アリアNISMOのデザインは大人の色気!? 赤いラインの秘密とは?【新型車デザイン探訪】

東京オートサロンでデビューした日産アリアNISMOは、NISMO初のクロスオーバーSUV。デザインもこれまでのNISMOとは一味違う。日産デザイン本部・アドバンスドデザイン部で2018年からNISMOのデザインを統括する森田充儀氏に、その狙いを聞いてみた。

TEXT:千葉 匠(CHIBA Takumi) PHOTO:千葉 匠(CHIBA Takumi)/NISSAN

赤いラインはアルテリア・マグマ

「アリアNISMOを開発するとなったとき、『アリアがNISMOになるだろうか?』と真っ先に思いましたよ」と森田氏は事の発端を振り返る。そもそもNISMOのロードカーはモータースポーツの技術を量産車にフィードバックしたクルマ。アリアにサーキットの匂いはない。

森田氏はGT-RやZ、スカイラインだけでなくノートオーラのNISMOも手掛けているが、それでもアリアは勝手が違ったようだ。そこで、NISMOにも電動車が増えていく今後を見据え、「電動NISMOのデザイン戦略を練った」という。

NISMOロードカーの目印とも言えるのが、ボディ下端を取り巻く赤いラインだろう。「レーシングカーのフラットボトムが横に現れ、前に出てきたイメージでカタチを作って、その先端を赤で強調している」と森田氏。今回も赤いラインを踏襲するが、「意味を変えた」。

ボディの裾回りを赤いラインはNISMOロードカーの目印。従来は黒いガーニッシュの下端を赤くしていたが、今回は”アルテリア・マグマ”をテーマにガーニッシュの途中に赤を入れている。

「ジェントルな紳士に見えて、実は非常にアクティブな人というような、二面性を持つクルマが今回のコンセプト。上品だけど熱いハートを秘めている。その表現として赤いラインを使おう、と。”アルテリア・マグマ”と呼んでいます」

アルテリアは「隠された、秘めた」。内に秘めたマグマのような熱いハートを象徴するのが、アリアNISMOの赤いラインだ。意味がこれまでと違うので、ラインの入れ方も変えた。ボディ下端ではなく、裾回りの黒いガーニッシュの途中に赤いラインを走らせている。これはアリアのプロポーションがもたらす必然でもあった。

エクステリアのデザインイメージ。背の高さを払拭してスピード感を持たせるために、前後方向の伸びやかさを基準車より強調したい。赤いラインの位置をガーニッシュ下端から上げたのにも、同じ狙いがある。

アリアはBEVのクロスオーバーSUVだから、床下にバッテリーを積むせいもあって背が高い。そこで裾回りに厚めの黒いガーニッシュを配してボディ色で見える部分のプロポーションを整えつつ、SUVらしいリフトアップ感を表現している。このリフトアップ感がNISMOにとっては微妙な要素だった。

フロントガーニッシュは下端を基準車より下げ、そこにエアスプリッターを突き出している。これは空力効果に加えて、視覚的な重心を下げて安定感を強めるものでもある。スプリッター両端のカナードは縦渦を発生させ、の負圧でホイールアーチ内から空気を吸い出して前輪のリフトを抑制する。

「アリアはスタイリッシュだけど、NISMOとしては視覚的な安定感をもっと表現したい」と森田氏は考え、「フロント下端に前方に突き出したエアスプリッターを設け、ドア下のサイドガーニッシュは下端を35〜40mmほど下げた」。

これらはもちろん空力も考えてのことだが、黒いガーニッシュの視覚的な重心を下げることで安定感を強める狙いもあった。そのぶん黒いガーニッシュがさらに分厚くなるので、その下端に赤いラインを入れたら、それがアイキャッチになって背が高く見えすぎる。だからガーニッシュの途中に入れて、黒いなかに赤いマグマが見えるようなラインにしたわけである。

ドラッグ低減はレーダーとの戦い

NISMOロードカーの空力について、森田氏は「ダウンフォースを高めるためには、その前段階でドラッグを基準車より下げておかなくてはいけない」と語る。ダウンフォースを稼ぐと、往々にしてドラッグが増えがちになるからだ。

フロントコーナーにエアインテークを設け、その気流を前輪表面に流してタイヤ周辺を整流するのは基準車と同じ。”エアカーテン”と呼ばれる空力手法だ。しかしアリアNISMOではインテークを拡大し、エアカーテンの流量を増やすことで整流効果を高めた。

エアインテークを外側に広げたので、その側面の絞り込みが小さくなる。これも前輪周辺の気流を整えてドラッグ低減に寄与する要素だが、「本当ならもっと下まで絞り込まずに行きたかった」と森田氏。インテークの下のコーナー部を指差しながら、「内側にレーダーがある。レーダーのレイアウトを変えるとシステムが開発し直しになるので、ここの面は基準車と同じに保たなくてはいけなかった」

サイドガーニッシュは”く”の字断面。基準車より視覚的な重心を下げると共に、”く”の字の頂点を走る赤いラインをできるだけ外に出すことでドラッグを低減している。

サイドガーニッシュは下端を下げると共に、断面も変えた。基準車では上端で外に張り出し、そこから下は内側に絞り込む断面。それに対してアリアNISMOは赤いラインを挟んだ”く”の字断面にしている。

