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日本には導入されないCX-50とは?
突然ですが「カリフォルニアロール」というお寿司をご存じでしょうか。太巻きの巻き寿司で、サーモンやアボカド、キュウリ、そしてカニやカニカマ、時にはチーズを巻くこともあって、裏巻き(海苔の外側にシャリが巻かれる)としているのも特徴。その理由は海苔に馴染みのない外国人でも食べやすくするためなのだとか。発祥は日本ではなく、名前の通りアメリカ・カリフォルニア。寿司だけど日本発ではない、アメリカナイズされたお寿司なのです。
マツダが北米専用車として販売している「CX-50」に北米で試乗して思ったのは、まさにカリフォルニアロールのような存在だってこと。日本車だけど、現地アメリカに最適化された開発が随所に感じられるモデルだったのだ。
日本で全く馴染みのないモデルなので概要を説明しておくと、プラットフォームなどは「マツダ3」や「CX-30」と同じ“スモールアーキテクチャー”を土台とする構造。生産は、日本からの輸出ではなくアメリカのアラバマ州にマツダとトヨタの合弁で新設された「Mazda Toyota Manufacturing U.S.A.」でおこなわれる。
今年1月末から生産が始まり、6月末の開所式を経て本格稼働となった7月はじめからは生産ペースもアップ。フル稼働となる年内には北米向け「カローラクロス」を生産するトヨタが15万台/年、マツダがCX-50を15万台/年の規模まで拡大することを見込んでいるそうです。つまり、CX-50は北米市場で毎月1万台ちょっとの販売を見込んだモデルと言うわけだ。
そんなCX-50のアメリカらしい部分は、なんといってもボディサイズ。なかでも全幅。1920mmもあるわけで、Dセグメントでこのサイズは日本ではちょっと考えられない。全長4719mmの全長も、ライバルとなるトヨタ「RAV4」やホンダ「CR-V」より10cm以上長いけれど、まだ理解できなくはないし、日本でも問題ない範囲だろう。しかし、1920mmの全幅は完全に日本車離れしていて、前出のライバルより5cm以上ワイド。日本向けの最新モデルであるCX-60よりも広いこの全幅はさすがに国内では広く受け入れられないだろう。ある程度全幅のあるクルマが好まれる現地向けの専用車と割り切ったことで実現できたというわけだ。
そして、CX-50において何よりの魅力と言えるのが、そのワイドボディ(とCX-5より約7cm低い1623mmの全高)が生み出す平べったいプロポーション。理屈抜きにカッコ良く、ひと目惚れを避けられないそのカッコ良さだけでCX-50が欲しくなってくる。大胆なフェンダーの張り出しを見ていると、クルマはやっぱりワイド感が大切だな……と思わずにはいられない。
ちなみに現地で1週間ほどのロング試乗をしたのだが、当然ながらワイドな全幅で困ることは一度もなかった。ロサンゼルスなど大都市の駐車場でも広いスペースが確保されている。さすが日本の25倍の国土を誇る国だし、クルマ好きとしてはそんな環境がちょっとうらやましい。
きっと日本ではその車体サイズだけで拒絶反応を起こす人も少なくないだろう。それは「お寿司にアボカド!? チーズ?」というカリフォルニアロールと一緒である。食文化もクルマ文化も、やっぱり地域ごとに事情が違うのだ。
パワーの出方やハンドリングの味付けも北米流
実は、走りにおいても日本のマツダ車とは印象が違う部分があった。まずは主力となるのがディーゼルでもガソリン自然吸気でもなくガソリンターボエンジンだということ。エンジンは全車排気量2.5Lのガソリンで自然吸気とターボが用意される(いずれも「CX-8」などで日本でも展開されている)が、現地で試乗してみるとこのターボエンジンが好まれる理由がよくわかる。
