザさん(ランチア・デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネⅡジアラ)、bozianさん(ルノー5ターボ2)の5名。

今回参加している車両はランチア・デルタHFインテグラーレ16V、デルタHFエボルツィオーネⅡジアラが2台、ラリー037、ルノー5ターボⅡの5台。
一番新しいデルタでさえ、30年も経過したネオクラシックモデルだ。ましてやランチア・ラリーやルノー5ターボⅡに至っては40年以上前のクルマの上に、そもそも公道を走るとはいえ、その素性はコンペティションマシン。こんなクルマばかりを連ねて年に数回はツーリングに出かけているというのだから、メンバーはかなりの変人かも。(褒めてますよ。笑)

デルタHFインテグラーレエボリューションII。「ジアラ」のイエローが新緑に映える。

コンビニや道の駅で休憩するたびに注目を浴び、撮影会が始まってしまう始末。筆者も取材そっちのけで、個人用のスマホで撮影しまくってしまった。

駐車場で駐まるたびに撮影会が(笑)。滅多に見ることができないグループBホモロゲモデルのエンジンをみんなで激写。筆者ももちろん参加しました。

山側のルートは休日でも交通量は少なく、それぞれがワインディングを楽しんでいた。途中、予定していたルートが通行止めになっており、狭い林道を迂回する形となってしまったが、林道を走る姿はさながらSSを駆け抜ける本物のラリーシーンのようで、列の最後尾からその姿を堪能してしまった。

グループA、グループB、(グループ4)……世代の異なるラリーカーが並んで走る、コンペティンションシーンでは逆に見られなかった光景だ。

1994年式  ランチア・デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネⅡ ジアラ

大きく張り出したブリスターフェンダーに、聳り立つリヤスポイラーがホモロゲーションモデルの末裔であることを示す。

高校生の頃に見たWRCの映像でランチア・デルタの魅力に惹きつけられたというさいとうさん。
そもそもデルタは1979年に販売が開始されたFFの2ボックスハッチバックで、当初は小型のファミリーカーとしてリリースされたが、1986年、翌年からレギュレーションが改訂されるWRCのグループAに参戦するための車両として、165psを発生する2.0ℓDOHCターボエンジンを搭載し、フルタイム4WDを採用した「デルタHF4WD」を発表した。
1987年のシーズンをこのデルタHF4WDで戦い、翌1988年にはエンジン出力を185psにアップしてブリスターフェンダーを採用したエボリューションモデルを投入。デルタのホモロゲーションモデルは「HFインテグラーレ」と呼ばれるようになった。

「HFターボ」は140psを発揮する1.6L直列4気筒DOHCターボを搭載。この時点ではまだFFしかなかく、WRCとは無縁の、デルタの単なるトップグレードにすぎなかった。
WRCのグループA化に対応するためにエンジンは2.0Lターボを搭載し、4WD化した「HF4WD」。ホモロゲーションを取得し、1987年のWRCに投入された。
エンジン出力を向上させ、ブリスターフェンダーによりトレッドを拡大するなど戦闘力を向上させた「HFインテグラーレ」。WRCではライバルを寄せ付けず年間10勝を挙げた。

さらに、1989年にはエンジンをこれまでの8バルブから16バルブに変更し、出力を200psまで向上させた「HFインテグラーレ16V」を投入し、グループAで戦われるようになったWRCで1987年から3年連続ダブルタイトル(マニュファクチャラー/ドライバー)を達成している。
前回の記事で紹介した氷室豊さんのクルマがそのHFインテグラーレ16Vだ。

1991年までこのHFインテグラーレ16Vで戦ったランチアは、ついにこの年ワークス活動を停止。しかし、1992年は有力プライベーターの「ジョリークラブ」に運営を移管した「マルティニ・レーシング」として参戦。ワークスが置き土産として最後に用意したデルタが「HFインテグラーレ(通称“デルトーナ”)」であり、ホモロゲ市販車のHFインテグラーレ エボルツィオーネだ。

デルタは1987年から1992年までWRCのマニュファクチャラーズタイトルを6連覇。その間、ドライバーズタイトルも1990年(ST165型セリカGT-FOUR/カルロス・サインツ)と1992年(ST185型セリカGT-FOUR/カルロス・サインツ)を除いて4度獲得している。

さいとうさんは高校時代からの憧れを実現するべく、デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネを購入。通称「エボⅠ」と呼ばれるこのクルマは、出力210psのエンジンとワイドなブリスターフェンダーが採用されたデルタの最後のホモロゲーションモデル。この「エボⅠ」でデルタライフを満喫していたが、今から15年前、インテグラーレの完成形とも言われる「エボルツィオーネⅡ」と出合って乗り換えている。

