ホンダ・ヴェゼル 「なんだよ、いいじゃないかよ」e:HEVのFFと4WD、ガソリンモデルのGを公道で試す

ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(4WD)車両価格○311万8500円
人気のホンダ・ヴェゼルを試乗した。売れ筋のe:HEVのZとその4WD、そしてリーズナブルな価格が魅力のガソリン車、G(FF)である。販売好調の新型ヴェゼル、その実力は?
TEXT & PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)PHOTO◎Motor-Fan

実物を見ると「なんだよ、いいじゃないかよ」となる

「なんだよ、いいじゃないかよ」というのが、新型ホンダ・ヴェゼルの“実物”を見たときの第一印象だった。2月にワールドプレミアされた際、ディスプレイ上で新型の姿を見たときは、当時SNS界隈で騒がれたように、既存の国産SUVの前と後ろを足したような、没個性的なルックスに感じられた。「ホンダよ、一体どうしたんだ?」と。

実物を見て印象が一変したのは筆者だけに限らないようで、4月23日の発売開始後、店頭に実物が並ぶようになってからは、ポジティブな声が増えているという。新型ヴェゼルに対して当初ネガティブな印象が多かった理由を、担当デザイナーは次のように分析する。

「先代から大きくイメージを変えたのが、理由のひとつ。(新型は)見たことのないグラフィックなので、三次元的にどういう形状をしているのか、想像しづらかったのだろうと思います。実際にクルマを見ていただくと、『こういう形だったのか』と理解していただける。そうすると、『意外となじんでいるね』と、そういっていただける方が多い」

ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(FF)

全長×全幅×全高:4330mm×1790mm×1590mm ホイールベース:2610mm
トレッド:F1535mm/R1540mm 最低地上高:195mm
車両重量:1380kg 前軸軸重850kg 後軸軸重530kg

先代と新型でデザインの手法が異なることもネガティブな方向に作用してしまったようだ。先代ヴェゼルは、当時のホンダ車の多くがそうだったように、キャラクターラインが明確で、二次元でも表現したいことをおおよそ理解することができた。新型ヴェゼルはホンダの新しいデザインの方向性を示しており、三次元(立体)で確認して初めて、デザインの意図を汲み取ることができる。

「(新型ヴェゼルは)クリーンでシンプルなデザインとしています。しかし、ただシンプルだと素っ気なくなってしまうので、シーンごとにいろんな表情を感じてもらえるような面のコントロールをしています。アグレッシブなデザインにすると存在感は増しますが、生活のシーンのなかでクルマが浮いてしまうきらいがある。新型ヴェゼルはそういう方向ではなく、生活のなかでより身近に感じていただけるパートナーのような存在にしたい。そういう思いでデザインしました」

最小回転半径:5.5m ブレーキ:Fベンチレーテッドディスク/Rディスク

二次元で見るより、実物は上品で、上質だ。スタイリッシュでもある。写真では大きく見えたし、実物も存在感はあるが、実際は先代と同等で、4330mmの全長に変化はない。車両サイズで分類すればヴェゼルはBセグメントに属する。しかし実物はひとクラス上のクルマに見える。その印象は、乗り込んでも変わらない。

室内長×幅×高:2010mm×1445mm×1225mm
室内長×幅×高:2010mm×1445mm×1225mm
後席の広さには驚かされた。前席に身長183cmの男性が座った後席に身長175cmの男性が足を組んで座れた。

後席に乗ってみて驚いた。抜群に広く、足元や膝まわりの余裕っぷりが印象的だ。新型ヴェゼルには前席乗員用にUSBソケットを2つ備えるが、後席にも2つある。シートバックには、ケーブルをつないだスマートフォンをしまっておけるポケットがついている。空調の吹き出し口もあって、カップホルダーを備えたアームレストもある。空間的に余裕があるだけでなく、使い勝手もいい。

先代ヴェゼルの後席は2段階のリクライニング機構がついていた。角度は25度と27度だ。ユーザー調査をしてみると、一度角度を決めたら動かさないユーザーが多いことがわかった。そこで、新型ヴェゼルでは2段階リクライニングをやめ、27度の固定にした。シートバックを寝かせると荷室スペースが犠牲になるが、「載せたい物はしっかり載る配慮はした」という。後席の着座位置は先代比で30mm後ろにずらしたことにより、膝まわりの余裕を生み出している。18mm低くしたのは、低くなった全高に応じてヘッドクリアランスを確保するためだ。

「長時間乗っても快適に過ごしていただける空間を作りたい」という思いから、新型ヴェゼルでは前席のパッケージングも変えた。SUVはアップライトに座らせることが多いが、新型ヴェゼルでは乗用車ライクな座らせ方になっている。実際に腰を下ろしてみところ、シートの出来の良さに感心した。腰回りの押さえがしっかりしているため、体の軸がぶれにくい。だから、肩や腕は自由に動く。(長時間は運転していないので断言できないが)疲れにくく、リラックスした状態で過ごせる印象だ。

