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FIA世界耐久選手権(WEC)の2023年シーズン第6戦富士6時間レースが9月8~10日に開催される。
前戦となる第5戦モンツァ6時間終了時点でのランキングは別表に詳しいが、最高峰の『ハイパーカークラス』はかなりの接戦となっており、チャンピオンシップを戦ううえで富士ラウンドは極めて重要な一戦となる。
今年のハイパーカークラスには、ル・マン・ハイパーカー(LMH)のほか、ル・マン・デイトナh(LMDh)の車両も参戦可能となりエントリーが増加。今年の富士6時間には、昨年の富士戦にも登場したトヨタとプジョーに加え、フェラーリやポルシェ、キャデラックなどが加わり、6車種12台により総合優勝が争われる。
実はラップタイムはGT500のほうが速い……
ハイパーカーとはいっても、このクラスで走っているのは基本的に公道を走るハイパーカーをベースにしたものではなく、WECを戦うために作られたプロトタイプマシン、つまり純然たるレーシングカーなのだ。
そのパフォーマンスを知るには、他のカテゴリーと比べてしまうのが手っ取り早い。ここでは、日本で馴染み深く、“世界最速のハコ車”と言われることもあるスーパーGTのGT500マシンと比較してみる。
セクター1 | セクター2 | セクター3 | 合計タイム | 最高速 | |
#7 TOYOTA GR010 HYBRID 2022 WEC Rd.5 富士 | 21″822 | 27″792 | 39″620 | 1’29″234 | 318.6km/h |
#100 STANLEY NSX-GT 2023 S-GT Rd.2 富士 | 21″949 | 26″406 | 38″065 | 1’26″420 | 292.7km/h |
まず、予選におけるトータルのラップタイムを見ていこう。昨年のWEC富士戦でのハイパーカークラス最速タイムが1分29秒234であるのに対し、今年のスーパーGTでの富士最速タイムは、ゴールデンウィークに行われた第2戦で記録された1分26秒420。気温などのコンディションが違うにしても実に3秒近くの差がついている。
富士スピードウェイは、トップスピードから一気に減速し、旋回したのちに再加速していくセクター1、100Rと300Rの高速コーナーを含むセクター2、そしてホームストレートへ向けてテクニカルエリアを駆け上っていくセクター3に分けられている。
LMH車両とGT500車両は、セクター1ではほぼ互角のタイムを刻むが、コーナーの数が増えるセクター2と3ではそれぞれ1秒以上のギャップがある。
タイムと併せて、昨年のGR010とGT500マシンの諸元をごく簡単に比較してみよう。
昨年大会の予選最速タイムをマークしたGR010 HYBRID(2022年型)のパワートレインは、500kW/680PSを発生するエンジンと200kW/272PSを発揮するモーターを組み合わせたハイブリッドシステム。前輪をモーターで駆動する4輪駆動車で、車重は1040kgというスペックだ。
一方のGT500マシンは550PS以上を絞り出す2L直4ターボエンジンを搭載するFRレイアウトで、車重は1020kg以上となっている。
これらの数字を見ると、レーシングカーとしてのスペックは、昨年型のGR010が圧倒していると言える。
BoPの影響大か
では、なぜラップタイムで負けてるのかと言えば、その要因についてはコンディションやタイヤの違いが考えられる。特にタイヤについては、WECは耐久シリーズであり、タイヤもミシュランによるワンメイクである一方、スーパーGTはセミ耐久フォーマットで、タイヤもコンペティションとなっているため、その性格の違いは大きいだろうと推測できる。
それを考慮してもなお大きいと言われるのは性能調整(バランス・オブ・パフォーマンス=BoP)の存在だ。
WECでは技術規則に沿っていれば、マシンは一定の範囲内で比較的自由に制作することができる。その中で各車種の性能を均衡化するために、パワーや車重などを制限する方策が取られている。
そしてこれがハイパーカーたちの足かせになっているのだ。
昨年のGR010で言えばパワーは513kW(697.5PS)に抑えられていた。また、出力特性も自由に決めることはできず、パワーカーブはレギュレーションで厳密に規定されている。
加えて、モーターパワーもすべての速度域で使えるわけではない。レギュレーションでは120km/h以上での使用が可能とされているものの、ここについてもBoPによる制限を受ける領域となっており、昨年のGR010は190km/h以上とされていた。本来であれば前輪の駆動力は低速からの立ち上がりで使いたいはずだが、それが許されないというなんとももどかしい縛りを受けているのだ。
さらに重量も1053kgと増やされている。ご存じのとおり、車重の増加は加速、減速、旋回のすべてのパフォーマンスに影響し、ラップタイムを悪化させる一因となるのだ。
