「技術の日産」は健在だ! クルマのキャラが激変する電動4WDの威力をアイスサーキットで実感【日産オーラNISMO tuned e-POWER 4WD】

飛行機に乗ってはるばる北海道へ。そこで待ち構えていたのは、日産の100%電動車...その中でもリヤにもモーターを搭載した電動4WD車の数々だ。安定志向からリヤハッピーな走りまで、クルマのキャラを自在に変えられる電動4WDの威力を、アイスサーキットでたっぷりと堪能した。

日産が誇る電動4WDを北海道で試乗。氷上での360度スピンターンも体感!?

北海道で開催されたメディア向けの『NISSAN WINTER 試乗会 2025』に参加した。新千歳空港にほど近いホテルニドムを起点に約16km離れたエビスアイスサーキットまではエクストレイルX e-4ORCE(イーフォース)エクストリーマーXを運転し、帰路はアリアNISMO B9 e-4ORCEに乗り換えた。ホテルの敷地内とサーキット周辺は圧雪、幹線道路はドライ/ウエットだった。

氷結した沼の上に圧雪が載った状態のアイスサーキットでは、エクストレイルAUTECH e-4ORCE Advanced PackageとオーラNISMO tuned e-POWER(イーパワー) 4WD、それにGT-R Premium edition T-spec(2024モデル)とフェアレディZ Version ST(MT)を乗り比べた。

アイスサーキットでは4台の4WDモデルを乗り比べた。左からフェアレディZ Version ST(MT)、GT-R Premium edition T-spec(2024モデル)、オーラNISMO tuned e-POWER(イーパワー) 4WD、エクストレイルAUTECH e-4ORCE Advanced Package。

ホテルの周辺に設定された1周約9kmの試乗コースを走る頃には雪が降り始め、行程の半分を占める幹線道路はアスファルトに新雪が積もった状態。残りの半分は深雪だった。新千歳空港発のANA便は雪の影響で多くが欠航、筆者らが利用する予定だったJAL便は欠航にならなかったものの出発は3時間半遅れと記せば、どれほどひどい降雪状況だったか想像がつくだろうか。

ホテル周辺の試乗コースでは、ノートAUTECH CROSSOVER FOURとセレナe-4ORCEハイウェイスターVに乗った。このうち、最新のセレナe-4ORCEについてはもったいぶらせていただき、別のレポートで報告する。

試乗の起点となったホテル周辺道路、およびアイスサーキットまでの往復路でも試乗を実施。セレナe-4ORCEハイウェイスターV、アリアNISMO B9 e-4ORCE、エクストレイルX e-4ORCE エクストリーマーX、ノートAUTECH CROSSOVER FOURを乗り比べた。

「e-POWER 4WD」と「e-4ORCE」は何が違う?

試乗会の趣旨は、電動4WDのありがたみを体感することだった。日産の100%電動駆動モデルには、BEV(バッテリー電気自動車)とe-POWERの2種類がある。e-POWERはエンジンを搭載するが発電専用で、エンジンで発電した電気でモーターを動かして走る。100%モーター駆動のため、応答性と制御性の高さが持ち味だ。

フロントだけでなくリヤにも高出力のモーターを搭載する電動4WDにも2種類あり、e-4ORCEとe-POWER 4WDがある。アイスサーキットで試乗したオーラNISMOはe-POWER 4WD、エクストレイルはe-4ORCEだった。

オーラNISMOは専用の内外装アイテムによるひと際スポーティな佇まいが特徴。試乗車は、2024年7月にマイナーチェンジを行なった際に初の4WDグレードとしてラインナップに加わった「tuned e-POWER 4WD」。
エクストレイルAUTECH e-4ORCEは、日産のカスタマイズブランドであるオーテックが内外装をドレスアップ。大径の20インチアルミホイールはラインナップで唯一の採用となる。試乗車はナビやヘッドアップディスプレイ、プロパイロットパーキングなどを装備したNissanConnectナビゲーションシステムやヘッドアップディスプレイのほか、プロパイロットパーキングなどを装備したAdvanced Package。

「あらゆる路面やシーンで、より快適で安心感を高められる技術」である点は共通しているが、技術的にはe-POWER 4WDの上位にe-4ORCEが位置付けられる。

e-POWER 4WDは前後モーターのトルクとブレーキを個別に制御しているが、e-4ORCEは前後モーターとブレーキをシャシーコントロールECUで協調制御している。e-4ORCEには油圧と回生ブレーキの配分を制御する協調回生ブレーキが適用されているが、e-POWER 4WDには適用されていないといった違いもある。

e-4ORCEのe-POWER 4WDに対する優位点は制御の速さだが、ことエクストレイル(e-4ORCE)対オーラNISMO(e-POWER 4WD)の対比でいえば、オーラNISMOのほうが圧倒的に軽い(1890kgのエクストレイルに対しオーラNISMOは1390kgで、500kg軽い)ため、制御の違いが明確な動きの差になって現れない。車重が圧倒的に軽いオーラNISMOは慣性がエクストレイルほど大きくないので、e-4ORCEほど制御が速くなくても充分に電動4WDの価値が享受できる(重いクルマほど、速く制御して動かしたり、止めたりしたい)。

