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■日常ユースでも快適な新しいミニバンを提案したエスティマ
1990年(平成2)年5月30日、トヨタから新世代ミニバン「エスティマ」がデビュー。タマゴ型のワンモーションの流麗なフォルムにミッドシップレイアウトを採用したエスティマは、従来のワンボックス型とは異なる、日常的にも快適に使える新しいミニバンのパイオニアとして大ヒットした。
●RVブームで人気を獲得していた前世代ミニバン
1980年代に始まったアウトドアブームを背景に、多人数が楽しめるマルチパーパスビークルとして人気を集めたのは、1982年に日産自動車「プレーリー」、翌1983年の三菱自動車「シャリオ」である。
それまでのワンボックスのボクシーなデザインでなく、乗用車に近いシャープなフォルムを採用し、5ナンバーサイズながらプレーリーは6人/7人/8人乗り、シャリオは6人/7人乗りが可能な多彩な3列シートを用意しているのが特徴だ。
エンジンを横置きにしたFFベースと4WDも設定し、アウトドアを楽しむ人たちから支持を集めた。ただし、1980年代後半は高級セダンや高性能スポーツが飛ぶように売れたバブル絶頂期、現在のような一般のファミリー層が日常的に使うミニバンではなかったので、ブームを作り出すほどの爆発的な人気は得られなかった。
一方トヨタには、1976年にデビューしたワンボックス型ながら乗用車のような快適性を追求した「タウンエース」があったが、あくまでビジネスユースが中心だった。
●“天才タマゴ”のキャッチコピーで登場した初代エスティマ
1990年のこの日、それまでのミニバンとは異なる新世代ミニバン「エスティマ」が、“天才タマゴ”のキャッチコピーとともにデビューした。
全体を曲面で構成したワンモーションの、まさに卵のようなスタイリッシュなフォルムと、広い3列シートおよびラウンディッシュなコクピットを配した近未来的なインテリアが大きな注目を集めた。
その斬新なスタイリングを実現したのは、独創的なパワートレインのレイアウトだ。従来のミニバンは、前輪の前にエンジンを搭載するのが一般的だったが、エスティマはセカンドシート下部の床下に、2.4L直4エンジンを傾斜させて搭載したミッドシップレイアウトを採用したのだ。駆動方式は、ミッドシップの後輪駆動とVCU(ビスカスカップリング)付フルタイム4WDが用意された。
販売開始とともに、アウトドア派だけでなく一般のファミリー層からも人気を獲得し、好調な販売を記録。ただし、3ナンバーの大きなボディに対する市場の抵抗もあったため、1992年には5ナンバーサイズの「エスティマ・ルシーダ/エミーナ」を追加した。
車両価格は、標準的な仕様で296.5万円(2WD)/324.5万円(4WD)。当時の大卒初任給は17万円程度(現在は約23万円)なので、単純計算では現在の価値で400万円/440万円、これは当時のカローラのトップグレードの2倍に相当する。
●他社からも追随、そしてオデッセイが登場
エスティマがパイオニアとなった新世代ミニバンの流れに他のメーカーも追随した。1991年に日産から「バレットセレナ」、1994に三菱から「デリカスペースギア」、そして3列シートを持っていなかったホンダからは、1994年に「オデッセイ」が登場した。
オデッセイは、エスティマ以上に乗用車的で、車高の低いスマートなデザインながら、3列シートの広い室内空間を確保し、デビューの翌1995年には販売台数12万台を超える空前の大ヒットを記録した。
さらに1997年に日産「エルグランド」、2002年にトヨタ「アルファード」が登場して高級ミニバンが人気を博したことから、エスティマの人気は徐々に右肩下がりとなってしまった。
最終的には、初代から30年続いたパイオニアのエスティマは、その役目を終え2019年に生産を終えた。
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もともと初代エスティマは、日本より先に北米市場でデビューしたという経緯がありながら、海外では少し小さかったので人気が得られなかった。そのため国内専用車になり、それが結果としてグローバル化の時代に合致しなくなり、車種整理の対象になってしまったのだ。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。