今年はLMDhという新たな規格の車両が参入したが、LMHとLMDhの純粋な速さはLMHに分があり、今年のBoPはそれに合わせるかたちでBoPが調整されているとされる。
7月時点で発表された富士戦向けのBoPでは、今年のGR010はパワー514kW、車重1080kg(ハイパーカークラスで最重)、モーター作動速度190km/hと、昨年よりもパフォーマンスダウンする方向で調整を受けている。
富士と同じく超高速ステージであるモンツァでは、予選のタイムが昨年と今年であまり違いはなかったことも踏まえれば、マシンの熟成が進んでいるとはいえ、今年の富士戦でタイムが大幅に更新される可能性は低そうだ。
LMHは以前のWEC/ル・マンでのトップカテゴリーであったLMP1車両よりも、車両特性的にはGTマシンに近づいたとされている。それでも、GR010やフェラーリ499P、プジョー9X8というLMH車両は自動車メーカーが威信をかけ、最新のテクノロジーを投入してイチから制作した純然たるレーシングカーだ。
さまざまな要素が絡み、富士での一発のタイムはGT500車両より遅いにしても、それがマシンのポテンシャルすべてを反映したものであるとはとても言えない。最新鋭耐久マシンの実際の実力はいまだ隠されたままだが、その一端は8日からの富士ラウンドで垣間見ることができるだろう。
2023年 世界耐久選手権 ドライバーランキング (Top10/第5戦モンツァ終了時点)
Rank. | No. | Driver | Team | Pts. |
1 | 8 | B.ハートレー/S.ブエミ/平川亮 | TOYOTA GAZOO RACING | 115 |
2 | 7 | J.マリア・ロペス/小林可夢偉/M.コンウェイ | TOYOTA GAZOO RACING | 92 |
3 | 51 | A.ピエール・グイディ/A.ジョビナッツィ/J.カラド | フェラーリAFコルセ | 92 |
4 | 50 | A.フォコ/M.モリーナ/N.ニールセン | フェラーリAFコルセ | 85 |
5 | 2 | E.バンバー/A.リン/R.ウェストブルック | キャデラック・レーシング | 71 |
6 | 5 | D.キャメロン/F.マコヴィッキ/M.クリステンセン | ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ | 52 |
7 | 93 | P.ディ・レスタ/M.ジェンセン/J.ベルニュ | プジョー・トタルエナジーズ | 44 |
8 | 6 | K.エストレ/A.ロッテラー/L.ヴァントール | ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ | 41 |
9 | 708 | R.デュマ/O.プラ | グリッケンハウス・レーシング | 34 |
10 | 708 | R.ブリスコー | グリッケンハウス・レーシング | 24 |
6時間レース……1位:25点、2位:18点、3位:15点、4位:12点、5位:10点、6位:8点、7位:6点、8位:4点、9位:2点、10位:1点、その他完走車:0.5点
8、10時間レース(セブリング1000マイルを含む)……1位:38点、2位:27点、3位:23点、4位:18点、5位:15点、6位:12点、7位:9点、8位:6点、9位:3点、10位:2点、その他完走車:1点
ル・マン24時間レース:1位:50点、2位:36点、3位:30点、4位:24点、5位:20点、6位:16点、7位:12点、8位:8点、9位:4点、10位:2点、その他完走車:1点
予選:1位:1点
2023年 世界耐久選手権 マニュファクチャラーランキング (Top10/第5戦モンツァ終了時点)
Rank. | Manufacturer | Pts. |
1 | トヨタ | 152 |
2 | フェラーリ | 126 |
3 | キャデラック | 72 |
4 | ポルシェ | 66 |
5 | プジョー | 50 |
6 | グリッケンハウス | 36 |
7 | ヴァンウォール | 6 |
ポイントシステムは以下の通り
6時間レース……1位:25点、2位:18点、3位:15点、4位:12点、5位:10点、6位:8点、7位:6点、8位:4点、9位:2点、10位:1点、その他完走車:0.5点
8、10時間レース(セブリング1000マイルを含む)……1位:38点、2位:27点、3位:23点、4位:18点、5位:15点、6位:12点、7位:9点、8位:6点、9位:3点、10位:2点、その他完走車:1点
ル・マン24時間レース:1位:50点、2位:36点、3位:30点、4位:24点、5位:20点、6位:16点、7位:12点、8位:8点、9位:4点、10位:2点、その他完走車:1点
予選:1位:1点