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「いずも」型、戦後初となる「戦闘機母艦」へ
全長248mに達する「いずも」型護衛艦は、海上自衛隊最大の艦艇であり、対潜ヘリコプター母艦として2015年に1番艦「いずも」が、2017年に2番艦「かが」が就役した。2018年にF-35B戦闘機の運用能力が付与されることが決定し、両艦とも順次「空母化」改装を受けている。
「かが」は、2023年11月に改修を終え、もともと台形だった艦首甲板が、四角形に変わった。実は、2021年に甲板形状改装前の「いずも」艦上で、すでにF-35Bの発着艦試験が行なわれており、台形艦首でも運用できないことはない。ただし、台形艦首の場合、甲板左寄りに設けられた滑走部分が短くなり、甲板の最大長を活かせない。また、台形艦首には発艦時の気流の問題などがあるとも言われている。
さて、F-35Bはアメリカの最新鋭ステルス戦闘機F-35シリーズの「STOVL(短距離離陸・垂直着陸)」型であり、飛行甲板の短い「強襲揚陸艦」の上で運用するために開発された。日本では、通常型のF-35Aが航空自衛隊にすでに配備されており、F-35Bの導入も決定している。2個飛行隊 約42機が、新田原基地(宮崎県)に置かれる見込みだ。
「いずも」の役割は「戦闘機母艦」に限らない
さて、「いずも」型がF-35B運用能力を獲得することで、巷では今後「いずも」型が「空母(戦闘機母艦)」になることを期待する声が多いが、この点について筆者は、やや違う見方をしている。「いずも」型において、F-35B運用能力は「多様な能力のひとつ」であり、必ずしも「空母」にはならない。
冒頭でも述べたように、「いずも」型は対潜ヘリコプター母艦として誕生したが、潜水艦の脅威がなくなったわけではない。それどころか、中国の潜水艦戦力は増強傾向にあり、ますます対潜能力は必要とされている。今後は、従来の対潜ヘリコプターはもちろん、長時間滞空が可能な固定翼型対潜無人機なども含めた多様な対潜航空機が、「いずも」型で運用されるのではないだろうか。
では、42機も導入するF-35Bは「宝の持ち腐れ」なのか? それも違う。F-35BのSTOVL能力の利点は、単に短い飛行甲板で着発艦できることだけではない。この能力により、同機は小規模な滑走路や、(場合によっては)滑走路以外の場所でも運用できる「柔軟性」を持っている。特定の大型飛行場に依存しないことで、敵に狙われにくくなり、また、インフラが破壊された前線近くでも活動を継続することができる。
すでにF-35Bを配備しているアメリカ海兵隊は、こうした運用構想を「分散型STOVL作戦」と呼んでいる。広く散らばった島嶼を防衛する日本にとっても、有効な戦い方だ。F-35B運用能力を持つ「いずも」型には、前線近くでの整備・補給拠点の役割が期待でき、F-35B部隊を強力にバックアップする存在となってくれるだろう。