目次
戦時には甲板上は完全なフラットに
「ALPV(Autonomous Low-Profile Vessel、自律型低視認性小型艇)」と呼ばれるこの半潜水艇は、隠密輸送用に開発された。全長は約55フィート(17m)で、海面上には船体のわずかな部分しか姿を出していない。船体後方に簡易な構造のマストがあり、航海用レーダーや他の船舶に存在を知らせるための船灯(航海灯)が取り付けられているが、これは平時の安全管理用で、実際の任務の際には折りたたまれるのだろう。
ALPVは完全無人の自律航行が可能だが、遠隔操作に対応しているようだ。今年初めにカリフォルニアで行なわれたテストでは、日本にいるオペレーターによって操縦されたという。船体後部には四角い板状のアンテナが付属しており、おそらくスターリンクの衛星通信アンテナだと思われる。
このような特殊なデザインの輸送艇のアイデアは、南米の麻薬組織が密輸に使う半潜水艇から着想を得たと海兵隊の高官が冗談まじりに語っており、「Narco-sub(麻薬組織の潜水艇)」とも呼ばれている。
海兵隊が取り組む輸送能力の無人化
さて、多数の輸送艦艇を持つアメリカ軍が、なぜ麻薬組織のような隠密艇を開発したのだろうか? それは将来の中国と軍事衝突を想定した場合、有人・大型の船舶が対艦ミサイル等の脅威に晒されると考えているからだ。
アメリカ海兵隊は、敵(中国)に先んじて重要な島嶼・海峡に地対艦ミサイル部隊を展開させ、中国海軍の動きを封じることを狙っている。また、探知技術の向上した現代の戦場において、大規模な部隊は敵に発見される危険性が高まると考え、小規模な部隊を分散配置することも考えている。
すなわち、戦闘地域に分散配置された部隊へ、目立たず物資を補給する必要があるわけだ。また、戦闘地域への物資輸送は、当然危険をともなうことになるため、有人よりは無人であることが好ましい。海兵隊ではALPVのほか、すでに輸送用ドローンの運用も開始しており、戦術輸送における無人化を進めている。
将来的には沖縄に配備
ALPVの輸送可能量は現時点では明らかにされていないが、「NSM対艦ミサイルは、2本を輸送可能」と公表されている。NSMは、海兵隊の無人地対艦ミサイル「NMESIS」で使用されるミサイルであり、前述した対中国の戦いで重要な意味を持つ兵器である。
今回の試験は、県民感情に配慮して「一時展開」と公表されているが、ALPVの役割を考えれば、将来的に沖縄に配備されることは間違いなく、実地での運用ノウハウを得ることが目的だと思われる。