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大いに売れた3代目ベルランゴ
日本におけるシトロエンのイメージを大きく変えたのがベルランゴ。それまで「ちょっとこだわりの変わった人」が乗るイメージだったシトロエンを、「アウトドアも大好きなアクティブでおしゃれな人」も乗るようになったのが、2018年に登場し、2020年に日本上陸した3代目となるベルランゴだ。ベルランゴのお陰でシトロエンの日本での販売台数は過去最高を記録したという。

僕はそんなベルランゴに4年ほど乗ってきたが、昨年マイナーチェンジした新型ベルランゴがリリースされたので、前期モデルオーナーとしては非常に気になっていた。そこでさっそく試乗し、その違いや進化をお届けしよう。
まずは外観。ボディカラーは「ブルーキアマ」というつや消しのように見えるくすんだ青。もうひとつのカラー「グリーンシルカ」とともに、流行に敏感な層が、自然に溶け込むような、あるいはクルマらしからぬカラーとして選ばれそうな予感。

もっとも大きく変更されたのはその顔つきで、現代のシトロエン顔のラインに組み込まれた形だ。フロントグリルセンターに配されるダブルシェブロン(シトロエンはその昔、こういう歯の形を持つ特殊なギヤを作っていた)のエンブレムは大きく丸で囲んだ新しいアイコンとなった。数年前から主に欧州各社が採用する立体感を持たせないデザインだ。



全長×全幅×全高=4405(ロング:4770)×1850×1850mm。なお、試乗したショートボディの2列/5名乗車が439万円、ロングボディの3列/7名乗車が457万円だ。
写真で確認していた頃は、ずいぶん不思議なデザインで違和感の塊と思っていた。しかし、ある程度見慣れてきたせいか、実車を目の前にすると、意外なほどすんなりと受け入れられる。むしろ旧モデルが個性的すぎて新型が素直なデザインに思えてきた。というか、旧モデルは充分以上に、個性的なマスクで、それが良かったとも言えるかも知れないけど、マジョリティーではなかったかも知れない。いずれにしても、見慣れれば愛着を感じるものだった、と言える。
機能的にも、前期モデルではハロゲンだったヘッドライトがやっとLEDになった。LEDの明るく白いライトに一度慣れてしまうと、ハロゲンライトでは点灯しているのを疑うほど。今回、夜間も走行する機会があり、これは明らかに前期モデルに対してアドバンテージを感じた。

細かな部分では、ベルランゴの特徴でもあるフロントバンパーやサイドモールの黒い樹脂部分にカラーアクセントがあり、アクセサリーで色を変えたり、特別仕様車には色違いが装着されたりしているが、この形状が、前期モデルのカド丸長方形だったものが、シンプルな直線のみに変わった。新世代のシトロエンが直線をテーマにしているのがわかる部分でもある。
大きくアップデートされた内装と装備群
インテリアではインスツルメントパネル周りが大きく変更されている。

まずわかりやすいのがステアリングが「丸」でなくなったこと。円形を上下から潰したような長円形状となった。見た目には不安もよぎるが、実際に運転した時のステアリング操作では丸でないことを忘れてしまうほどに違和感はない。もちろん、乗降時に自分の腿がステアリングにぶつかりにくくなり、乗降性の向上というメリットにつながった。また、この長円ステアリングにはヒーター内蔵となったのも大きな進化。これは、本国では内燃機関よりも暖房面で不利になるBEVモデルが登場したことからのお裾分けによる恩恵か。いずれにしても、前期モデルオーナーにはLEDヘッドライト同様に羨ましい装備だ。
インフォテインメントについても大幅にアップデートされている。

まず、メーターはアナログの針がなくなり、フルデジタル液晶パネルとなった。これにより、表示パターンは大きく分けて4種類から選択でき、これには後述する進化したACC(アダプティブクルーズコントロール)作動状態を大きく表示するモードが元来得意とするロングドライブをさらに楽にしてくれるのに役立ってくれることだろう。