前後のブリスターフェンダーがさらに拡大され、3ナンバー化されたエボルツィオーネ。デルタHFインテグラーレエボルツィオーネⅡに設定された「ジアラ」は世界220台という超希少な限定車だ。黄色いカラージアラの専用色。
オリジナルを保ったインテリア。現代的な装備の追加も最小限だ。
15年前に手に入れた時も非常に程度が良く、今も綺麗なノーマル状態を保っている。さらに、ドアの内張には新車時のビニールまで残っている。
ステンレス製のインテークパイプとシリコンのプラグコードに交換している以外はノーマル状態を保っている。綺麗なエンジンルームだ。写真右上、タワーバーの少し上側に注目してほしい。
ブレーキフルードのリザーバータンクにはペットボトルがカットして被せてある。これはボンネットのダクトから入った雨水がリザーバータンクにかからないようにするため。

迫力のあるデザインと独特のドライブフィールがお気に入りというさいとうさん。維持する秘訣はまめにメンテを行なうこと。油脂類は早めに交換しているとのことだ。

ワイドなボディ、跳ね上がったリヤスポイラーなど、ラリーマシンそのもののエクステリアが魅力。さいとうさんもこのデザインに惚れ込んでいる。
エボIから乗り換えたさいとうさんは、デルタ歴は30年近いベテラン。ウイークポイントも含めてデルタを愛している。
ランチア・デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネⅡ ジアラ(1994年式)
Specifications
全長×全幅×全高:3900mm×1770mm×1365mm
ホイールベース:2480mm
車両重量:1300kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボ
総排気量:1995cc
最高出力:215ps/5750rpm
最大トルク:32.0kg/2500rpm

1994年式  ランチア・デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネⅡ ジアラ

マルティニカラーにラッピングされているヤザさんのエボII。ブラックアウトされたグリルやアンダーガードなど、プライベーターのラリー参戦車両のような雰囲気だ。

小さい頃からラリーが大好きで、歴代のランチアの走りに魅了されていたヤザさん。グループA時代のインテグラーレは市販車に近い車両のため、購入できる車として意識していた。
せっかく購入するのであれば最終型であるエボルツィオーネⅡ、できれば特別な限定車が欲しいと考え、23年前、探しに探して見つけたのが、このジアラだ。

ワインディング駆け抜けるエボIIジアラ。エボIIは1993年にリリースされたモデルで、エボIの210psから215psにパワーアップ。ホイールサイズも15インチから16インチが標準にアップされている。1994年と1995年に、ジアラを嚆矢に限定モデルが幾つか発売され、この型のデルタのフィナーレを飾った。

ランチア・デルタは1993年、フィアット・ティーポやアルファロメオ155とシャシーを共用する二代目にモデルチェンジされていたが、ランチアワークスはすでにWRCから撤退していたために二代目に4WDのスポーツモデルは設定されなかった。しかし、インテグラーレは販売が継続され、エボルツィオーネⅡに進化している。これはワークス撤退後もプライベーターとして活動していたマルティニ・レーシングと、活動を移管されたジョリークラブの活躍が大きく影響している。

1993年にフルモデルチェンジされたデルタ(二代目)。2.0Lターボエンジン搭載モデルこそ設定されたが4WDモデルはなし。1999年まで販売され、デルタの名跡は一旦途絶えることになる。日本へはガレーヂ伊太利屋により輸入されたという。

ヤザさんの愛車も限定車のジアラにマルティニ・レーシングのラッピングが施されている。ランチアやデルタのファンにとってマルティニカラーは特別なものだろう。ちなみにジアラは1994年に世界限定220台で販売されたモデル。このモデル専用の黄色いボディカラーが特徴だ。

ブラックアウトしたフロントグリルが精悍さを増し、ホワイトのスピードライン製17インチホイールが足元を引き締める。
ランチアファンにとってマルティニカラーは特別な存在。WRCでも1987年から1992年までマニュファクチャラーズタイトルを6連覇のしたデルタには最も似合うカラーリングだろう。
WRCでは1982年のグループBでのランチアWRC復帰からマルティニカラーを纏ったが、1981年から1986年の耐久選手権(グループ5/6/C)でもマルティニカラーのランチアがポルシェと覇を競った。
スパルコ製のフルバケットシートとディープコーンタイプのMOMO製ステアリングに交換されている。シンプルで無骨なコックピット。
ドアのインナーパネルはフラットなカーボン製に交換している。軽量化とラリーカーイメージを盛り上げるカスタマイズだろう。
エンジンルームは美しい焼け色の蛸足がわずかに顔を覗かせる。直線的なインタークーラーパイプの効率も高そうだ。エアクリーナーボックスはWRC車両ではお馴染みのオートスポーツイワセ製で、カーボン柄がレーシーな雰囲気を演出している。

ヤザさんにとってWRCに出場しているということが最大のポイント。とにかくこのスタイルには飽きることはなく、運転が楽しくて仕方がない。マイナートラブルも多くなってきているが、それも許せてしまうほどだ。とにかく早めのメンテでトラブルを起きないように予防している。少しでも違和感があれば主治医のショップに相談しているのだとか。

