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新型フリード、スタンバイ!
5月9日、新型フリードのティザーサイトが公開された。
発売は6月予定というから、現行の2016年9月発売から8年を数か月切るタイミングでのモデルチェンジとなる。数えて3代目だ。
1998年4月のキャパを源流に、フランスの路面電車「ユーロトラム」をデザインモチーフにしたモビリオを経て、初代フリードが登場したのは2008年5月のことだった。
その頃、ホンダ乗用車ベースの5ナンバーサイズ3列シートミニバンにはストリームがあったが、シビックで定評の運動性能をミニバンででも示したかったストリームに対し、同じ3列車でもフリードにはひとびとの生活に寄り添う親近感があった。背を高くしても2列シートにとどまっていたキャパ、シートを3列にしてリヤドアをスライド化、ユーロトラムスタイルでひと味ちがうスモールミニバン像を訴求したモビリオ・・・成功作とはいえなかったこれら2車に対し、誰にでも親しまれるスタイルと手頃なサイズ感を前面に打ち出したことがフリード成功の要因だろう。
そして新型3代目になってもそのキャラクターは変わっていない。2代目の時点で兄貴分のストリームは消滅していたが、5ナンバーサイズミニバン市場をフリード単独で勝負するいま、生まれながらの親近感をいかにより深め、商品力をいかに強化してアピールするかにますますかかってくる。
シリーズは「AIR」と「クロスター」の2本立て
バリエーション展開が一部変わった。
7人乗り/6人乗り/5人乗りの3種あるのは変わらず、従来は7人乗り/6人乗り「フリード」のほか、途中追加された「フリードクロスター」の6人乗りあり、5人乗りに徹した「フリード+(プラス)」「フリード+クロスター」ありという複雑な機種展開、というよりも、ネーミング展開が複雑だった。5人乗り車がいちばん乗車人数が少ない割に「+」を名乗るなど、混乱の種がないではなかった。
今回、「+」を廃止し、従来の「フリード」7人乗り/6人乗りは「AIR」のサブネームをつけ、「フリードAIR」として仕切り直し。同時に、これまで追加バリエーションに過ぎなかった6人乗り/5人乗りの「フリードクロスター」「フリード+クロスター」を、乗車人数はそのままに、「フリードAIR」に対比するもうひとつのシリーズとしての「フリードクロスター」に昇格、2路線展開へと作戦変更した。
定員基準で語ると、7人乗りは「フリードAIR」だけに用意され、6人乗りがほしいひとだけ「フリードAIR」「フリードクロスター」2種の選択肢があるところまでは現行と同じ。従来の5人乗りフリード+に相当する機種が新型になくなり、5人乗りが「フリードクロスター」に集約されたことだけが現行と異なる。よく数えると全体のバリエーション数は同じなので、やはりネーミング整理の印象だ。
そして従来からの変種を独立させ、本家に「AIR」をつけて2本立てを採ったのはステップワゴンに倣ったようだ。
ただし、私たちメディア関係者に配布された資料には、新型「フリード」と記されていた。
なお、新型フリードのパワートレーンについて、ガソリン車、e:HEV車の2種存在すること、7人乗り「AIR」がFFのみ、他はすべてFFと4WDが用意されることだけが明らかになっている。価格については現時点未定だ。
開発陣の良心が光る5ナンバーサイズ
内外スタイルにステップワゴンの要素が随所に見え隠れしている。ボディカラーしだいで印象は変わってくるのだが、身を包むプレーンな面質はステップワゴンを思わせるし、ライトまわりにもステップワゴンとの関連性を感じさせる。
サイドは、従来あの向きこの向きに走っていたプレス線があったほか、ドアハンドル直下のライン後端にスライドドアの中間レールを合わせ、そのレールがさらにリヤからまわり込んできたリヤランプに突き刺さるなど、処理が煩雑だったが、新型はスライドレールがリヤランプと訣別、凹型のプレスとレールはサイドだけ(下部に薄いラインはあるが)で完結させてすっきりしており、好感が持てる。
新型の車両寸法は次のとおりだ。
★新型フリード・車両サイズ(全長×全幅×全高。()内は現行型)
・フリードAIR:4310×1695×1755mm(現行フリード:4265×1695×1710~1735mm)
・フリードクロスター:4310×1720×1755mm(現行フリードクロスター:現行フリードと同。)
長らく5ナンバーサイズを維持していたステップワゴンも、現行型へのモデルチェンジ時に全長・全幅でついぞ3ナンバー域に踏み込んだ。