また、センターコンソールのタッチスクリーンパネルは8インチから10インチにサイズアップしただけでなく、表示についてもアップデートされた。AppleCarPlay/Android Autoなどを使用する前提(もちろん、使わなくても構わないが)のようで、以前はオプション設定されていた「タッチスクリーン専用ナビ」は選べなくなっている。


その他、ダイヤル式のシフトセレクターがレバー式に、USB接続がTYPE-Cへと進化。6スピーカーのオーディオシステムはスペックの変化や進化したとの記述はないが、その音が良くなった気がした。センターユニットとともにDSP処理の進化などで、改善されているかも知れない。特に低域がしっかりと出るように感じられる。「趣味はカーオーディオです」と言い切れる位のマニアでなければ、純正オーディオの音に不満はまず感じないはずだ。
後席は3座席とも独立した形状で、それぞれ荷室から座面もフォールダウンしながら前に倒すことでフルフラットな床面を作ることができる。また助手席もシートバックを完全に倒すことで、かなりの長い荷物を収納できる。この辺は前期モデルと変わっておらず、相変わらずの使い勝手の良さを感じさせる。また前期モデル同様、リヤゲートはガラスハッチのみでも開閉できることが大きな利便性をもたらしてくれる事は、オーナーであれば何度も感じることだろう。




走りに関しては大きく変わっていた

一番意外だったのは、スペックシートや発表リリースには書かれてなかったものの走りががらりと変わっていたことだ。1.5Lディーゼルターボエンジンはピックアップも良くなり、よりパワフルに感じられた。またアイシン製の8速ATはプログラムが進化したようで、アクセル操作と走行状況によって、より頻繁なシフトチェンジを適切に行ってくれるのを感じる。特に、下り坂や信号停止直前のアクセルオフでは、こまめにシフトダウンしているのが明確にわかった。

実は最も大きく変化を感じたのは、その乗り味。前期モデルはボディをフラットに保つようなシトロエンらしい動きが特徴であったが、新型ではノーズダイブやロールの出方など、「自然な動き」に変わったと感じられる。ブレーキも同様で、注意しないと「がくん」と効かせてしまうシトロエンらしいブレーキだったが、これも一般的なブレーキタッチに変化していた。
また、大きな進化はACCだ。前期モデルでも装備されていたが、制御が細くなり渋滞から高速走行まで今度はほぼ任せられるようになった。完全停車時も3秒以内であれば、自動再スタート機能が働いてくれる。唯一あと一歩だったのは完全停止時のカクンという戻り。車両の電子制御において止まる直前に、ブレーキをちょっとだけ抜くと言うのは、技術的あるいは安全上難しいのかもしれない。
また、LPA(レーンポジションアシスト)が追加された。車線内を維持するようにし、ステアリング操作を行ってくれるだけでなく、斜線内の右寄り、あるいは左寄りといったポジションも選べる。実用度はかなり高かった。

一見すると、顔が変わった程度のマイナーチェンジに思えたが、実はすべてにおいて機能面もセッティングでも大きな変化が見られた新型ベルランゴ。実は国内では在庫に限り、まだ前期モデルも新車で買える台数をわずかに残していると言う。しかし余程のモノ好きあるいは相当に大きな価格差でなければ、そちらを選ぶ理由はまずないと言っていいだろう。それくらい新型は最新の水準に達したADASと、一般的な乗用車の走り味に進化していると言い切れるだろう。前期モデルオーナーとしても、少し悔しい思いがした、と付け加えておこう。
シトロエン・ベルランゴMAX XTR BlueHDi
全長×全幅×全高:4405mm×1850mm×1830mm
ホイールベース:2785mm
車重:1600kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式/Rトーションビーム式
駆動方式:FF
エンジン
形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
排気量:1498cc
ボア×ストローク:75.0mm×84.8mm
圧縮比:16.4
最高出力:130ps(96kW)/3750pm
最大トルク:300Nm/1750rpm
燃料供給:DI
燃料:軽油
燃料タンク:50L
燃費:WLTCモード 18.1km/L
市街地モード14.5km/L
郊外モード:18.2km/L
高速道路:20.2km/L
トランスミッション:8速AT
車両本体価格:439万円