目次
千葉のワインディングがWRCのスペシャルステージに早変わり
ランチア・デルタを中心としたグループの房総半島ツーリングに同行した。主催の氷室さんはきちんとコース図とタイムスケジュールを制作しており、予定通り10時に木更津をスタート。今回のツーリングルートは木更津から富津、鋸南町を経て鴨川、君津、袖ヶ浦を回って木更津に戻るというもの。海沿いではなく内陸側を回るルートを選んでいるのは、ワインディングを楽しみたいからだろう。
今回参加している車両はランチア・デルタHFインテグラーレ16V、デルタHFエボルツィオーネⅡジアラが2台、ラリー037、ルノー5ターボⅡの5台。
一番新しいデルタでさえ、30年も経過したネオクラシックモデルだ。ましてやランチア・ラリーやルノー5ターボⅡに至っては40年以上前のクルマの上に、そもそも公道を走るとはいえ、その素性はコンペティションマシン。こんなクルマばかりを連ねて年に数回はツーリングに出かけているというのだから、メンバーはかなりの変人かも。(褒めてますよ。笑)
コンビニや道の駅で休憩するたびに注目を浴び、撮影会が始まってしまう始末。筆者も取材そっちのけで、個人用のスマホで撮影しまくってしまった。
山側のルートは休日でも交通量は少なく、それぞれがワインディングを楽しんでいた。途中、予定していたルートが通行止めになっており、狭い林道を迂回する形となってしまったが、林道を走る姿はさながらSSを駆け抜ける本物のラリーシーンのようで、列の最後尾からその姿を堪能してしまった。
1994年式 ランチア・デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネⅡ ジアラ
高校生の頃に見たWRCの映像でランチア・デルタの魅力に惹きつけられたというさいとうさん。
そもそもデルタは1979年に販売が開始されたFFの2ボックスハッチバックで、当初は小型のファミリーカーとしてリリースされたが、1986年、翌年からレギュレーションが改訂されるWRCのグループAに参戦するための車両として、165psを発生する2.0ℓDOHCターボエンジンを搭載し、フルタイム4WDを採用した「デルタHF4WD」を発表した。
1987年のシーズンをこのデルタHF4WDで戦い、翌1988年にはエンジン出力を185psにアップしてブリスターフェンダーを採用したエボリューションモデルを投入。デルタのホモロゲーションモデルは「HFインテグラーレ」と呼ばれるようになった。
さらに、1989年にはエンジンをこれまでの8バルブから16バルブに変更し、出力を200psまで向上させた「HFインテグラーレ16V」を投入し、グループAで戦われるようになったWRCで1987年から3年連続ダブルタイトル(マニュファクチャラー/ドライバー)を達成している。
前回の記事で紹介した氷室豊さんのクルマがそのHFインテグラーレ16Vだ。
1991年までこのHFインテグラーレ16Vで戦ったランチアは、ついにこの年ワークス活動を停止。しかし、1992年は有力プライベーターの「ジョリークラブ」に運営を移管した「マルティニ・レーシング」として参戦。ワークスが置き土産として最後に用意したデルタが「HFインテグラーレ(通称“デルトーナ”)」であり、ホモロゲ市販車のHFインテグラーレ エボルツィオーネだ。
さいとうさんは高校時代からの憧れを実現するべく、デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネを購入。通称「エボⅠ」と呼ばれるこのクルマは、出力210psのエンジンとワイドなブリスターフェンダーが採用されたデルタの最後のホモロゲーションモデル。この「エボⅠ」でデルタライフを満喫していたが、今から15年前、インテグラーレの完成形とも言われる「エボルツィオーネⅡ」と出合って乗り換えている。
迫力のあるデザインと独特のドライブフィールがお気に入りというさいとうさん。維持する秘訣はまめにメンテを行なうこと。油脂類は早めに交換しているとのことだ。
ランチア・デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネⅡ ジアラ(1994年式) Specifications 全長×全幅×全高:3900mm×1770mm×1365mm ホイールベース:2480mm 車両重量:1300kg エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボ 総排気量:1995cc 最高出力:215ps/5750rpm 最大トルク:32.0kg/2500rpm