「フリードよ、次はお前もか?」と予想されたが、ふたを開ければ5ナンバー。車庫事情でステップワゴンをあきらめ、初代、現行フリードに乗っているユーザーはいま頃ホッとしていることだろう。ここは開発陣の良心に大拍手を贈るべきだ。
新型のサイズは、基本的に小型車枠に収まっている。「基本的に」というのは、今回、小型車枠を守っているのは、7人乗り/6人乗り=つまり3列シートの「フリードAIR」に限られ、6人乗り/5人乗りの「フリードクロスター」は、幅で小型車枠を20mm超える3ナンバーサイズとなるからだ。
といっても、ボディ骨格をイチから見直して3ナンバー化を図ったステップワゴンと異なり、フリードクロスターはホイールアーチに厚いプロテクターをつけたがゆえの3ナンバー。ゆえ、日常の取りまわしには影響ないだろう。
全高はほとんど同じ。なのに従来サイドから見たときに感じられた寸詰まり感が新型で解消されているのは、全長が45mm延ばされたせいだ。おかげでサイドシルエットはごく自然に目に映るようになっている。
フィットとの近似性を抱かせる新型フリードのインテリア
内装、とりわけインストルメントパネルは明らかにフィットと同じ方向を向いている。左右の空調吹出口を残したその内側を、メーターまわりも含めてやわらかそうなパッドで包んだかのような造形とし、実際この部分は布張りだ。もっともその造形とてフィットに始まったものではなく、元をたどれば1993年の2代目トゥデイに到達する。
左右ウォークスルーのため、過去2代同様、インパネシフトなのは当然。パーキングブレーキはシフト右にスイッチが見えることから、新型でようやく電動化することがわかる。
メーターは、最新ホンダ車の定石に則ったデザインで、車速その他安全デバイスなど、多彩な情報を表示する、角を丸めた台形の全面液晶。その両脇に、白いLEDドットを縦に積み上げた燃料計とバッテリー計をレイアウト。ガソリン車の場合はバッテリー計が水温計に変わるだろう。
ハンドルの上方&向こうに、センターまで広がる横長メーターをカラー液晶で見せることでエンターテイメント性を出していた現行に対し、新型のメーターがハンドルグリップ内に見る手法に回帰したのはステップワゴンや最新N-BOXと同じだ。少々殺風景になった感じがするが、このあたり、現行や先代のフリードユーザーの目にどう映るか?
外観の話にも通じるが、現行ではフロントガラスとフロントドアに挟まれている三角窓を新型ではやめ、オーソドックスなガラス並びとなった。
フロントサイドの固定窓をして「視界が拡がった」とする記事を見かけるがそのようなはずはなく、これまでのボディ側三角窓は、従来ドア割線の出発点だったフロントサイドガラス先端が、横から見て前輪上にまで前進したフロントガラス下端&ピラーに引っ張られても、ドア割線はあくまでも前輪ホイールアーチ後ろにとどまらなければならない都合上、やむなくサイドガラスを分断することで生じただけのものに過ぎない。
だからその三角窓がなくなった新型は、てっきりピラー根元を後退させたのだと思ったらそうではなく、「プラットホームは一部に手を入れただけで基本的に同じ。したがってピラ一位置も変わっていない」という。
話を聞いても新旧写真を比べても信じられないが、よく見ればピラー根元が前輪上にあるのは確かに新旧同じ。だが、外から見ての予想に反し、新型のドアを開ければ開口部は前に広がっていて、従来の三角窓分も含めた開口形状になっていることがわかる。この部分だけは「プラットホームは(基本的に)同じ」の表現が控えめに過ぎるほど手入れの幅が大きく、乗降時の足さばきは現行に比べてしやすいはずで、発表されたら販売店でお確かめいただきたい。
シート配列は現行同様
6人乗り/7人乗りの違いが2列目シートの形状で分けられるのは現行と同じだ。
6人乗りはキャプテンシート、7人乗りは3人掛けのベンチシート。いっけん、キャプテン式のほうがカッコいいとわかっていても、横に長い3人掛けのほうが実用上は便利なことから、実際の販売比率はどのクルマもベンチ式が上という時期が長かったが、いまは3列めへの行き来のしやすさが優先してか、迷わずキャプテンシートが多く選ばれる時代だ。こんどのフリードもキャプテンシート車が売れるだろう。
なお、ステップワゴンの2列目は純粋なベンチシートを用意していながら、キャプテンシートは隣り合わせてベンチ「風」にもなる横スライド付きだが、フリードは新型になっても横スライドはない模様だ。
