ホンダ「スペイシー」が50ccスクーターとして国内初の4ストロークエンジンを搭載し17.6万円で発売【今日は何の日?5月7日】

ホンダ・スペイシー
ホンダ・スペイシー
一年365日。毎日が何かの記念日である。本日5月7日は、50ccスクーターとしては国内初の4ストロークエンジンを搭載したホンダ「スペイシー」が発表された日だ。当時、女性向けのソフトなスクーターが多いなか、スポーティなデザインも斬新で注目を集めた。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)

直線基調のスタイリッシュな4ストロークスクーター

1982(昭和57)年5月7日、ホンダは50ccスクーターとしては国内で唯一の4ストロークエンジンを搭載した「スペイシー」を発表、発売は5月13日から始まった。4ストロークエンジンの特徴である優れた低燃費や静粛性、そして耐久性がセールスポイントだった。

ホンダ・スペイシー
1982年にデビューしたホンダ「スペイシー」。50ccスクーターとしては国内で唯一の4ストロークエンジンを搭載

ホンダのスクーターはジュノオから始まった

国産初のスクーターは、1946年に発売された富士産業(後の富士重工業)の「ラビット」で、同年8月には中日本重工(後の三菱重工)の「シルバービジョン」も発売され、この2台が当時のスクーター人気の火付け役となった。

富士産業「ラビット」
1946年に誕生した国産初のスクーター、富士産業の「ラビット」

ホンダは、1954年にホンダ初のスクーター「ジュノオ」を発売。ジュノオは、189cc空冷4ストロークエンジンを搭載して人気を獲得。1950年代には多くのスクーターメーカーが乱立し、様々なスタイルのスクーターが登場してスクーターブームが起こったが、その後いったんブームは沈静した。

タクト
1980年にデビューした2ストロークエンジン搭載の「タクト」

その後、1977年にはヤマハの大ヒットした「パッソル」、パッソルに対抗して1980年にはホンダから「タクト」、1982年にはスズキから「ラブ」がデビューした。タクトは、49cc空冷2ストロークエンジンを搭載し、燃費と使い勝手の良さで人気を博し、第2期スクーターブームの先駆けとなった。
続いてヤマハ「ベルーガ」やスズキ「ジェンマ50」などが登場したが、搭載エンジンは小型軽量で低コストの2ストロークエンジンが主流だった。

ヤマハ「パッソル」
1977年にデビューして大ヒットしたヤマハ「パッソル」

スポーティな4ストローク搭載のスペイシー誕生

パッソルやタクト、ラブなどはソフトバイクと呼ばれ、手軽で扱いやすいことから主に若い女性や主婦層から人気を獲得していた。
そんな1982年のこの日、ソフトなイメージのスクーターとは全く異なる、直線を基調としたシャープでスポーティなスクーターのスペイシーが登場した。デラックスとカスタムの2つのグレードが用意され、上級モデルのカスタムには、スクーター初となるデジタル液晶メーターが採用された。

ホンダ・スペイシー
「スペイシー」の上級モデルのカスタムには、スクーター初となるデジタル液晶メーターを採用

エンジンは、2ストロークが主流の中にあって、最高出力5psを発生する50ccスクーターとして国内初の4ストローク単気筒空冷エンジンだった。さらに前後足回りは油圧式ダンパーを備え、その上質な乗り心地に4ストロークならではの静粛性や110km/L(定地30km/h)の優れた燃費を実現した。

車両価格は、デラックスが15.9万円、カスタムが17.6万円。ちなみに、当時の大卒初任給は12.5万円程度(現在は約23万円)だったので、現在の価値ではデラックスが約29万円に相当する。

初期から積極的に4ストロークエンジンを採用したホンダ

4ストロークはエンジン2回転に1回燃焼(爆発)が発生するが、2ストロークは1回転に1回燃焼が発生するので理論上は2倍のトルクが得られる。さらに軽量コンパクトという大きなメリットがあるが、一方で燃費と排ガス性能は4ストロークエンジンに大きく劣る。

スーパーカブC100
1958年にデビューした「スーパーカブC100」。今も世界中で愛されているロングセラー

スクーターもその性格や用途により2ストロークと4ストロークを使い分けていたが、ホンダは早くから積極的に4サイクルエンジンを採用。1958年に発売され現在もロングセラーを続けている「スーパーカブC100」も、1967年にデビューしたホンダ初の軽乗用車「N360」も、当時としては珍しい4ストロークエンジンを搭載していたのだ

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1973年のオイルショックと排ガス規制強化で、2ストロークの4輪車は1980年代には完全に淘汰された。一方、2輪車も、1998年の2輪車初の排ガス規制を機に、一部の小型バイクやスポーツバイクを除き4ストローク化が進んだ。その後、排ガス規制がさらに強化されたことから、2輪車も2ストロークエンジンの国内用モデルは市場からほぼ消え去ったのだ。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…