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新たな脅威、「極超音速兵器」とは
そもそも、これまでの迎撃ミサイル(SM-3、パトリオットPAC-3)は何のためのミサイルだったのだろうか? これらは「弾道ミサイル」を迎撃するためのミサイルだ。弾道ミサイルとは、大雑把に言えば「砲丸投げ」スタイルのミサイルだ。下のイラストを見ていただきたい。ロケットで大気圏外まで打ち上げて、ロケットの燃料が尽きたあとは、地球の重力に引かれて落ちてくるだけ。もちろん、目標地点に落ちるよう、ちゃんと計算して打ち上げるわけだが、単純な楕円軌道であることは迎撃に有利だった(ただし、最大マッハ20近い猛スピードで落下してくるので、対処可能時間は短く、命中させるのも決して簡単ではない)。
2010年代に入り、「極超音速兵器」が登場する。そのひとつが「極超音速滑空体(HGV)」だ。これは大気圏外まで高く打ち上げることなく、地球大気の上をマッハ6以上の高速で「水面を跳ねる小石」のごとく滑空する。しかも、複雑な経路を飛行することが可能で、どこに落ちるのかも、ギリギリまでわからない。
HGVは落下地点だけでなく、飛行高度も厄介だ。既存の迎撃ミサイルは宇宙空間用SM-3と、大気圏内(低高度)用PAC-3の組み合わせだったが、どちらもHGVが滑空する「空と宇宙の境界」あたりに適していないのだ。現在開発中の「GPI(Glide Phase Interceptor、滑空段階迎撃用誘導弾)」は、文字通り「滑空」段階でHGVを迎撃するためのミサイル(誘導弾)である。
既存のミサイルの「動きが鈍くなる」空間
では、なぜ既存の迎撃ミサイルはHGVの迎撃に適していないのだろう? 言うまでもないことだが「空と宇宙の境界」は、大気密度が薄い。そのため低高度用迎撃ミサイルが用いる翼による空力操舵は効きが悪く、一方で宇宙空間用迎撃ミサイルが用いるサイドスラスターは大気があることで効きが悪くなる。冒頭のオフィシャル・イラストを見たところ、サイドスラスターの噴射炎と小さな翼が確認できることから、GPIは両者を併用するものだとわかる。
また、防衛装備庁(日本)では、両者にTVC(推力ベクトル制御)を組み合わせた研究が以前に行われている。TVCとは、推力ベクトル(つまりエンジンノズルの方向)を変えて、進行方向を制御するものだ。冒頭イラストからは確認できないが、複雑かつ高機動のHGVに「直撃」するためには、こちらも必要となるのではないだろうか。
GPIはイージス艦に搭載される海上配備型の迎撃ミサイルであり、日本では陸上配備用迎撃ミサイルとして「HGV対処用誘導弾」の開発も並行して進められている。すでに、ロシアや中国はHGVを配備していると見られ、また北朝鮮も開発中だ。日本にとって差し迫った脅威であることは間違いないだろう。