エクストレイルAUTECH e-4ORCEは発電専用として1.5L直列3気筒ターボエンジン(144PS&250Nm)を搭載。フロントモーター(204PS&330Nm)とリヤモーター(136PS&195Nm)で前後輪を駆動する。
オーラNISMO tuned e-POWER 4WDは発電専用として1.2L直列3気筒エンジン(82PS&103Nm)を搭載。フロントモーター(136PS&300Nm)とリヤモーター(82PS&150Nm)で前後輪を駆動する。オーラの4WDモデルよりもリヤモーターの出力が14PS&50Nm大きくなっているのが特徴だ。

フロントとリヤのモーターのトルクとブレーキを走行状態に応じて適切に制御することにより、時々刻々と変化する各輪の能力をフルに生かすのが、e-4ORCEとe-POWER 4WDの特徴。そのありがたみは、Zのような後輪駆動のクルマに乗るとわかりやすい。

Zの場合、すべりやすい雪上のような路面では、後輪がグリップ限界を超えるとお尻を振り出し、進みたい方向に進まなくなる。少しでもラフなアクセル操作をしようものなら、即座にスピンモードに陥る。乾燥舗装路での卓越したパフォーマンスを知っているだけに、もどかしい思いがする。

フェアレディZは3.0L V6ツインターボを搭載。405PS&475Nmはリヤの2輪に伝えられるが、グリップの低い雪上ではパワーを持て余してしまい、そのポテンシャルをフルに発揮するのは難しい。

もどかしさは後輪駆動ベースの4WDシステムを搭載するGT-Rも同様だ。GT-Rの場合は本来であればもっと高いペースで周回することができたと思うが、当方のスキルが足らずにポテンシャルを引き出せなかった気がする。思い通りに扱うことができなかったのが、もどかしさにつながった大きな理由だ。

GT-Rの3.8L V6ツインターボは570PS&637Nmを発生。ヨーレートフィードバックE-TSコントロールシステムにより前後トルク配分はきめ細かく制御されるが、雪上を安定してハイペースで走るにはそれなりのスキルが必要だ。

氷上でも不安なしで走れるエクストレイルe-4ORCE

e-4ORCEはハンドル操作に応じて素早く後輪の駆動力配分を増やし、旋回性を高める。アクセルペダルを踏み込むと遅れなく駆動力が高まり、タイヤのグリップ限界をシステムが把握しつつ、限界内でコントロールする。限界を超えそうになったら、車速が落ちないように駆動力を高めつつ、内輪にブレーキをかけてクルマが自転する動きをつくり、狙いどおりのラインをトレースする方向に制御する。

e-4ORCEを適用したエクストレイルの走りは、完全に安定志向だった。ヒヤッとするようなスピンモードに陥ることはない。不安定な姿勢になる前に制御が介入し、安定方向に導いてくれる。振り回して遊びたい向きには制御の介入がおせっかいに感じられるかもしれないが、安心と安全のためだ。

前後輪に個別のモーターを配置し、駆動力配分は100対0から0対100まで自在に制御可能。ブレーキも含めた統合制御を実施することで、機械式4WDでは不可能なレベルのハンドリング性能を実現している。

公道で試乗したアリアNISMO B9 e-4ORCEは、e-4ORCEの制御うんぬんよりも、エクストレイルに比べて格段に快適な乗り心地が印象に残った。オフロードまで視野に入れたエクストレイルの仕立てと、オンロードに軸足を置いたアリアのキャラクターの違いによるシャシー&サスペンションの仕立ての違いが、乗り味の違いに影響を与えているようだ。

アリアe-4ORCEをベースに最高出力を290kWから320kWにパワーアップ。さらにアクセルを踏み込んだときのレスポンスを最大化するNSIMOモードの採用、前後サスペンションやスタビライザーの専用チューニングといった変更が加えられている。

乗りこなせば楽しさ満点の「NISMO」モード

オーラNISMO tuned e-POWER 4WDにはNORMAL、ECO、NISMOの3種類のドライブモードが用意されている。ECOは「アクセルオンで常にアンダーステア(運転に不慣れでも安心)」、NORMALは「アンダーステアが抑制され、ライントレース性が向上」、NISMOは「アクセルで自在に向きを変えられる。ドライ路面でアクセル全開旋回が可能」な設定だ。最高出力60kW、最大トルク150Nmを発生する後輪の駆動力はECO→NORMAL→NISMOの順に強くなっていく。