1994年式 ランチア・デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネⅡ ジアラ
小さい頃からラリーが大好きで、歴代のランチアの走りに魅了されていたヤザさん。グループA時代のインテグラーレは市販車に近い車両のため、購入できる車として意識していた。
せっかく購入するのであれば最終型であるエボルツィオーネⅡ、できれば特別な限定車が欲しいと考え、23年前、探しに探して見つけたのが、このジアラだ。
ランチア・デルタは1993年、フィアット・ティーポやアルファロメオ155とシャシーを共用する二代目にモデルチェンジされていたが、ランチアワークスはすでにWRCから撤退していたために二代目に4WDのスポーツモデルは設定されなかった。しかし、インテグラーレは販売が継続され、エボルツィオーネⅡに進化している。これはワークス撤退後もプライベーターとして活動していたマルティニ・レーシングと、活動を移管されたジョリークラブの活躍が大きく影響している。
ヤザさんの愛車も限定車のジアラにマルティニ・レーシングのラッピングが施されている。ランチアやデルタのファンにとってマルティニカラーは特別なものだろう。ちなみにジアラは1994年に世界限定220台で販売されたモデル。このモデル専用の黄色いボディカラーが特徴だ。
ヤザさんにとってWRCに出場しているということが最大のポイント。とにかくこのスタイルには飽きることはなく、運転が楽しくて仕方がない。マイナートラブルも多くなってきているが、それも許せてしまうほどだ。とにかく早めのメンテでトラブルを起きないように予防している。少しでも違和感があれば主治医のショップに相談しているのだとか。
ランチア・デルタHFインテグラーレ エボルツィオーネⅡ ジアラ(1994年式) Specifications 全長×全幅×全高:3900mm×1770mm×1365mm ホイールベース:2480mm 車両重量:1300kg エンジン形式:水冷直列4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボ 総排気量:1995cc 最高出力:215ps/5750rpm 最大トルク:32.0kg/2500rpm
ルノー5[サンク]ターボⅡ
元々はFFの小さなコンパクトカーだったルノー5(サンク)をベースに、WRCグループ4のホモロゲーション獲得を目的として、5アルピーヌ用の1400ccターボユニットをドライブトレーンごと前後逆にして後席部分に搭載してミッドシップ化したのが、1980年に発売された5ターボだ。さらに、WRCのレギュレーションが1982年から改められたことを受けて、1983年には新規定のグループBに対応した5ターボIIが発売された。
bozianさんが免許を取得したのはバブル景気の真っ只中。父親からの「トヨタ・ソアラなら買ってあげる」という甘い誘惑を振り切って、せっせと貯金してひと目惚れした5ターボIIを新車で購入した。それから38年間ずっと乗り続けているのだ。
当時はまだ輸入車のディーラーはほとんどなく、特にドイツ車以外は取り扱うショップも少なかったうえ、生産台数が少ないクルマは日本への割り当ても少なく、なかなか手に入らなかったそうだ。5ターボIIも国内では新車で手に入れるのが難しいと知ったbozianさんは、フランスまで出向いて現地で新車を購入して個人輸入したのだというからすごい情熱だ。
購入後はドライブやデート、買い物に行くにも、エアコンのない2シーターのクルマでどこにでも出かけていた。さすがに現在ではセカンドカーになってはいるが、ちょくちょく走らせているのだとか。ピーキーなOHVターボのパワーフィールやミッドシップの独特なステアリング特性が気に入っていて、快適さとは無縁のこのクルマを走らせている時が至福の喜びだ。
40年近くが経過し、走行距離も9万kmになる5ターボII。年式の割にはかなり綺麗ではあるものの、所々ボディのヤレや傷も目立ってきている。ただ、傷や痛みも歴史のひとつと考えてそのままにしている。ただ、機関に関しては、小さな変化も見逃さないように、異常を見つけたら早めに処置するようにしている。貴重なクルマではあるが、置物にせずに乗り続けているからこそ、好調を維持できているのだと思う。
ルノー5ターボⅡ Specifications 全長×全幅×全高:3665mm×1750mm×1325mm ホイールベース:2430mm 車両重量:920kg エンジン形式:水冷直列4気筒OHV8バルブターボ 総排気量:1394cc 最高出力:160ps/6000rpm 最大トルク:21.4kg/3250rpm