エボIIとインテグラーレ16Vのブリスターフェンダーの違い。サイズに加え、エボIIのフロント側にはホイールハウスからのエア抜き穴も。
オーナーのヤザさん。探しまくってようやく見つけた限定車のジアラは手に入れてから23年が経過しているが、乗るたびに楽しく、手放すことはないだろうとのこと。
ランチア・デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネⅡ ジアラ(1994年式)
Specifications
全長×全幅×全高:3900mm×1770mm×1365mm
ホイールベース:2480mm
車両重量:1300kg
エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボ
総排気量:1995cc
最高出力:215ps/5750rpm
最大トルク:32.0kg/2500rpm

ルノー5[サンク]ターボⅡ

OHVターボサウンドを響かせてワインディングを疾走する5ターボII。走るためだけに生まれてきたクルマだけに、走る姿は美しい。

元々はFFの小さなコンパクトカーだったルノー5(サンク)をベースに、WRCグループ4のホモロゲーション獲得を目的として、5アルピーヌ用の1400ccターボユニットをドライブトレーンごと前後逆にして後席部分に搭載してミッドシップ化したのが、1980年に発売された5ターボだ。さらに、WRCのレギュレーションが1982年から改められたことを受けて、1983年には新規定のグループBに対応した5ターボIIが発売された。

ルノー5は4(キャトル)から進化したコンパクトカーとして1972年に登場。1984年にフルモデルチェンジするが、1985年は一部グレードがそのまま併売された。

bozianさんが免許を取得したのはバブル景気の真っ只中。父親からの「トヨタ・ソアラなら買ってあげる」という甘い誘惑を振り切って、せっせと貯金してひと目惚れした5ターボIIを新車で購入した。それから38年間ずっと乗り続けているのだ。
当時はまだ輸入車のディーラーはほとんどなく、特にドイツ車以外は取り扱うショップも少なかったうえ、生産台数が少ないクルマは日本への割り当ても少なく、なかなか手に入らなかったそうだ。5ターボIIも国内では新車で手に入れるのが難しいと知ったbozianさんは、フランスまで出向いて現地で新車を購入して個人輸入したのだというからすごい情熱だ。

ベースモデルのルックスを残しつつも、大きく張り出したリヤフェンダーがただものではない異形感を醸し出す。全幅はともかく、意外にコンパクト。
トレッド幅はフロントが1345mmなのに対し、リヤは1475mmと幅広い。後ろ姿はまるで無理矢理幅を広げた改造車のよう。
斜め上から見るとリヤフェンダーの張り出しっぷりが良くわかる。左右に大型のインテークを備え、エンジンへの吸気と冷却を担っている。フェンダー上にはNACAダクトも。

購入後はドライブやデート、買い物に行くにも、エアコンのない2シーターのクルマでどこにでも出かけていた。さすがに現在ではセカンドカーになってはいるが、ちょくちょく走らせているのだとか。ピーキーなOHVターボのパワーフィールやミッドシップの独特なステアリング特性が気に入っていて、快適さとは無縁のこのクルマを走らせている時が至福の喜びだ。

5のスポーツグレード「アルピーヌターボ」用のユニットをトランスミッションごと前後ひっくり返してミッドに搭載。38年間コツコツと手を入れてあり、エンジンは好調だ。
フロントにはスペアタイヤが搭載されているほか、ウォッシャータンクとブレーキのマスターシリンダーが装備されている。ラジエーターは大型のアルミ製に交換済み。

40年近くが経過し、走行距離も9万kmになる5ターボII。年式の割にはかなり綺麗ではあるものの、所々ボディのヤレや傷も目立ってきている。ただ、傷や痛みも歴史のひとつと考えてそのままにしている。ただ、機関に関しては、小さな変化も見逃さないように、異常を見つけたら早めに処置するようにしている。貴重なクルマではあるが、置物にせずに乗り続けているからこそ、好調を維持できているのだと思う。

コックピット周りはアルピーヌターボとほぼ同じ。センターコンソールには油圧計とブースト計が備わっている。実用車らしいシンプルさと、ホモロゲモデルらしいスポーティさを兼ね備える。
オーナーのbozianさん。新車で購入後38年間、一度も車検を切らすことなく乗り続けている。ただ、家族は誰も乗ってくれないのが少し寂しいのだとか。
ルノー5ターボⅡ
Specifications
全長×全幅×全高:3665mm×1750mm×1325mm
ホイールベース:2430mm
車両重量:920kg
エンジン形式:水冷直列4気筒OHV8バルブターボ
総排気量:1394cc
最高出力:160ps/6000rpm
最大トルク:21.4kg/3250rpm

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著者プロフィール

橘祐一 近影

橘祐一

神奈川県川崎市出身。雑誌編集者からフリーランスカメラマンを経て、現在はライター業がメイン。360ccの軽…