インフォメインメント系の進化も著しい。スマートフォンを繋がなくてもAWAで音楽が愉しめる。音質も高レベルだ。

気になったのは視界だ。立ったAピラーが手前にあって左右の視認性が高いのはとてもいい。ワイパーが視界の邪魔をしないのも好印象だ。いっぽうで、視界に入り込んだサンバイザーがわずらわしく感じる。人一倍座高が高い筆者に固有の問題かと思いきや、意見を求めてみるとそうでもないらしい。開発エンジニアは「そこは意志が入っています」と答えた。

「新型ヴェゼルのコンセプトを一番表現できているのは、ガラスルーフを装備したPLaYです。ガラスルーフを装備しても空を感じられなければ、価値はありません。運転姿勢をとったときの人間の視野角は(上下方向に)50度ほどです。その50度の範囲に空が見える位置にガラスルーフをもってきました」

全高が15mm低くなったことと、長めのノーズと水平基調のデザインで伸びやかな印象に生まれ変わった。

ガラスルーフで空を感じてもらうためにルーフが前に伸び、その結果として視界に干渉するようになったということだ(感じ方に個人差はあるだろうが)。いじわるな言い方をすれば、クローズドルーフのオーナーには関係のない話である。フォローしておくと、交差点で信号が見えづらいというような、運転上の不都合は感じなかった(そこはもちろん、設計の際に配慮している)。

ステアリングの操作(軽すぎず、しっかりとした手応えがある)に対するクルマの動きはおだやか。
キャプション入力欄
キャプション入力欄

実物の新型ヴェゼルは上品で上質で、ひとクラス上に感じると前述したが、それは乗り味についてもいえる。ステアリングの操作(軽すぎず、しっかりとした手応えがある)に対するクルマの動きはおだやかだ。といって、動きが鈍いわけではない。イメージしたとおりに反応し、動いてくれる。クルマを操る行為が気持ち良く感じられるクルマだ。では、走りに振ったキャラクターかというとそんなことはなく、ザラザラした路面であっても、うねりであっても、突起であっても穏やかにいなして乗員に不安や不快感を抱かせない。後席は空間的な心地良さだけでなく、乗心地も好印象だった。

試乗はできなかったが、こちらがガラスルーフモデル。確かに開放感がある。

AWDモデル、ノンe:HEVのガソリンモデルは?

ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(4WD)

FFと4WDの価格差は22万円(4WDモデルの方が高い)。FFと4WDの重量差は70kg(4WDの方が重い)
全長×全幅×全高:4330mm×1790mm×1590mm ホイールベース:2610mm 車両重量:1450kg 前軸軸重870kg 後軸軸重580kg

AWDはフロントのエンジン、もしくはハイブリッドシステムの動力を分配し、プロペラシャフトを通じて機械的にリヤに伝える仕組みだ。発進時からしっかり後輪にトルクを伝えるため、2WD(FF)仕様と乗り比べると発進後すぐ、後輪でも路面に駆動力を伝えているからこその安心感を味わえる。揺れの大きな電車のなかで片足だけでバランスをとるのと、両足でしっかり踏ん張るのでは安定感と安心感が違う。2WDとAWDはそれくらい決定的な差がある。

4WDは、電気モーターをリヤに積むのではなく、コンベンショナルなカップリング式。

e:HEV (1.5ℓ直4DOHC+H5モーター

エンジン形式:直列4気筒DOHC+e:HEV(i-MMD) エンジン型式:LEC 排気量:1496cc ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm 圧縮比:13.5 最高出力:98ps(72kW)/5600-6400rpm 最大トルク:127Nm/4500-5000rpm 過給機:× 燃料供給:PFI 使用燃料:レギュラー フロントモーター:H5型交流同期モーター 最高出力:131ps(96kW)/4000-8000rpm 最大トルク:253Nm/0-3500rpm

G(1.5ℓ直4DOHC+CVT)

エンジン形式:直列4気筒DOHC エンジン型式:L15Z 排気量:1496cc ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm 圧縮比:10.6 最高出力:118ps(87kW)/6600rpm 最大トルク:142Nm/4300rpm 過給機:× 燃料供給:PFI 使用燃料:レギュラー 燃料タンク容量:40ℓ
ガソリンモデルのトランスミッションはCVTを採用。ギヤ比:2.526~0.408(FF)2.706~1.432(4WD) 最終減速比は5.436(FF)前5.436/後2.533(4WD)

ガソリンエンジン仕様の軽快感も魅力(e:HEV=ハイブリッドに対し100〜150kg軽い)だが、ヴェゼルらしさをより体現しているのはe:HEVだ(バリエーションも豊富だし)。実際、事前受注開始後2ヵ月(約2万9500台を受注)の比率を整理すると、e:HEVが93%を占めるという。圧倒的な支持だ。ハイブリッドシステムは2020年にモデルチェンジして新型に移行したフィットと基本的に同じで、主に車重増に対応して走行用モーターの出力とバッテリー容量を引き上げている。

