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気温は氷点下で路面凍結の可能性も?
雪も降り始めていきなりのハードコンディション
試乗は1泊2日のロングドライブだったため、雨の上信越道を後にしてこの日は佐久市内で宿泊。翌日は早朝から出発して八千穂方面を目指したが、相変わらずの空模様と低い気温で、路面状況はさらに厳しさを増していた。
建設が進む中部横断自動車道へ入り一路南下。終点の八千穂高原インター手前から路肩に白いものが目立ち、路面も気温的に凍結が心配な雰囲気だ。
一般道に入り少し走ると、行き届いた除雪がアスファルトを露出しながらも、ところどころにシャーベット路面が残っている。そして空からの雨は、みぞれに変わっていた。オールシーズンタイヤにとって、いきなり厳しい状況がやってきたという感じだ。
しかしこうした路面で「VECTOR 4SEASONS GEN-3(ベクター4シーズンズ・ジェンスリー)SUV」は、かなり優秀なグリップ性能を発揮した。気温にしてマイナス1~2度の領域でもゴムは柔らかさを失わず、排水性もきちんと保たれていた。
前輪駆動ながらZR-Vの走破性にも助けられる
もちろんときおり(氷の路面が現れるのだろう)、ムズムズとした挙動は起きる。アクセルも無造作に踏もうものなら、ピカピカVSA(ビークルスタビリティアシスト)がメーター内で点滅する。
しかし試乗車が前輪駆動のZRーVであることを考えれば、その走破能力はなかなかだ。四輪駆動(4WD/AWD)と思わしきクルマたちに先を越されることもたまにあったが、地元の交通の流れに対しても遅れを取ることもなかった。
そして標高を上げて行くほどに、路面には雪の量が増えていった。それは圧雪と言うほどではなく、しかし磨き上げられた轍(わだち)や日陰には、アイスバーンが目視できる路面だった。
こうした路面だと、スリップ率はさらに高まる。
スタッドレスタイヤの中でもゴムの柔らかさに特化したタイヤと比べれば、ベクター4シーズンズ・ジェンスリーSUVのグリップ感は正直低いといえるだろう。
しかし速度レンジを高く取った、雪を掘ってトラクションを掛けて行くタイプのハードコンパウンド系スタッドレスタイヤと比べれば、雪上におけるそのグリップ感は、もしかしたら遜色ないのかな? とも思えた。
気温で言うと、マイナス5度くらい。
こうした状況ではスピードのマネージメントに注意しながら走れば、突然グリップに見放されるような危なっかしさはなかった。アクセルを踏んで駆動輪が滑ったとしても、その滑り方は穏やかで動きも読みやすい。
ZRーVのパワーマネージメントはそのほとんどがモーター駆動であることも含めて、滑りながらもトラクションを掛けて行くことが可能であり(VSAはアクティブ。点滅しながらでもアクセルをパーシャルスロットルで維持すれば適切な駆動力をかけ続けてくれる)、慣れてくるほどにジェンスリーSUVの運転しやすさは増して行った。
もちろんその“慣れ”こそが、一番の大敵なのだけれど。
こうした雪上グリップの高さには、Vシェイプのトレッドパターンを斜めに横切るに大型サイプの排出性が効いている。さらにはこれと、水平方向に走る細いサイプの交点が、グリップ時に押し広げられて排雪性能を高めるのだという。
ちなみにスノーブレーキ性能は「ハイブリッド」に対して5%向上しているという。
・雪上ブレーキテスト条件 テスト車:国産1.8Lセダン(FF) タイヤサイズ:195/65R15 95V XL 空気圧(kPa):F250/R240 路面:雪上路面 試験速度:100km/hからの制動(ABS動作あり) ※日本グッドイヤーの資料より
オールシーズンタイヤにとって最大の難関となるアイスバーン路面では、確かに雪上とは比べものにならないほど、グリップが失われやすくなる。
ただ意外だったのはこうした路面でも、まったくアンコントロールではなかったことだ。もちろん氷の上を通り過ぎるときは、車速は極めて低く(20km/h未満だろう)保たねばならない。そこがカーブなら手前で減速し、なるべく横Gを出さずにアクセルでジワジワ加速しながら曲がって行く。そうすることでソロソロとでも、アイスバーンを無事に通過することができた。
オールシーズンタイヤでスキー場まで行けるのか?
そして、そうこうしているうちにスキー場までたどり着いてしまった。結果的にではあるが、オールシーズンタイヤでスキー場に行けてしまったわけである。
ただ「ベクター4シーズンズ・ジェンスリーSUVで、スキーに行けるか?」と聞かれたら、筆者には簡単にはその答えは出せない。
クルマが4WDだったなら今回よりもっと楽に行けるだろうし、雪道に慣れたドライバーなら実際は楽勝かもしれない。
一方であなたがスノードライブに慣れていなければ、たとえたどり着いたとしてもスキー場に行くまでに疲れてしまうだろう。さらに雪深い状況では試せなかったので、そこでの結論は述べられない。
たとえばベクター4シーズンズ・ジェンスリーSUVの雪上性能の高さに気をよくして、そのままの勢いでカーブにエントリーするような走りはだめだ。
運転では路面をよく見て黒光りする部分を早めに発見する必要があるし、ブラインドのコーナーは手前ではきっちり減速する用心深さが必要である。それが普通に、できるだろうか?
もちろん一般道には純粋な氷盤路面などほぼなく、そのほとんどが雪とのミックスだから、「思いのほか走れてしまった」という印象を持つ場合も多いはず。しかし100回走ったうちの1回でもクルマをぶつけてしまえば、ユーザーにとってそれは苦い思い出になる。
ハイレベルにバランスされたオールラウンダーだが……
総じて「ベクター4シーズンズ・ジェンスリーSUV」は、タイヤに求められる性能の多くを標準的にカバーしたオールラウンダーだと感じた。逆を返せばどこかに特化した性能を持たないし、大きな弱点もないタイヤだと言える。
ただしそのレベルは、全てが高いアベレージとなっている。またその中で筆者は、乗り心地のプレミアムさとドライ路面での走りの良さに感心した。サマー性能は今後確認する必要があるが、全ての季節をカバーするコンパウンドの柔軟性と、しっかりとしたタイヤ全体の剛性感のバランスが、それを感じさせたのだと思う。
使い方の提案としては実に平凡だが、非降雪地域のユーザーが突然の雪に対応できることがまずひとつ。そしてほとんど降らない雪と比べて圧倒的に多い、雨への対策も同時に出来る。また雪は降らずとも低い気温に対策できる。そしてスタッドレスタイヤのコストが節約可能になる。
降雪地域においては、ちょっと贅沢な使い方だがスタッドレスタイヤへの交換に対する繁忙期をずらしたり、季節外れの雪に対応できるだろう。