オーラNISMO tuned e-POWER 4WD
12.3インチの大型液晶メーターが先進感を醸し出すオーラNISMOのコクピット。ドライブモードの切り替えはシフトセレクターの横のスイッチで行なう。

アイスサーキットでの試乗ではNORMALとNISMOモードを選択し、回生ブレーキが強くなるBレンジで走った。Bレンジを選択するとアクセルオフでの前荷重がつくりやすい。さらに、NORMALモードのBレンジで、VDC(横滑り状態を判別し、ブレーキやモーター出力制御で挙動を安定化させるシステム)のオン/オフを試した。NISMOモードではVDCをオフにして走った。

ドライブモードは3種類。「NISMO」モードに切り替えると、アクセルレスポンスが俊敏になり、後輪駆動力も強まる。

オーラNISMOの動きも基本的にはエクストレイルと同じで安定志向だ。ただし、フロントで引っ張る印象が強いエクストレイルに対し、オーラNISMOはリヤで路面を蹴っている感覚が強い。リヤがブレイクする素振りを見せるとVDCが介入し、横滑りを抑え安定方向に動きを修正してくれる。

VDCをオフにすると制御の介入がなくなるので、振り出したリヤはそのまま流れ始める。ただ、前後のモーターの駆動力を小まめに制御している(と聞いた)ためか、不安感をあおるような動きではなく穏やかで、ほどよい感じである。速さには結びつかないかもしれないが、意図的にお尻を振り出して向きを変える後輪駆動ベース車的な操る楽しさが味わえる。

「NORMAL」モード+VDCオンの組み合わせでは安定志向。VDCをオフにするとリヤを振り出す後輪駆動のような挙動を見せ、操る楽しさが増す。

もっと極端なのはNISMOモードだ。切り換えた途端にスピンした。華麗な(?)360度ターンになったのは結果論である。乾燥舗装路でパイロンスラロームに臨むとタイトなS字ラインを描いて俊敏にクリアする動きを披露する(テストコースで体験している)。NISMOモードはドライのタイトコーナーで真価を発揮するつくりになっているため、すべりやすい雪上ではリヤの駆動力が過多になりがちで、デリケートなアクセルワークが求められる。リヤハッピーの走りを自分のものにすると、もっと楽しめそうな気配を感じた。

「NISMO」モードにすると、クルマの挙動は一変。アクセルを少しラフに踏むと右に左にとクルマが流れ出すが、それを利用してクルマの姿勢を変化させることも可能。それにはドライバー側に相応のテクニックが求められるが…。とにもかくにも、ここまでハンドリングを変化させられるのは電動4WD車ならではだ。

同じe-POWER 4WDでも、ノートAUTECH CROSSOVER FOURはより安心・安定志向だ。路面を問わず(雪道だけでなく乾燥舗装路でも)、安心した走りを提供するのが日産電動4WDの価値。クルマのキャラクターに合わせて快適志向を強めたり、走りの楽しさを強調したりしている。そのことを、冬の北海道で確認することができた。

オーラNISMO tuned e-POWER 4WDの開発に携わった成富健一郎さん(日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社 NISMO CARSプロジェクト統括グループ カスタマイズプロジェクト統括部 アシスタントチーフビークルエンジニア/主担)と富樫寛之さん(日産自動車株式会社 車両計画・車両要素技術開発本部 車両計画・性能計画部 車両統合運動性能計画グループ 主管)。
日産ノート オーラNISMO tuned e-POWER 4WD
全長×全幅×全高:4120mm×1735mm×1505mm
ホイールベース:2580mm
車両重量 1390kg
車両総重量 1665kg
Fサスペンション:独立懸架ストラット式
Rサスペンション:トーションビーム式
駆動方式:4WD
【発電用エンジン】
形式:DOHC水冷直列3気筒
型式:HR12DE
排気量:1198cc
ボア×ストローク:78.0mm×83.6mm
圧縮比:12.0
最高出力:82ps(60kW)/6000pm
最大トルク:103Nm/4800rpm
燃料供給:EGI
燃料:無鉛レギュラー
燃料タンク:36ℓ
【Fモーター】
型式:EM47
種類:交流同期電動機
最高出力:136ps(100kW)/3183-8500rpm
最大トルク:300Nm/0-3183rpm
【Rモーター】
型式:MM48
種類:交流同期電動機
最高出力 82ps(60kW)/3820-10024rpm
最大トルク:100Nm/0-3820rpm
動力用主電池 リチウムイオン電池
価格:347万3800円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…