現地ではフリーウェイに合流する際の加速の力強さが求められる(日本と違って一気に加速して本線の流れに乗るからトルクがあると運転しやすい)が、低回転域のトルクが豊かなマツダの2.5Lターボは最高にマッチングがいいのだ。
いっぽうでこのターボエンジンは高回転の元気がなく、日本でインプレッションをすると「軽快さと盛り上がりに欠けるエンジン」となるのだが、アメリカの多くのユーザーはそこを気にしないので問題ないのだろう。低回転トルクこそが正義なのである(だから実用トルクの豊かな大排気量エンジンが好まれる)。
また、ハンドリングも日本のマツダ車とは少し印象が違った。ハンドル切りはじめのクルマの反応をシャープにしているのが日本のマツダ車の定番だが、CX-50はそのあたりが穏やかなのだ。この乗り味はどこかで体験したのと似ているな……と思ったら、最新のCX-5に追加された新グレード「フィールドジャーニー」に近い感触だ(ということは「フィールドジャーニー」は“ちょいアメリカン”だったのか?)。
実はCX-50とCX-5「フィールドジャーニー」には共通点があり、それはオールシーズンタイヤを履いていることだ(フィールドジャーニー自体は日本向けだが履くタイヤは北米向けCX-5と同じもの)。オールシーズンタイヤはサマータイヤよりも柔らかく、それに合わせたサスペンションやパワーステアリングの味付けが、両者で同じ方向というわけだ。
ただ、ハンドリングがよくないかといえば決してそんなことはなく、曲がりはじめこそ穏やかだが、旋回中の安定感は高く、タイヤの接地性が高くて舵角がしっかりと決まるから旋回中の修正舵が少ないなどマツダの美点はしっかり貫かれているし、なにより運転していて楽しいのはさすが。これはCX-5フィールドジャーニーのオーナーなら強く実感していることだろう。むしろ「やりすぎ」なくらいのほかのグレードに対し、フィールドジャーニーやCX-50のほうがちょうどいい。
室内の広さや実用性は?
率直にいえば「CX-5よりもちょっと広い。後席も荷室も」といったところ。車体サイズのわりに広くないように感じるのは、ワイドなフェンダーを優先して左右ピラー間の距離はCX-30とそう変わらないなど「実用性よりもデザイン性」に振っているため、さらに、今後登場予定の兄貴分「CX-70」との差別化をしっかり考えているからかもしれない。
いずれにせよ、CX-50はとても魅力的なクルマで、なによりワイドで天井の低いプロポーションだから成し得た北米向けならではのデザインは素直に欲しいと思うほど。デザインだけでいえば、日本向けの最新モデル「CX-60」より魅力的に思う。
いっぽうで1920mmという全幅を考えると「日本で乗りたい」なんて軽口は間違ってもたたけない。でも東京あたりではほぼ同じサイズのポルシェ「マカン」をたくさん見かけるので、自宅駐車場さえなんとかなれば意外といけちゃうのかもと思うのもまた事実。トヨタ「ランドクルーザー」よりはひとまわり小さいし。
日本へ逆輸入された当初は「こんなのお寿司じゃない!」なんて言われたカリフォルニアロールも、今では市民権を得ている。もしかするとCX-50だって……価格次第では一定の需要があるかも。もちろん、日本で爆発的に売れる…なんてことはないだろうが、実車を見て魅力的なデザインを知ってしまうとクルマ好きとしては「ちょっと無理してでも欲しい」という気分にはなってくる。
マツダ CX-50 2.5T PREMIUM PLUS PACKAGE(北米仕様) 全長×全幅×全高 4719mm×1920mm×1623mm ホイールベース 2814mm 駆動方式 四輪駆動 サスペンション F:マクファーソンストラット R:トーションビーム タイヤ 245/45R20 ホイール 20×8J エンジン 水冷直列4気筒DOHCツインスクロールターボ 総排気量 2488cc 最高出力 256hp/5000rpm(Premium 93 octane) 最大トルク 320lb-ft/2500rpm(Premium 93 octane)