「前後のタイヤをできるだけフラッシュに結ぶイメージにした」と森田氏。赤いラインの幅方向位置はタイヤ表面とほぼ一致する。ラインから下は内側に少し絞られているが、そこを流れる風が後輪に当たらないように、ガーニッシュの後端には垂直面の出っ張り(空力用語でストレーキ)を設けている。

バックウインドウ下にリヤスポイラーを追加。ルーフエンドのスポイラーの下を通ってきた風とサイドウインドウから巻き込んできた風を受けて、ダウンフォースを発揮する。

リヤにはスポイラーを追加した。狙いはもちろんダウンフォースだが、これがドラッグ要因になるので、フロントとサイドでドラッグ低減を図ったわけだ。

「リヤスポイラーは重量制限に収まるようにデザインをまとめるのに苦労した」と森田氏。パワーテールゲートのアクチュエーターが基準車と共通なので、「重すぎると、上まで開き切らなくなる」からだ。「風を受ける面積をできるだけ増やしながら、前後方向の幅を切り詰めるなどして軽く作った」

ディフューザーの存在感が際立つリヤ。センターにNISMOロゴを入れ、その下に縦長長方形のリヤフォグランプを組み込むのは、ノートオーラNISMO以降のNISMOロードカーの共通アイテムだ。

リヤバンパーでは下端のディフューザーの後端を基準車より延長。サイドガーニッシュの下端を下げつつ外に出したことと相俟って、「床下でダウンフォースを稼ぐ狙い」だという。

しかしリヤのデザインにもフロントコーナーと同じハードルがあった。リヤバンパーの赤いラインから上は、「基準車とほとんど同じ形状」。コーナー部にレーダーが入っているからだ。

NISMOならではのこだわり

ホイールはエンケイと共同開発した20インチ。森田氏は「外周部はフラット面で構成してドラッグを低減し、センター寄りのところは排熱とダウンフォースを考えて空間を大きくした」と語る。

ホイールは「軽量化と空力と高剛性をバランスさせたデザイン」と森田氏。

スポークが直線なのは、「強大な回転トルクを最大限効率良く受け止めるスポークにしたいから」とのこと。「それをエンケイと一緒に探してきたので、NISMOは捻ったスポークは使わない。やはりファンクショナルビューティでなければいけない、という私のこだわりです」

NISMOステルスグレーはノートオーラなどに設定のステルスグレーより少し青味が強く、光輝材を使わないソリッド塗装。

展示車のボディカラーはNISMOステルスグレー。2022年モデルのGT-R NISMOから採用している色だ。ノートオーラやエクストレールなどにステルスグレーというボディカラーがあるが、そちらがパール光輝材を使いながらソリッド風に見せているのに対して、NISMOステルスグレーは完全なソリッドだ。

「余計なものを省いて研ぎ澄ましていくのがNISMOのデザインなので、専用色のNISMOステルスグレーにはパールもメタリックも使わなかった」と森田氏。ノートオーラなどのステルスグレーより少し青味が強い色調についても、「サーキットに置いたときに最も似合うことを狙った。サーキットの路面より青いけれど、青空よりグレーという色にしています」と、まさにNISMOらしいこだわりを語ってくれた。

インテリアにも”アルテリア・マグマ”

アリアのインテリアはモダンリビング感覚のデザイン。GT-RやZの”操縦するコクピット”とは正反対なだけに、「NISMOらしさをどう表現するか、悩んだ」と森田氏は吐露する。

シートは基準車と同じ形状ながら、表皮材を変更した。パーフォレーションから赤が覗く。

他のNISMOロードカーのように、レカロ製スポーツシートを採用することも当然考えた。しかし、「電装系が開発し直しになるので、今はできない。基準車の表皮を変更するだけにした」とのこと。「でも、そこは割り切って、GTカーとして大人っぽくまとめよう。快適でありながらも、成熟したスポーティさを表現しようと考えた」

ベースにしたのは基準車のブラック内装。シート表皮のメイン材をスエード調の合皮に変更した。座面とバックレストの中央部分、ショルダーサポート部分は裏側に赤い布を挟み、それがパーフォレーションの無数の小さな穴から覗くようにしている。

ブラック基調に赤いライン。エクステリアのアルテリア・マグマ”と同様に、赤いラインは水平に走らせている。

「パーフォレーションから見える赤は”アルテリア・マグマ”です」と森田氏。まさに内に秘めた赤だ。さらに、「インパネを水平に貫く赤いラインにも、エクステリアの”アルテリア・マグマ”のテーマを活かした」。センターアームレストを含めて、基準車でカッパー色だったラインを赤に変えただけなのだが、それが内外の一体感を醸し出す。

アリアでお馴染みの”行灯”も照明色を白から赤に変更した。

アリアのドアや足下には”行灯”と呼ぶ独自のイルミネーションがある。白い柔らかな光が特徴だが、それも赤に変えた。「内側の熱いマグマが見えるイメージ」とのことで、これも”アルテリア・マグマ”の表現だ。

基準車のアリアの世界観を保ちながら、NISMOらしさを大人っぽく表現したアリアNISMOのインテリア。それを見てから改めてエクステリアを振り返ると、パフォーマンス感だけではない成熟した色気に気付く。NISMOロードカーの最新作は、NISMOのデザインの方向性を確かに指し示しているようだ。

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著者プロフィール

千葉 匠 近影

千葉 匠

1954年東京生まれ。千葉大学工業意匠学科を卒業し、78〜83年は日産ディーゼル工業でトラック/バスのデザ…