ホンダ・ヴェゼル G(FF)

全長×全幅×全高:4330mm×1790mm×1580mm ホイールベース:2610mm 車重:1250kg
トレッド:F1545mm/R1550mm 最低地上高:185mm
車両重量:1250kg 前軸軸重780kg 後軸軸重470kg
車重はe:HEVより130kg軽い
室内長×幅×高:2010mm×1445mm×1225mm

裏を返せばプラスアルファの上乗せはしていないということで、動力面に限っていえばフィットのハイブリッドと同等。必要充分の域を出ない。「もうちょっと力に余裕があったらな」と感じずに済むかどうか、ギリギリのところだ。大きな力を必要としないシーン、例えば、街なかを低い側の車速域でコンスタントに走るような状況では、エンジンをかけず、バッテリーに蓄えた電気エネルギーでモーターを駆動して走る状況が多いため、静かで上質だ。

ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(FF)タイヤサイズ:225/50R18 ミシュラン PRIMACY4
ホンダ・ヴェゼル G(FF)タイヤサイズ:215/60R16 ヨコハマ エナセーブEC300

バッテリー残量が少なくなったり、大きな力を要求したりした際はエンジンが始動して発電用モーターを動かし、バッテリーからの電力を合わせて要求に合致した力を出す。エンジンがかかっていない状態からかかった状態の変動感は「抑えた」との説明だが、最新の国産ハイブリッド車と比べてもエンジンがかかった際のがっかり感は強く、もう少し存在感を抑えてほしいと感じた。ただ、それが新ヴェゼルの魅力をすべて台無しにしてしまうほどではない。欲を言えば、というレベルで、欲を言いたくなるくらい新型ヴェゼルはいい出来である。

ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(FF)

ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(FF)
全長×全幅×全高:4330mm×1790mm×1590mm
ホイールベース:2610mm
車重:1380kg
サスペンション:Fマクファーソン式 Rトーションビーム式
駆動方式:FF
エンジン形式:直列4気筒DOHC+e:HEV(i-MMD)
エンジン型式:LEC
排気量:1496cc
ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm
圧縮比:13.5
最高出力:98ps(72kW)/5600-6400rpm
最大トルク:127Nm/4500-5000rpm
過給機:×
燃料供給:PFI
使用燃料:レギュラー
フロントモーター:H5型交流同期モーター
最高出力:131ps(96kW)/4000-8000rpm
最大トルク:253Nm/0-3500rpm

バッテリー:リチウムイオン電池(60セル)
燃料タンク容量:40ℓ

WLTCモード燃費:24.8km/ℓ
 市街地モード24.5km/ℓ
 郊外モード26.7km/ℓ
 高速道路モード23.8km/ℓ
車両価格○295万9000円

ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(4WD)

ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(4WD)
全長×全幅×全高:4330mm×1790mm×1590mm
ホイールベース:2610mm
車重:1450kg
サスペンション:Fマクファーソン式 Rド・ディオン式
駆動方式:4WD
エンジン形式:直列4気筒DOHC+e:HEV(i-MMD)
エンジン型式:LEC
排気量:1496cc
ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm
圧縮比:13.5
最高出力:98ps(72kW)/5600-6400rpm
最大トルク:127Nm/4500-5000rpm
過給機:×
燃料供給:PFI
使用燃料:レギュラー
フロントモーター:H5型交流同期モーター
最高出力:131ps(96kW)/4000-8000rpm
最大トルク:253Nm/0-3500rpm

バッテリー:リチウムイオン電池(60セル)
燃料タンク容量:40ℓ

WLTCモード燃費:22.0km/ℓ
 市街地モード21.8km/ℓ
 郊外モード23.7km/ℓ
 高速道路モード21.1km/ℓ
車両価格○311万8500円

ホンダ・ヴェゼル G(FF)

ホンダ・ヴェゼル G(FF)
全長×全幅×全高:4330mm×1790mm×1580mm
ホイールベース:2610mm
車重:1250kg
サスペンション:Fマクファーソン式 Rトーションビーム式
駆動方式:FF
エンジン形式:直列4気筒DOHC
エンジン型式:L15Z
排気量:1496cc
ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm
圧縮比:10.6
最高出力:118ps(87kW)/6600rpm
最大トルク:142Nm/4300rpm
過給機:×
燃料供給:PFI
使用燃料:レギュラー
燃料タンク容量:40ℓ

WLTCモード燃費:17.0km/ℓ
 市街地モード21.8km/ℓ
 郊外モード12.8km/ℓ
 高速道路モード17.7km/ℓ
車両価格○311万8500円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…