とある旧車ショップの社長から聞いたところ、すでにハコスカの価格高騰は過去の話になったとか。ジリジリと販売・買取価格が下がり始めているのは確かで、上がり過ぎた相場の反動なのだろう。そう思えば答えは違って海外、特にアメリカのバイヤーがすっかり減ったというのだ。まだまだ一般のサラリーマンが買える相場にまで落ちていないが、頑張れば何とかなるところまで戻ってほしいと願うマニアは多いことだろう。何しろオールペン+ローダウン+吸排気チューンしただけのGTが1000万円オーバーでは、嘆かわしいとしか表現できない。
ハコスカを中心として海外でも大人気となった歴代スカイラインの中古車。基本的に国内専売車だったスカイラインだから、海外のマニアには目新しく感じられたのだろう。しかも国内ツーリングカーレースで無敵を誇ったPGC10+KPGC10GT-RやR32GT-Rは当時の国産車最速だったイメージが強いため、ヒストリーにこだわるマニアにも大ウケした。国内だけでなく海外からも注目されたのだから、ハコスカ人気は不動のものと思えた。だが、上がり過ぎた相場に対して「いずれ暴落する」と感じた人がいたことも事実。中古車は生き物のようなもので、相場の乱高下は予想を超えることもある。いずれにしても投資対象ではなく好きなマニアの手に渡るような相場へ戻ってほしいものだ。
3代目スカイライン、通称「ハコスカ」がここまで人気になった理由は前述のようにGT-Rの存在が大きい。S20型直列6気筒DOHCエンジンを搭載するGT-Rはツーリングカーレースで圧倒的な速さを示し、ロータリー勢が台頭するまでの間は無敵の存在だった。連勝街道を突き進む姿を知る人も、後になって記録を知った世代も、ハコスカ=GT-Rという思い込みが強い。ところがGT-Rは生産台数が少ないことから相場は高く流通台数も少ない。だとするならL20型エンジンを搭載するGTやGT-XをベースにGT-Rのようなルックスにするのが手っ取り早い。
今から30数年前、知り合いのショップ社長がある時、積載車に解体業車から引き取ってきたハコスカを積んで現れた。当時はハコスカやケンメリが底値の時代だから不思議に思ったものだが、社長いわく「ちょっと仕上げてあげれば100万円くらいで売れるんだ」と得意気な顔。純正パーツがまだまだ入手可能な時代だったため、補修部品でGT-R用の純正外装品を手に入れることが容易。このように人気のGT-R仕様は長らく続いてきた歴史を持つ。
真夏の青空が広がり猛暑日を感じさせた、とある日曜日。圏央道の狭山パーキングでオールドカー倶楽部東京の定例ミーティングが行われた。会場の一角に古いクルマばかりが並ぶのは特異な光景だが、駐車しているだけなので平和なもの。この中の1台であるハコスカオーナーにお話を聞いてみることにした。オーナーは55歳の石井幸治さんで筆者とは同世代。なぜハコスカなのか問えば「見た目の格好良さと、やっぱりハコスカという響きです」とのこと。55歳だとハコスカがまだまだ街中を走っていたことを記憶しているはずで、子供の頃からの憧れだったそうだ。
石井さんがこのハコスカを手に入れたのは今から10年ほど前のこと。その頃は今ほど相場が暴騰していなかったため一般的(とは言え旧車としては高価)な価格で中古車が買えた。手に入れてからは理想のGT-R仕様を目指してパーツの入手とモディファイを繰り返してきた。2000GTに搭載されている2リッター直列6気筒SOHCのL20エンジンは豊富なチューニングメニューが揃っている。しかも現在、社外製ながら新品部品が数多く販売されているので、「色々やってます」とのこと。なかでも吸排気系はお約束メニューでソレックス44キャブレターとステンレス製等長エキゾーストマニホールドで仕上げてある。テールから見えるデュアルマフラーは懐かしのスプリントマフラーとのことで、新しい部品だけでなく当時モノの部品を使うことにもこだわっている。
石井さんが意識したのは普通のGT-Rではなくレーシング仕様のGT-R。そこで走りを支える足回りにもこだわりが発揮されている。前後に車高調サスペンションシステムを組んでローダウンさせると、純正スチールホイールをワイド加工することでフロント185・リヤ195サイズのタイヤを履かせている。アルミホイールでないところに当時のレース仕様への憧れが現れている。また室内にレカロシートを装備したほか、4点式のロールバーを組んで剛性アップを図っている。
理想のGT-R仕様へ仕上がった石井さんのハコスカ。購入から10年を経てこれまでトラブルにあったのはウォーターポンプの作動不良とリヤのハブベアリングから音が出て交換したことくらい。モディファイを繰り返しつつ、その度に各部の様子を確認してきたことからトラブルが少なく済んだとも考えられる。旧車の場合、マメに手を入れるのが楽しいし体調管理にもつながる。乗るばかりでなく、時にはメンテナンスやモディファイを楽しむのが旧車ライフなのだろう。