ホイールベース2740mmは変わらないが、室内長はわずかに伸びているようだ。こと、開発陣はこのサイズのクルマでは冷遇されがちな3列めの居住感向上に力を入れたようで、3列めの室内幅を65mm拡げるとともに、現行で遊びが過ぎたクォーターガラス形状を素直な四角形状にすることで閉塞感を解消している。
居住感といえば、新型では機種によりけりでリヤクーラーが搭載されたのが新しい。操作部&吹出口をまとめたパネルは2列目天井にある。パネル反対側=前席側にはダクトがあるので、もしかしたらサーキュレーター機能もあるかも知れない。
クォーターの四角形状は、3列め乗員には視界と採光の面でありがたいし、ドライバーには斜め後方視界に寄与するが、3列め収容時となると話は変わってくる。収容法が従来と同じ跳ね上げ式のままなのだ。このときはせっかく拡がったクォーターガラス下3分の2をふさいでしまい、斜め後方視界を阻害する。
開発陣は「格納のためにシートを薄くするより、3列め乗員の着座感を大事にした」と説明していたが、実際はいうほど厚くはなく、むしろよくこの寸法でこの座り心地を実現したとほめたいほどの厚さ、いや、薄さにとどまっているのだから、いっそこのまま床下収納も可能ではと思われる。
ホンダはステップワゴンで、着座感を損なうことなく薄めに造った3列めを、片腕ワンタッチに近い操作で床下収納できる機構を実現している。操作性はライバル(ノア/ヴォクシー、セレナ)中ピカ一! その手腕を活かし、フリードクロスターの超低床フロアをアレンジして床下収納にすれば、上下寸も左右幅も視界も損なうことのないきれいな荷室を造れるのではないか。真っ向ライバルのシエンタの3列めは床下収納だが、あちらは2列目下への収納で、収容するにはいったん2列目を前に追いやる必要があり、いまのところどっちもどっち。フロアの成り立ちからして勝ち目はフリードのほうに残されている気がする。
もっとも、跳ね上げ式のままでも改良は施されていて、跳ね上げ時のシート上端位置を90mm下げた地上1390mmに抑え(ということは、現行はガラスをまるまるふさいでいたわけだ。)、座面下の「脚」の収納状態も可能な限り平滑化に努めてほぼ直立(と開発陣は語ったが、実物は完全に垂直だった!)するなどの工夫で跳ね上げ時の左右間幅も160mm拡大している。90mm下げたり160mm上げたりと、機構もボディ外寸も変えずにこれだけの寸法を稼ぐのだって並大抵の苦労ではない。シートの収容法や荷室サイズの制約に不満を抱いていた現行型ユーザーが、新型のこの寸法差を大きな違いとして感じ取ることができたなら、それは設計担当者の苦労の賜物だ。
他、内装各部には細かなもの入れが現行に引きつづき用意されている。その一部ををお見せする。
フリードクロスターの位置づけ
フリードクロスターはもともと、現行のマイナーチェンジ時に追加された機種だ。モビリオ、初代フリードの「スパイク」は3列めシートを廃し、ただでさえ広い空間&荷室をフルに遊び心に振ったクルマだったが、クロスターは、そこにクロスオーバーテイストを加味したスパイクの発展型と捉えればいい。
新型クロスターがひとつのシリーズとして確立されたことは前述。
外観の、AIRに対して別造形のフロントバンパーやホイールアーチのプロテクターなの加飾がごく自然になじんでいる。標準AIRのエクステリアがクロスターへの展開も視野に入れてデザインされた証拠で、当初から2本立ての車両企画だったことがわかる。逆に現行は、手の入れられるところにはできるだけ手を加えたといった限界が感じられ、クロスターが途中浮上の計画だったことがうかがえる。
それにしても、アウトドア志向のひとにはクロスターは魅力的な存在だろう。超低床フロアによる大開口と2段仕掛けのラゲッジルームで、キャンプ用品、釣り道具などを上下に区分けしながら満載できるほか、「みなさん、仕事なのに遊び気分で造ったでしょ?」とホンダのひとたちを咎めだてしたくなる、見ただけでワクワクするような楽しいアウトドア用品の販社オプション品が多彩に用意されている。
販社オプション群については、別に記事を用意しているのでそちらをごらんください。
日常的にはひとりふたり乗車でも、いざというときにたくさん乗れて、ボディサイズはほどほどにというクルマはずいぶん減り、ライバルはシエンタだけになった。
観光、帰省、釣り、キャンプ・・・今年の夏休みは新しいクルマでと考えている方、2路線でキャラクターを明確化したフリードを待つのも一考だ。
発売は、夏休みの声が聞こえ始める2024年6月。もうすぐだ。