ヘリコプターの能力の第一は垂直離着陸が可能な点にあると思う。長い滑走・着陸距離を必要とせず、極端にいえば滑走路もなくていい。空中で静止可能な飛行特性は、より多様な活動を行なうことができる。が、固定翼航空機と比べて飛行速度が遅い点が短所だ。
オスプレイはヘリ(回転翼機)と固定翼機の能力を併せ持つ。ヘリの短所である足の遅さを解決したメカだ。オスプレイは「ティルトローター機」に分類され、プロペラに似た「ローターブレード(回転翼)」を傾ける(ティルト)ことで垂直離着陸を行ない、水平飛行では高速性を発揮するものだ。ティルトローターはヘリの未来形と見ることができるかもしれない。実際、米軍はH-60ブラックホークヘリの後継にティルトローター機を想定している。
ティルトローターという機構は独特だ。V-22オスプレイは主翼の左右両端にエンジンと、これに接続したローターブレードを持っている。このエンジンとローターごと角度を変えて飛行する方式だ。
エンジンを内包したナセルは約90度の範囲で可動、水平から垂直位置まで動くものだ。ナセルを垂直位置にすると回転翼機モード(ヘリコプター・モード)となり、ヘリ同様に垂直離着陸やホバリングができる。ナセルを水平位置にすれば固定翼機モード(エアプレーン・モード)となり、固定翼機と同等の速度で飛行できる。この可変機構がティルトローターの要になる。ちなみに垂直離着陸でなく、短距離離着陸(STOL)をする場合、ナセルの固定角度を斜め前方約60度に固定して行うそうだ。ナセルの角度調整は自動と手動の切り替えが可能で、双方自在に変化させられるという。
オスプレイの固定翼機モードでの最大速度は約565km/hだ。陸自の輸送ヘリCH-47JAの最大速度は約270km/hだから、倍以上の高速性を持つ。そして巡航速度は約463km/hで、これは固定翼の連絡偵察機LR-2の巡航速度約440km/hを上回る。さらに航続距離は約2600kmもある。航続性では格納式の空中給油プローブを使って空中給油を受ければ距離や滞空時間の延長も可能だ。つまりオスプレイのウリは高速性にあるわけだ。
次に積載性。貨物積載量は約9トンあって、ここに人員ならば24名を収容して運ぶことができる。とはいえ機内は狭く、CH-47JAのように高機動車などを積み込むことはできない。輸送ヘリのような積載性はなく、ありていにいえば人しか運べないのがオスプレイだ。
これではオスプレイが運ぶ陸戦力(人員)の降着後の機動性に欠けるから「汎用軽機動車」というATVを陸自は導入した。汎用軽機動車はオスプレイの機内に収容可能なサイズで、搬送する人員のための足の一部・地上輸送力の一部としている。本車は陸自水陸機動団に配備されているという。
水陸機動団とは陸自版海兵隊と呼ばれる部隊だ。水陸両用戦、つまりは島嶼防衛専門部隊といえる。水陸機動団は水陸両用車AAV7で上陸戦などを実施するが、オスプレイで現場への高速進出も行なう。水機団とオスプレイが組み合わさることで、人しか運べないオスプレイの短所は長所へ転換される目論見だ。
とはいえ占拠地にまつわる攻防や奪回がそう易々と運ぶわけがないのは我々にも想像がつくこと。同時に、オスプレイのヘリ同様の飛行特性や高速性、航続距離の長さは、離島地域にあって光るものだ。加えてティルトローターの能力は離島地域にあっては特に人員輸送や救難活動、急患や傷病者の航空輸送などの活用も十分期待できる。
陸自のV-22オスプレイは九州・佐賀空港を配備先として目されたが現在、暫定配備先の木更津駐屯地(千葉県)に置かれている。オスプレイを運用する輸送航空隊第107飛行隊・第108飛行隊の2個飛行隊を陸自は作り、17機のオスプレイを使う予定で飛行訓練を重ねている。
佐賀空港への本来の配備計画は難航しているようだ。政府と県レベルでの合意は見られたはずだが、地権者である漁業者との合意の進展は聞こえてこない。空港に近い有明海苔で有名な地元の町を歩くと「オスプレイ反対」などの幟旗が林立する地域もあった。いわゆる平和活動家などと呼ばれる人々が外部から流入していることを指摘する地元海苔業者もいた。賛否で別れ、平和活動が喧しい日本の各地の様相と同じように筆者には感じられた。
佐賀空港は水陸機動団が置かれている長崎県の各駐屯地と近いといえる位置にあり、本来なら軍事合理性の面では自明のはずだが、難しい。木更津へ配備された2020年時点での暫定配備期間は5年以内とされたが、その後の動向はよく見えない。