【自腹で購入】普通充電だけでEVに乗れるのか、自動車コラムニストが人柱になって実証する?

王道からちょっと外れた視点でモビリティ業界の今昔を伝えることで知られる自動車コラムニスト・山本晋也さんが、人生2台目のBEV(電気自動車)として「フィアット500e」を購入したという。カタログスペックの一充電走行距離は335kmと、いまどきのBEVとしては心もとない性能にも見えるフィアット500eを選んだ理由はどこにあるのだろうか。

PHOTO&REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)

全長3.6mでバッテリー総電力量42kWhのパッケージングに惚れた

小生がBEVを愛車に迎え入れようと考え始めたのは、2024年の暮れごろ。そのきっかけはガソリン価格が上昇していたこと。多少の上下動はあっても大きくは価格上昇トレンドが続くであろうと予想すると、そろそろBEVに”戻った”ほうが得策では? と考えたからだ。

2024年式フィアット500eの中古車を400万円ほどで購入したという。

BEVに戻る、と記したのは、過去に初代リーフ(30kWhモデル)を所有していたことがあるから。その際に経験した経済性を思い出せば、自宅での基礎充電をメインとしてBEVを運用すれば移動コストを抑えることもできるだろうし、なにより暫定税率によって増税が続くガソリン諸税から解放されたいという思いもあった。

30kWhのバッテリー、実質的な一充電走行距離200kmという初代リーフであっても、マイカーが近距離移動の手段となっている小生においては、とくに問題なく運用できていた。その経験から、BEVに過剰な航続性能(大きすぎて重いバッテリー)は不要であると肌で感じていた。

日産の初代リーフ。2010年に世界初の量産型電気自動車として登場した記念すべきモデルだ。

そんなこともあり人生2台目のBEVとして最初は軽自動車を考えていたが、結果的にフィアット500eになったのは、BEVとしてのパッケージングの見事さに惚れてしまったゆえ。

なにしろ全長3630mm・全幅1685mmという非常にコンパクトなボディながら、バッテリー総電力量42kWhを実現しているというだ。さほど全長の変わらない軽BEVでせいぜい30kWh足らずのバッテリーを積むのが精いっぱいであることを考えると、BEVムーブメントの発信地である欧州が生んだコンパクトBEVはひと味違いそうで、その味を日々の生活で感じてみたいと思ったのだ。

EVは自宅での普通充電が大前提、急速充電はエマージェンシー

フィアット500eの充電ポートは北米仕様のCCS1規格。日本の急速充電CHAdeMOにつなぐには専用アダプターが必要だ。

自動車メディア業界の知人にフィアット500eを愛車として迎え入れたことを伝えると「それは冒険だね」や「急速充電はどうするの?」と聞かれることも多い。

BEVに詳しい方であればご存知のように、フィアット500eの充電ポートは北米仕様のCCS1規格となっている。普通充電については日本でスタンダードとなっているJ1772規格がそのまま使えるが、急速充電「CHAdeMO」を利用するにはハンディ掃除機よりも巨大な専用アダプターを使わねばならず、しかも専用アダプターは急速充電器との相性問題もあるといわくつきの代物なのだ。

だが、それはけっして大きな問題にはならないと考えた。

その理由は、基礎充電と呼ばれる自宅や職場での普通充電だけで運用することを前提としているから。

冒頭、かつて初代リーフに乗っていたことに触れたが、その際は日産の提供する充電サービス「ZESP2(ゼロエミッションサポートプログラム2)」を利用していた。このサービスで使い放題プラン(税込み2200円/月)を選ぶと、日産ディーラーはじめ全国各地の急速充電器が使い放題になった。しかし、個人的には2200円で充電し放題というプランでさえ不要というのが当時の感想だった。

電費というのは車種や乗り方によって異なるが、コンパクトBEVであれば7~10km/kWhになるのが筆者個人の経験則。普通充電だけで運用する前提で試算すると1kWhあたりの電気料金はおよそ30円、つまり月間500kmを走るのであれば1500~2150円のコストでBEVを運用できることになる。この程度の月間走行距離であれば、ZESP2でさえコスト高に感じたことが納得いただけるだろう。

しかも、現在はZESP2のようなユーザーにうれしいプランは存在しない。急速充電での運用を前提とすることは絶対的なランニングコストを上昇させ、さまざまな待ち時間が発生するなどストレスフルなソリューションになってしまう。一方、自宅でクルマを止めている間に普通充電するのであれば急速充電に関するコストやストレスと無縁となる。

急速充電はどうしようもなくなったときのエマージェンシーとして捉えて、普通充電(基礎充電)だけでBEVを運用することを考えると、フィアット500eの持つ急速充電に関する課題は無視できる。

個人的には普通充電ポートが右リヤフェンダーにあることも重要な条件だった。ドライバーが降りて充電プラグを刺すといった動線においてスムースなレイアウトだと考えているからだ。じつは、そうした動線を意識して、自宅駐車場に普通充電器(6kW)を設置していた。フィアット500eの充電ポートが右リヤフェンダーにあることも、愛車として迎え入れることにつながった。

フィアット500eの普通充電は5段階の速度が選択できる。速度を抑えれば、家庭での使用量が増える時間帯であってもブレーカーが上がることはないだろう。

オープンドライブの楽しめるBEVは貴重な存在

フィアット500eオープンは実質的にキャンバストップだが、BEVならではの静粛性と開放感が同時に味わえる貴重な一台。

フィアット500eを選んだもうひとつの理由は、「オープンボディ」が用意されていること。オープンといってもリヤウインドウまで開く巨大なキャンバストップといった構造だが、BEVの静粛性とオープンドライブを同時に楽しめるのは貴重な存在であることに違いはない。

振動やノイズはもちろん排ガスを出さないBEVで楽しむオープンドライブへの憧れと期待が、フィアット500eオープンを選ばせたのだ。また、今回中古車で探したのは、現行モデルではキャンバストップに”FIAT”のロゴが入ってしまうのだが、2024年以前のモデルに採用されている無地のブラックキャンバスのほうが、セレスティアルブルーというイメージカラーには似合うと個人的に感じていることが理由。

なにしろ、希望通りの個体が見つかったときには実車確認してすぐに契約したくらいの惚れ込みぶりだった。

そんなフィアット500eとのカーライフにおける気付きや、リアルワールドでの電費などについて、折を見てご報告していきたいと思っている。どうぞご期待ください!

エコドライブモードの「SHERPA」を選ぶと満充電で300kmを超える航続可能距離が表示された。

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…